悪魔の吐きだめ

映画とかドラマとかのことを書いてます。

2020年8月の記録

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少し遅くなってしまったが8月の記録。

相変わらず夏を感じないまま終わった8月だった。
家で仕事をしている時は殆どラジオを流したままにしているのだが、そんな時にふと耳に入ってきたのが「リュックと添い寝ごはん」というバンドの“生活”という曲だった。邦楽のインディーズバンドにはまるで疎いのだが、聴いた瞬間に完全に刺さってしまった。サビのメロディーラインといい、少々拙いようなボーカルの声といいなんだか胸の奥がむず痒くなるような気持ちが押し寄せてきて、家の中で“あの頃の夏”を思い出して涙ぐんでしまった。

調べてみると、なんと彼らはまだ高校を卒業したての若干18歳だった。瑞々しさはここから来たのかと思い納得してしまった。ここ最近メジャーデビューが決まったとのことで、この衝動がいつまでも消えないでいて欲しいと願うばかり。若気の至りよ永遠なれ。


休日に出掛けた際に道中の電車で、最近復刊となった群ようこの「鞄に本だけ詰めこんで」を読む。読書エッセイとして面白いのだが、その中で「猫が好き好きでたまらなくて、飼い猫の鼻とお尻の穴にムヒを塗ったことがある。」という話があって思わず車内にも関わらず吹き出してしまった。偶然にもその日、猫カフェに入ることになったのだが、その時にもずっとこの話を思い出していて笑いがこみ上げてカワイイーなんて思っているどころじゃなかった。
群ようこの独特の視点と文体がたちまち好きになって、続けて「ネコの住所録」という動物エッセイ集を読むがやっぱり面白かった。

鞄に本だけつめこんで (新潮文庫)

鞄に本だけつめこんで (新潮文庫)

  • 作者:群 ようこ
  • 発売日: 2020/03/28
  • メディア: 文庫
 
ネコの住所録 (文春文庫)

ネコの住所録 (文春文庫)

 


あと、本屋でほぼジャケ買いに近い形で衝動買いしたのがナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー著の「フライデー・ブラック」。ニューヨークタイムズなどで絶賛されたアフリカ系アメリカ人の描くブラックユーモアに溢れた短篇集で、読んでいて思い起こしたのはジョーダン・ピールの「ゲット・アウト」やドナルド・グローバーの「アトランタ」、「ホワイト・ボイス」、「ブラック・ミラー」など。この辺が好きな人には是非お勧めしたい皮肉に溢れた一冊。

フライデー・ブラック

フライデー・ブラック

 


映画館に行った回数は相変わらず0。旧作ばかり観ているが、その中で特に良かった作品はジェームズ・ワンの「デッド・サイレンス」とタイカ・ワイティティの「ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル」。

「デッド・サイレンス」は、なんで今まで未見だったのかと我が身を疑うような傑作で、「ソウ」から「インシディアス」、そして「死霊館」へと変遷を遂げる過程でのワンのフィルモグラフィーとして欠かすことができないであろう一本。この先のあらゆる片鱗が見える傑作。
「ハント〜」は、所詮ワイティティでしょ?と舐めると痛い目を見る佳作で、少年目線の冒険譚が話が進むにつれてスケールが大きくなっていく展開がお見事。後の傑作「ジョジョ・ラビット」へ繋がる要素も多し。「シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア」や「ソー:ラグナロク」よりも遥かに面白いのは間違いない。


8月に鑑賞したドラマは「アンブレラ・アカデミー」シーズン2。相変わらず話の展開が強引なのだがキャラクターが魅力なので許せてしまう。特に、シーズン1からずっと言っているが5号ことエイダン・ギャラガー君の成長にはこれからも期待したい。

リース・ウェザースプーンとケリー・ワシントン主演のリミテッドシリーズ「リトル・ファイアー」は、前半はなんてことないメロドラマで、「ビッグ・リトル・ライズ」にも似てるな〜なんて思っていたが、それよりも更に範囲は狭く、2家族間の人間にだけスポットを当てたドラマで、子供も含めてドロドロに乱れて交錯する展開が面白かった。残念ながら先日亡くなったリン・シェルトン監督の遺作となってしまった今作だが、彼女がエミー賞で監督賞にノミネートされた最終話は凄まじいパワー(というか怒鳴り合い)が炸裂していた。

そんな中でも特に優れていたのは、Netflixのリミテッドシリーズ「アンビリーバブル」。

トニ・コレット、メリット・ウェバー、ケイトリン・ディーヴァーの役者陣の演技、演出、脚本すべてが最高峰。リミテッドながらこのクオリティを保ち続けたエピソードと、アメリカの闇を突きつけるテーマ性といい、とんでもないドラマを観てしまったという感想。内容が内容だけに気軽に勧められるドラマではないが、近年稀に見る傑作としてぜひ一人でも多くの人に観てほしいと思うシリーズだった。

2020年7月の記録

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とにかく暗い7月だった。外出もできなければ、そのうえ梅雨も一向に明けず、まさに負の連鎖のごとく気が滅入る日々。

家にいる時間も多くなれば必然的に未見・未読のコンテンツに触れることが多くなるが、それに加えてこれまで日常生活で最もムダな時間だと思っていた「通勤時間」が無くなって朝もギリギリまで寝てられるから、その分夜更かししてドラマなどを観ていられるのが嬉しい。あのストレスフルな空間に閉じこもって無我に過ごす時間がなくなったことに関しては、このコロナ禍において唯一のメリットだと思う。

 

そんな中我らが友(と勝手に呼んでる)エイサ・バターフィールドが自宅のオタ部屋&コレクションを公開するという大ニュース。自らのオタクっぷりを惜しみなく披露して好感度はますます爆上がりです。

緊急事態宣言が解除されて、ようやく映画館も再開したものの、やはりなかなか行く気にもなれず結局スルー。「WAVES」、「透明人間」、「はちどり」の3本は特に観たかったけど配信されるまで我慢。来月以降は楽しみにしてた「ブックスマート」と「Mid90s」のジョナ・ヒル兄妹の作品が続けて公開されるが・・・悩ましい。

 

今月の配信映画で素晴らしかったのは、特に2本。Amazonオリジナルの「ヴァスト・オブ・ナイト」とNetflixオリジナルの「ハーフ・オブ・イット」。


どちらもこれまで散々擦ってきた話であるものの、見せ方とかキャラの描き方でここまで面白く・新しくできるのかと唸ってしまう。


あと、こちらはレンタルで観たホラー映画「ザ・ロッジ」もとても良かった。監督は「グッドナイト・マミー」の人で、個人的に前作はオチが分かってからが退屈になってしまう映画だったのだが、今作では“オチ”が分かってから映画のテンションがガンガン上がっていく。カメラワークも異常だし、とにかく凄いの撮ってやるぞ!という野心が演出から滲み出てるのがいい。そして主演のライリー・キーオがヤバい。


ドラマシリーズでは、めちゃくちゃピュアなラブストーリー2作「フィール・グッド」と「ノーマル・ピープル」が傑作。

「フィール・グッド」は基本的はコメディなので笑いながら楽しめるが、「ノーマル・ピープル」は毎話30分の中にグサグサと観る者の心を刺してくる。高校卒業から大学院までの人生を断片的に描いており、回ごとに年が進むためまるで章立ての小説を読んでいる気分になる。


このほかに、アメリカでは一昨年終了したジェイソン・ライトマンがプロデュースする「カジュアル」全4シーズン分を観了。ライトマンの作品には“場を台無しにするヒロイン”が登場するのだが、それは今作でも健在。ここぞというところで関係や周囲をブチ壊していく。そのヒロインを演じるのがミカエラ・ワトキンズなのだが、この方これまでは脇役でよく見かける&顔つきのせいかちょっと意地悪な上司役みたいな役柄が多いのだが、今作では寂しげで自己中なバツイチ女性のキャラクターがハマっている。元はコメディアンだけあって笑いのセンス、というか“間”が絶妙で、彼女のおかげでドラマの質が上がってることは間違いない。最終話付近はちょっとホロリとさせられるし、あんまり認知されてないのがもったいないドラマの一つかと。


読書。ポール・オースター「ブルックリン・フォリーズ」でニューヨークに憧れて、スティーヴン・キングミザリー」で夏はやっぱりキングだなとしみじみ思い、岬書店「ブックオフ大学ぶらぶら学部」で久々にブックオフに行きたくなる夏。

ミザリー (文春文庫)

ミザリー (文春文庫)

 
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)

ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)

 

 

 

第72回エミー賞のノミネートについての雑記

今年の第72回エミー賞のノミネートが発表されたので、それについての雑記。

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●作品賞
Outstanding Comedy Series
Curb Your Enthusiasm • HBO 
Dead To Me • Netflix 
The Good Place • NBC 
Insecure • HBO
The Kominsky Method • Netflix
The Marvelous Mrs. Maisel • Prime Video 
Schitt's Creek • Pop TV 
What We Do In The Shadows • FX Networks

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個人的に嬉しいのが「デッド・トゥ・ミー」の初ノミネート。よく出来たドラマかというとちょっと違うと思うけど、s1に比べてメロドラマからよりサスペンス色が強くなってテンポも格段に良くなった。
なんだかんだで「インセキュア」も作品賞としては初ノミニー。いつになったらAmazonで配信再開するのやら。
「グッドプレイス」は去年だったらまだ可能性あったけど、正直今年のファイナルシーズンはエピローグ感が強くて従来の面白さの半分以下だった印象。
となると、やっぱり本命は「マーベラス・ミセス・メイゼル」か?
ここ最近の「シッツ・クリーク」の勢いがすごくて特に今回ファイナルシーズンとなるとそのままの勢いで受賞もあり?たしかにドラマ自体も初期頃に比べても面白くなりつつある。
「ラリーのミッドライフクライシス」、「コミンスキーメゾッド」に関してはノーコメントで。

 

Outstanding Drama Series
Better Call Saul • AMC 
The Crown • Netflix
The Handmaid's Tale • Hulu
Killing Eve • BBC America
The Mandalorian • Disney+
Ozark • Netflix 
Stranger Things • Netflix 
Succession • HBO 

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ベテラン勢が揃い踏みという印象のドラマ部門。
個人的にはシリーズ史上最高の出来だった「ベター・コール・ソウル」を推したいけど、監督賞も主演男優賞も選ばれてないんだなこれが。今年も無冠の帝王になるのか。
「クラウン」はアン女王ことオリヴィア・コールマンを迎えるもドラマとしては、ややまとまりに欠けた印象。
「キリング・イヴ」もs1以降観れてないけど、今季s3は今までと比べると評価はそこまで高くなかったんじゃないかな。
そしてここに来ての「マンダロリアン」。入る教室間違えたんじゃない?って感じの異様さ。
ストレンジャーシングス」はみんな大好きだからまあ置いておいて。となると本命は「サクセッション」か。s2めちゃくちゃ面白かったし。
えーと、「オザーク」はもういいよね?エミー会員にジェイソン・ベイトマンファンが多すぎる問題。

 

Outstanding Limited Series
Little Fires Everywhere • Hulu
Mrs. America • FX Networks
Unbelievable • Netflix 
Unorthodox • Netflix
Watchmen • HBO 

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「リトル・ファイアー」はスルー予定だったけど、作品賞にノミネートされるとなると無視できない。山Pのドラマで忙しいHulu Japanの代わりに日本ではAmazonで配信中。
「Mrs.アメリカ」は早く観たいんだよなぁ。日本になかなか入ってこない局No.1はFX系列なんじゃないか。
リミテッドシリーズが十八番のHBOが「ウォッチメン」一作のみという今年。「ビッグ・リトル・ライズ」は(ひんしゅく買いながら)リミテッドからシリーズ化したし。まぁ「ウォッチメン」こそ今年の大本命なのでこの一本でも十分か。
ただ個人的には「ノーマルピープル」の落選が納得いかない。
Netflixからは「アン」2作がノミネート。未見。


●主演男優賞
Outstanding Lead Actor In A Comedy Series
Don Cheadle・Black Monday • Showtime
Anthony Anderson・black-ish • ABC
Ted Danson・The Good Place • NBC 
Michael Douglas・The Kominsky Method • Netflix
Ramy Youssef ・Ramy • Hulu 
Eugene Levy・Schitt's Creek • Pop TV 

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全員が同作で2回以上ノミネートされてるから(アンソニー・アンダーソンに至っては何度目だよ)これまでと代わり映えしないノミネートという印象。個人的には「ラミー」を推したいところ。おじいちゃんたちは若手に道を譲りなさい。

 

Outstanding Lead Actor In A Drama Series
Steve Carell・The Morning Show
Jason Bateman・Ozark • Netflix
Billy Porter・Pose • FX Networks
Brian Cox・Succession • HBO
Jeremy Strong・Succession • HBO 
Sterling K. Brown・This Is Us

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驚くべきはボブ・オデンカークのまさかの落選!ここに来て初か?自分の尿まで飲んで頑張ったのに…(あくまで劇中)さらにキム役のレイ・シーホーンすらも助演スルー。なんだこの「ソウル」の冷遇されっぷりは…
その代わりに「サクセッション」から2名ノミネート。これは納得できるけど、だったら別にジェイソン・ベイトマンがいらないんじゃ…(以下略)
スティーヴ・カレルが久々にコメディに復帰した「スペース・フォース」は目も当てられないほど酷かったので、またカレルはまたドラマに戻っちゃうんだろうなと思う「モーニングショー」でのノミネート。作品賞はスルーされたもののキャストと監督ミミ・レダーがノミネートされてる。
「ディス・イズ・アス」もここ最近じゃスターリング・K・ブラウンのノミネートだけになってきた印象。


Outstanding Lead Actor In A Limited Series Or Movie
Hugh Jackman・Bad Education • HBO 
Jeremy Pope・Hollywood • Netflix
Mark Ruffalo・I Know This Much Is True • HBO
Paul Mescal・Normal People • Hulu
Jeremy Irons・Watchmen • HBO 

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はい、ここはもう「ノーマル・ピープル」のポール・メスカル君推しで。

「ハリウッド」のドラマ自体の評価は低いが、ノミネートを見る限りキャストについては高評価な印象。


●主演女優賞
Outstanding Lead Actress In A Comedy Series
Tracee Ellis Ross・black-ish • ABC
Christina Applegate・Dead To Me • Netflix
Linda Cardellini・Dead To Me • Netflix
Issa Rae・Insecure • HBO
Rachel Brosnahan ・The Marvelous Mrs. Maisel • Prime Video
Catherine O'Hara・Schitt's Creek • Pop TV 

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男優部門より遥かに見所のある女優賞のノミニー。「デッド・トゥ・ミー」からクリスティーナ・アップルゲイトに続いてリンダ・カルデリーニがノミネート!めでたい!


Outstanding Lead Actress In A Drama Series
Olivia Colman・The Crown • Netflix
Zendaya・Euphoria • HBO
Jodie Comer・Killing Eve • BBC America
Sandra Oh・Killing Eve • BBC America
Jennifer Aniston・The Morning Show • Apple TV+ 
Laura Linney・Ozark • Netflix

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女王オリヴィア・コールマンを迎え撃つゼンデイヤ!という構図が生まれてしまうのがエミーの面白いところ。たしかに「ユーフォリア」のダウナーな演技は最高だった。(ドラマ自体は後半微妙)

やっぱりここは「キリング・イヴ」が強いのかな。


Outstanding Lead Actress In A Limited Series Or Movie
Kerry Washington・Little Fires Everywhere • Hulu
Cate Blanchett・Mrs. America • FX Networks
Octavia Spencer・Self Made: Inspired By The Life Of Madam C.J. Walker • Netflix
Shira Haas・Unorthodox • Netflix
Regina King・Watchmen • HBO 

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こっちもこっちで、ベテラン勢が揃う中に新星シーラ・ハース。「アンオーソドックス」も観ておかないとなぁ。

青春映画の新たな傑作「ハーフ・オブ・イット」

Netflixオリジナル映画(実際にはオリジナルではないのかな?)の「ハーフ・オブ・イット」が、近年稀に見るめちゃくちゃ良くできた青春ラブコメディ映画だった。従来のラブコメや学園映画の定石を踏みつつ、新たな視点をミクスチャーしたことで、とても新鮮に感じる作品なのだ。

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物語は、アメリカのとある田舎町に住む高校生の主人公エリーがアメフト部のポールから、彼が憧れる学校イチの美女アスターに宛てたラブレターの代筆を頼まれるところから物語が始まる。エリーには文才があるのだが、スポーツマンのポールはまるでダメなので、ラブレターから文通、さらにメールのやり取りになってもエリーに代理になってもらうのだが、ポールの振りをしたエリーとアスターが通じ合うようになり…というストーリー。

序盤のいわゆる“サエない女子”が男子を応援していく「よくある」展開になるかと思いきや、エリーの秘めた気持ちから起きるツイストが見事で、徐々に気持ちが入り乱れる3人の関係性がすごく面白い。

特に中盤のダイナーのシーンが素晴らしくて、ポールとアスターのデートをエリーが外から見守っているのだが、話の噛み合わない2人にエリーがメールでポールの振りをして助け舟を出し、メール上で会話が盛り上がるものの張本人のポールは蚊帳の外、という構図も笑えるし、エリーとアスター、エリーとポールそれぞれのメッセージのやり取りが、画面の左右に映し出される演出もうまく(ここでのメッセージ内に絵文字を使う・使わない問題も後になって効いてきてくるからさらに感心する)、まさにキャラクターとその関係性を現す演出が阿吽の呼吸でガチッと嵌った秀逸なシーンだ。

また、「よくある」にならないのはキャラクター描写もそうで、ポールのキャラはいわゆる“JOCKS”かと思いきや、実はものすごく良い奴で人種で揶揄われるエリーをかばうし、彼自身もアメフト部のスターというわけでなく補欠だったりする。アスターも学校のヒエラルキーでは上位に位置するけど自分の居場所に悩んでいたり。そんな「よくある」じゃない3人が、終盤で図らずも「よくある」を迎えてしまうからこそすごく泣ける。これぞ青春映画と唸ってしまう。


3人の人種の違いや同性愛についての描かれているけど、今作ではそれらが重要な要素だとか、それだけにフォーカスして語るべき映画では無いと思っていて、何より作品の「面白さ」というのはキャラクターと物語、これに尽きるなとしみじみ思ってしまった。一言で言えば、傑作。万人にお勧めしたい素晴らしい映画だった。

恋愛と依存についての自伝的コメディドラマ「フィール・グッド」

今年Netflixでスタートした「フィール・グッド」を鑑賞。近年でもかなりピュアでシンプルなラブストーリーだった。

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アメリカのドラマには、「スタンダップコメディアン自らの悲喜交交の体験談をドラマにしました。」というジャンルがある。ジェリー・サインフェルドの「となりのサインフェルド」やルイスC.K.の「Louie」、最近ではピート・ホルムズの「クラッシング」、ティグ・ノタロの「ワン・ミシシッピ」などがあり、今作「フィール・グッド」もその一つ。実際にスタンダップコメディアンとして活躍するメイ・マーティン自らの実体験を描いたドラマだ。

ステージに立つメイは、いつも彼女のステージを最前列で鑑賞しているジョージと付き合いはじめる。この2人の恋愛関係がドラマの軸となるのだが、夢中になると一直線のメイが好きになる相手は、性別を問わない。対するジョージはこれまで異性としか恋愛経験がなく、はじめてのメイとの恋愛に戸惑う。

昨今LGBTのラブストーリーは珍しくないが、好きになる性別を問わないメイというキャラクターと、セクシャリティを重要視するジョージというキャラクターの関係性の描き方は新しく感じる。

さらに、実はメイは薬物に依存していた過去があり、依存対象がドラッグから恋人に変わっただけではないかという事実に直面する。

そんな2人の会話や周囲に対する態度などのちょっとしたすれ違いの拾い方が丁寧で、特にラスト2話のお互いの気持ちをぶつけるシーンにはホロリとさせられる。

「LGBTQの恋愛」という前置きは置いておいて、何よりも「好き」という気持ちを知るカップルのピュアな恋愛模様として、そしてウィットに富んだ台詞が飛び交う非常に良質なコメディドラマとして多く人に観てほしい一本。

 

ちなみに彼女のスタンダップコメディの舞台は、同じくNetflixの「世界のコメディアン」というシリーズで観ることができる。彼女がいかに「依存」してきたかが面白おかしく語られるので合わせて観るのがオススメ。

Amazonが放つデジタルネタ満載のコメディドラマ「アップロード」

5月から配信がスタートしたAmazonのオリジナルドラマシリーズ「アップロード〜デジタルなあの世へようこそ」。副題からもわかるようにデジタル化された“あの世”を舞台としたコメディドラマである。

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物語は、死んだ人々の記憶をデジタル化してクラウド上にアップロードし、その仮想現実の世界で住むことができるようになった近未来が舞台。交通事故により、自らの意思に反して仮想現実にアップロードされてしまった主人公のネイサンが、死後のデジタル世界での生活に葛藤するようすと、自らの死に追い込んだ人物を探るサスペンスを織り交ぜたドラマである。


ただ、近年似たドラマは既にいくつか存在しており、近未来を舞台としたアイロニックなSFアンソロジー「ブラックミラー」の中のエピソード「サンジュニペロ」でもデジタル化された死後の世界が描かれていたし、コメディドラマ「グッド・プレイス」でも何でも望みが叶う天国を舞台としていた。そのため、今作「アップロード」のあらすじを聞いてもあまり目新しさは感じないかもしれない。(視聴者の目が肥えるとは恐ろしいことだ)


しかしそれを以ってしても、このドラマには多くの魅力がある。死後デジタル化された人すべてが裕福な暮らしができるわけではないことを今作では描いている。富裕層であればリゾートのような仮想現実にアップロードされるものの、逆に貧困層は容量制限がかけられた質素なアパートのような中に入ることになる。容量が少ないと電話や思考するだけでギガを使い果たして月末まで機能停止してしまったり、さらにお金がない人は読書もゲームも無料版や試供品のコンテンツしか使う事ができない。(本も冒頭の5ページしか読む事ができないため、ハリーポッターが魔法使いだと分からないままでいる少年の描写が秀逸だ)
他にも、仮想現実の世界では、1回興味を示しただけで煩いほどにリターゲティングの広告に追い回されたり、建物に入るために複数のパネルから信号機の画像を選ばないといけないなど、インターネットユーザーであれば誰もが感じたことがある「あるある」が擬人化・具現化して描かれているため笑ってしまう。


また、もう一つ注目したいのが今作のショーランナーを務めたのが、アメリカで大人気だったコメディ「The Office」や「Parks and Recreation」を手掛けたヒットメイカー、グレッグ・ダニエルズであるということだ。

実は先に類似作品として挙げた「グッド・プレイス」のショーランナーのマイケル・シュアは「Parks and Recreation」でダニエルズとともに共同でショーランナーを務めていた仲であった。「Parks」以降でそれぞれ別の道を進み始めた2人は、シュアは「グッド・プレイス」、ダニエルズは「アップロード」とそれぞれ脚本を同時期に進めていながら、お互いのアイデアは口にしなかったという。そんな中で「グッド・プレイス」がスタートし、ヒットしている中で先を越されてしまったダニエルズは相当悔しかったに違いない。

【製作秘話】Amazonドラマ『アップロード』設定は30年前に作られていた。『グッド・プレイス』との意外な関係も【アップロード ~デジタルなあの世へようこそ】VG+ (バゴプラ) | VG+ (バゴプラ)

そしてこの裏話が、「アップロード」の物語で描かれる主人公のネイサンが、競合となる仮想現実を作り上げてライバルから命を狙われるという展開と奇しくも重なるのも面白い。

とはいえ、ファンタジーとしての天国と善行についての哲学を描いた「グッド・プレイス」と、デジタル世界における人間の価値を描いた「アップロード」は両者それぞれに異なる魅力があると思う。


ダニエルズにとっては今作が「Parks and Recreation」以来5年振りの新作となったが、続けて今月5月末にはさらに新作のコメディシリーズ「スペース・フォース」がNetflixでスタートする。「The Office」のスティーヴ・カレルと再びタッグを組み(カレルは共同ショーランナーも務める)こちらも楽しみである。

2019年 映画ベスト10

毎年恒例の今年劇場公開された映画の年間ベスト10。

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第10位「ファイティング・ファミリー」

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ティーヴン・マーチャントが「ジ・オフィス」の放送から20年近く経ってもなおも描き続けるのは“人生を諦めた者の物語”。WWEのオーディションに合格してプロレス女王を目指すペイジと、挑戦を続けるも一向に芽が出ない兄のザック。「ザ・ファイター」を彷彿とさせる兄弟のドラマとマーチャントの得意とする現実から抜け出せない焦燥感が合わさった秀作。


第9位「ラスト・クリスマス

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ポール・フェイグはやっぱりロマコメを描かせるとピカイチだ。ダメな主人公と完璧な王子様。彼女が困っているときに必ず彼は現れる。そしてその先に待つラストと共に流れるワムの「Last Christmas」で号泣。2010年代の最後にこんなにもオーソドックスで丁寧で美しいコメディが観れて本当に幸せだ。


第8位「マイ・ブックショップ」

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田舎町で本屋を開く女性を待ち受ける災難の数々。本がきっかけで救われる一方で、本がきっかけで窮地に陥る。その受難に耐え得る主人公演じるエミリー・モーティマーの姿が「奇跡の海」のエミリー・ワトソンと重なる。近年で特に田舎のヤダみが出ている一本でもある。


第7位「ホット・サマー・ナイツ」

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夏と90年代とティモシー・シャラメ。(加えてジョナサン・リッチマン)。この組み合わせだけで脳内は完全に気怠い夏休みに逆戻りだ。ティーン小説や青春犯罪映画をサンプリングしたダークなサマームービー。


第6位「アベンジャーズ/エンドゲーム」

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前作「インフィニティ・ウォー」の鬼畜なラストに「後編は不要」と思っていたが、ダークな展開になりそうなところを過去のSF映画を下敷きにした良い意味での“チープさ”が心地良い快作となっていた。今年はアベンジャーズだけでなく、スター・ウォーズゲーム・オブ・スローンズの10年代を代表するエンターテインメントが続けて終焉を迎えたが、最も成功した完結篇はエンドゲームだろう。


第5位「マリッジ・ストーリー」

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いつもノア・バームバックの映画を観ていると笑いながら泣きそうになるような不思議な感情になる。「500日のサマー」のように惚れてた仕草が憎らしく思うようなことはなく、何年も共にした夫婦にはお互いにお互いの好きな所はある、にも関わらず憎しみ合わないといけない辛さ。きっと今観て感じた面白さと何年後か経ってから観る時の印象は違うだろう。


第4位「フロントランナー」

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ジェイソン・ライトマンからの「ペンタゴン・ペーパーズ」に対する宣戦布告。計算された長回しとライティング効かせた陰のショットなど鳥肌の立つような美しいシーンとともに、猥雑な会話劇とキャストの見事なアンサンブル。シリアスとコメディが絶妙にマッチしたライトマン印の新しい傑作が誕生した。

 


第3位「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

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タランティーノの“タラれば”物語として今年一番でめちゃくちゃ楽しかった映画だった。周到にフラグを立てながら拍子抜けするような展開に爆笑しつつ、そこで明かされるタイトルの意味で鳥肌が立った。いつだってタランティーノは映画を信じ続けるのだ。

 


第2位「荒野にて」

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アンドリュー・ヘイが描いた無垢な少年が様々な人々と出会いな居場所を求める物語。主人公の行く先々で待ち受けるのは厳しい現実だが、それでも彼は自らの居場所を求めて進んでいく。大きな事件も展開もない映画であるのに、心の機微を丁寧に厳しくも優しい目線で捉えられ、荒野を進む1人と1匹の背中に見える孤独さに胸が何度も苦しくなった。

 


第1位「ハウス・ジャック・ビルト」

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元々高かった期待値を遥かに上回ったラース・フォン・トリアーの今作がやっぱり今年のベスト1位。モラルガン無視で突き進み、コメディからサスペンスまでジャンルを横断する凄さ。その先で主人公ジャックとトリアー自らを重ね合わせて過去の過ちを反省するのかと思いきや、開き直って自らをさらに地獄の底に突き落とす爽快さ。ただひたすらに最高だった。