悪魔の吐きだめ

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「THIS IS US」ファイナルシーズンを終えて

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6年間続いた「THIS IS US/ディス・イズ・アス」が遂に完結した。邦題にはサブタイトルに「36歳、これから」と付いているが、1シーズンで1年間が描かれるので、36歳だった主人公たちの年齢もファイナルシーズンには42歳になっていた。

なんで後先を考えずにこんな邦題を付けちゃったんだかなぁと思いながらも、6年間の彼らの人生を見てきたかと思うと感慨深くなる。

 

「THIS IS US」の面白さは、何と言っても典型的なファミリードラマでありながら、ミステリーの体裁をとっている点にある。

現代を生きるケイト、ケヴィン、ランダルの3人の兄妹それぞれの生活や悩みが描かれるとともに、彼らの過去(たまに未来)が交互に展開するのだが、同じ時代の話かと思いきや実は彼らの両親の話であったり、一見物語の本筋とは関係が無いように思えたキャラクターが思わぬところで主人公たちに繋がったりなど、視聴者を欺く見せ方がとても巧いのだ。

そういった伏線を回収していく面白さがありながらも、ドラマ要素の部分でも、各キャラクターたちの葛藤や決断、別れが濃密に描かれていて、このドラマを観ながら泣いた回数は数が知れないほどである。

 

そんなドラマがついにファイナルシーズンを迎えた。

3人の母親レベッカアルツハイマーを発症し、徐々に進行する病と介護に焦点が当てられる。

そういった状況の中で衝突、団結しながら乗り越える家族の姿に、後半のエピソードではほぼ毎回泣かされてしまうのだが、特に第17話“The Train”は屈指の名エピソードだった。

 

先が長くないレベッカは、生死の境を彷徨う中で、電車で旅に出る夢を見るのだが、車両を移動していくごとにこれまで関わった人物たちが登場し、彼らとの人生を振り返るという話でこの設定だけで泣けてしまうのだが、その中で既に劇中で亡くなったウィリアムとこんな会話を交わす。

レベッカ「これで終わってしまうなんて悲しいと思わない?」

ウィリアム「すべてのものは終わりを迎えるんだ。でも一歩だけ下がってみて、これまでの人生全体を振り返ると、終わりはそんなに悲しくないことが分かるはずだよ。だって終わりは、次に始まる美しいものの始まりなんだからね。」

 

このセリフには、レベッカの学ぶ死生観ではあるが、それとともに6年続いたドラマの終わりについての言及にもなっている。こんなに綺麗なまとめ方があるだろうか?本当に素晴らしいセリフだ。

 

「THIS IS US」は、巧みなストーリーテリングと愛すべきキャラクターのアンサンブルにより、かつてポピュラーだったアメリカの家族ドラマというジャンルを復権させた。

その中では、人種や移民の葛藤、アメリカの戦争の記憶までを100話を超えるエピソードで描かれた物語は多岐にわたる。

家族という社会規模で見れば小さなコミュニティを通して、アメリカを描いている。このテーマ性が根底にあるからこそ、単なる家族ドラマ以上の面白さが今作にはあったのだと思う。

タイトルにある「US」は「わたしたち」の意味以外にUnited Statesも意味する。「わたしたち」の物語は「アメリカ」の物語でもあるのだ。