悪魔の吐きだめ

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「グリーンブック」ファレリー兄が描くフラットな“弱者”の物語

今年のアカデミー賞作品賞は「グリーンブック」が受賞した。世間の大方の予想では「ROMA」か「女王陛下のお気に入り」が有力視されていた中での今作の受賞はかなりサプライズでもあった。

それもそのはずで、監督は「メリーに首ったけ」や「愛しのローズマリー」など下ネタ満載のラブコメディを得意とするファレリー兄弟の兄ピーター・ファレリー監督作だから尚更のことである。

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物語の舞台は1960年代のアメリカ。まだ人種差別が強く残る時代に、ヴィゴ・モーテンセン演じる用心棒のトニーが、マハーシャラ・アリ演じる黒人ピアニストDr.シャーリーの全米ツアーの運転手として雇われ、道中2人はぶつかり合いながらも次第に友情を築いていくという物語。

ここだけ切り取れば、これまでのファレリー兄弟の作品にあった下ネタの要素やどぎついギャグも無く、単なる差別を描いた“良い話”で終わってしまいそうだけど、実際観てみると今までのファレリー兄弟作品の描かれている内容とさほど変わっていないことが分かる。それは彼らが映画で共通して描いているのは“弱者”の物語だからだ。

例えばジャック・ブラックが主演した「愛しのローズマリー」では、女性を外見でしか選ばない主人公が、心が綺麗な人の外見だけが綺麗に見えるような催眠術をかけられた影響で、体重100キロを超える巨体の女性と気がつかずに恋をしてしまうという話。物語の行き着く先は予想通り、「人は外見だけじゃない」という当たり前のことなんだけど、それを笑いを交えてストレートに、そしてフラットに描くことで最後には温かい気持ちになる。

今作も同様で説教臭く「差別は良くない」と伝えている映画ではなく、差別する悪い警察もいれば良い警察もいるし、理解のある人もいればそうでない人も平等にいる様子がフラットに描かれている。特にトニーの妻ドロレスのキャラクターはまさにそうで、修理に招き入れた黒人の作業員にも普通に接し、家路についた夫の道中を全て理解した上でDr.シャーリーにお礼を伝える。この映画自体ラストがそんな彼女の笑顔で終わらせていることが、まさにファレリー兄(弟)の今までと変わらないフラットな姿勢を感じる。