悪魔の吐きだめ

映画とかドラマとかのことを書いてます。

映画の面白さを思い出させてくれた「NOPE/ノープ」

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ジョーダン・ピールの最新作「NOPE/ノープ」を観た。

ピールの初監督作の「ゲット・アウト」は楽しめたものの、2作目の「アス」があまり好きでなかったこともあり、正直今作もあまり期待はしていなかった。


しかし、完全に度肝を抜かれた。久しぶりに“映画”を観た、という興奮で圧倒されてしまった。


物語のテーマやメタファーについては、後からパンフレットやインタビューなどで知ったが、何よりも今作で夢中になったのはそこではない。映画の楽しさが詰まっていたからだ。

 

(以降、物語の展開に少し触れています)


主人公のOJ(ダニエル・カルーヤ)とエメラルド(キキ・パルマー)の兄妹は、自ら営む牧場でUFOらしき飛行物体を目撃する。そしてそれを撮影しようとする。


ここに至るまでの紆余曲折の話もあるのだが、シンプルにまとめればこういった話である。


兄妹は知り合ったカメラマンのや家電屋のアルバイトで即席の撮影チームを作り、「Gジャン」と名付けられた飛行物体をカメラに収めようとする。


このシーケンスの何が素晴らしいかを文字で語るほど野暮なことは無いので詳細は控えるが、普段であれば結成することも無さそうな面々が「即席」の「チームを結成する」というところが、まずアツい。


Gジャンを撮影するために彼らはカメラをセットし、スカイダンサーと呼ばれる風船式で動く呼び込みのマスコットを牧場内に配置。馬に乗ったOJが位置につく。そこで作戦の合図と同時に馬が走り出す。この瞬間、“映画”も動き出す。


それぞれが持ち場での役割を果たそうとするサスペンスと、俯瞰カメラのショットが上空からGジャンと主人公を捉え、そのままグッと地上に近づいていく大胆で豊かなカメラワーク、喰うか喰われるかの状況を盛り立てるフルオーケストラの劇伴、そのすべてが一体となって“映画のクライマックス”が最高潮に達する。


なんだろう、例えるならば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のクライマックスのような息を呑むサスペンスかつ完璧なハイライトで鳥肌が立ちっぱなしだった。


さらにこれだけで終わらないのが今作のスゴいところで、多くのリファレンスや張られた伏線の回収までも本当に見事である。


何よりも本当に豊かなショットに溢れていて、それらを全てを挙げるとキリがない。OJと馬の肩越しに上空を捉えた夜空の不穏さ、カメラが大きく空をパンすると雲の切れ間から時折覗くGジャンの壮大かつホラーなシーケンス、ジェームズ・ワンもびっくりな血塗れの雨が降りそそぐ屋敷のロングショット、窓越しに流れる血の赤(これが冒頭のシーンで見られるテーブルクロス越しの血の繰り返しであることはここで触れておきたい!)。ジュピターパークの巨大風船が上空に浮かぶ滑稽さも忘れられない。
とにかくギョッとするようなシーンから、ユニークなショットまでこんなにも充実した場面に溢れた映画は久しぶりだった。


個人的な話になるが、最近映画を観るときに物語ばかりに気を取られていて、話がつまらない=作品として面白く無い、と決めつけていたことが多かったように思う。
だが、映画というものはそうではない。すべての要素が渾然一体となって、一つ一つのショットが成り立ち、それがさらに合わさって一本の映画となっている。
何を今更と鼻で笑われてしまうけど、そんな当たり前のことに、そして映画を観るという面白さに改めて気がつかせてくれてのが、この「NOPE/ノープ」だった。