2018年 海外ドラマベスト10
2018年のドラマベスト10本について。
今年日本で初配信(放送)されたものに絞っています。
第10位「Atypical(ユニークライフ)」シーズン2(Netflix)
ベストエピソード ep.1 Juiced!
自閉症を抱える主人公のサムとその家族を描いた今作。何よりもサムを演じるキア・ギルクライストの演技が本当に素晴らしい。彼の無垢ゆえの暴走を通して、実は誰もが普通ではない、普通でなくても良いんだ、ということを描いた普遍的なようでいて全く新しいホームドラマだ。
第9位「LOVE 」シーズン3(Netflix)
ベストエピソード ep.11 Anniversary Party
主演兼製作を務めるポール・ラストの実体験を元にしたガスとミッキーの恋愛事情も遂に大団円を迎えた。ようやく落ち着くかのように見えた2人だがまだまだ障害は多かった。ああこんなこと、こんな衝突あるよねと頷いてしまうからこそ、心から応援したくなる。そんな2人の間に流れるGenerationalsの“When They Fight, They Fight”、そしてWilcoの“You and I”。このドラマは世界中の“ガスとミッキー”への応援歌でもあるのだ。
第8位「アトランタ」シーズン2(FX)
ベストエピソード ep.10 FUBU
このシーズンを一言で言えば「ドン詰まり」である。うだつが上がらない主人公アーンの日常は前シーズンからさらに悲惨なものとなる。それは人種や文化を超えて、閉ざされた土地と自分の能力に限界を感じたミレニアム世代の悩みである。“Robbin’ Season”(略奪の季節)と副題の付いた今作で毎回何かを奪い奪われる主人公たちの姿は可笑しくもあり鏡でもある。
第7位「American Vandal(アメリカを荒らす者たち)」 シーズン2(Netflix)
ベストエピソード ep.8 The Dump
バカバカしい事件を大真面目に推理をしていくギャグは前シーズン同様なものの、それが最終的には最も無防備な時代を生きる世代への警告とメッセージに繋がっていく様が凄い。とは言え上辺で楽しそうに振る舞いながら、お互いに陰口を叩き合う高校生活を垣間見る事ができるのがこのドラマの醍醐味。
第6位「バリー」シーズン1(HBO)
ベストエピソード ep.7 Chapter Seven: Loud, Fast, and Keep Going
話が進むにつれてどんどん陰惨になりながらも笑いが尖っていく絶妙なバランスが楽しい「デクスター」以降の新しいダークコメディ。主演兼ショウランナーを務めるビル・ヘイダーはSNLのスキットでの陽キャライメージのある一方で、「スケルトン・ツインズ」でも見せた暗さを兼ね備えており、その二極の顔が今作でも遺憾無く発揮されていた。話運びの巧さは共同ショーランナーのアレック・バーグの力かもしれないが。とはいえ「シリコン~」とは似て非なるドラマであるのも確か。
第5位「シリコンバレー」シーズン5(HBO)
ベストエピソード ep.8 Fifty-One Percent
シリコンバレーで奮闘するパイドパイパーの面々の悲喜交々の物語も5年目を迎え、遂にレギュラーメンバー、アーリックを演じるT.J.ミラーが前シーズンを最後に番組を去ってしまった。唯一ピン芸人的な立ち回りでドラマを掻き回してきた彼の不在はかなり心配だったが全くの杞憂。買収により事業を大きくしていくにつれて混沌としていくパイドパイパー社が直面するトラブルが各話で描かれるのだが、最終話ではその伏線が一気に集約されて怒涛の展開に。1%を巡ってバカバカしくも手に汗握る攻防戦を繰り広げ、今作だからこそできる“爆笑できるサスペンス”という離れ業をバシッとキメた。まだまだ「シリコンバレー」で展開する戦いからは目が離せない。
第4位「ベター・コール・ソウル」シーズン4(AMC / Netflix)
ベストエピソード ep.9 Wiedersehen
もはや“ブレイキング・バッドのスピンオフ”という枕詞も必要ない独自の道を歩み始めた今作。特筆すべきは第9話のヴィンス・ギリガン監督回。正直シーズン中盤が時間稼ぎのような話もあり若干ダレ気味だった印象も否めないのだが、その過程、過去のシーズンの積み重ねを昇華するジミーとキムの衝突が凄まじい。ジミー(ソウル)にとっての“法とは?”、つまりは“善悪どちら側の人間なのか?”問いかけるシリーズでも最高傑作エピソードだ。そして、「ブレイキング・バッド」で築き上げたあらゆる要素を昇華し、遂に迎える“ソウル・グッドマン”の誕生に視聴者は喜びと共に絶望を味わうのだ。
第3位「マニアック」(Netflix)
ベストエピソード ep.10 Option C
キャリー・ジョージ・フクナガのNetflixオリジナルシリーズは「犬ヶ島」の世界で繰り広げる「エターナル・サンシャイン」。夢の中でキャラクターとともに、コメディからサスペンスまでジャンルを変わるため、一見するとヘンテコドラマとも思えるが、実はその中身は心に病を抱えたり、社会で生き辛さを感じる人への鎮魂歌。ラストの2人が向かう先、その姿に涙が止まらなかった。ジョナ・ヒルとエマ・ストーンという「スーパーバッド」以来の2人の共演もファンには嬉しかった。
第2位「The End of the F***ing World(このサイテーな世界の終わり)」(Channel 4 / Netflix)
ベストエピソード ep.8 Episode #1.8
自分をサイコパスだと思い込む少年と、人生にウンザリする少女の退廃的でピュアな2人の逃避行劇。些細な家出をきっかけに、いつしか取り返しのつかない状況に陥る脚本のグルーヴ感は「フォーゴ」や「ブレイキング・バッド」の影響と思われるが、何より魅力は主人公2人の瑞々しさと青臭さ。きっと彼らと同年代の頃にこのドラマを見ていたらエモさと憧れで死んでしまっていただろう。出口の見えない闇の中を突っ走る2人の姿は「ボニー&クライド」でもあり「卒業」のよう。つまりはこのドラマはサイテーな現代に生まれた“僕たちの”アメリカンニューシネマなのだ。
第1位「Sharp Objects(KIZU -傷-)」(HBO)
ベストエピソード ep.8 Milk
前作「ビッグ・リトル・ライズ」に続いてジャン=マルク・ヴァレが描くファミリードラマは、エイミー・アダムス演じる主人公が自らの肌を切り刻むが如く細かくサンプリングされた記憶のカットと音楽の断片が視聴者の脳にこびり付いてトラウマを追体験させる。前作「ビッグ~」でも印象的だった得意とするカットバック演出は「Wild」や「Demolition」のようにソリッドなトラウマを描く際の方が上手くはまっている。タイトルの“Objects”が意味する劇中に散りばめられた見過ごしてしまうほどキーワードの数々、背後に流れる音楽の曲名や歌詞も含めて徹底して作り込まれた2018年ナンバーワンのウットリするような“悪夢”だった。