悪魔の吐きだめ

映画とかドラマとかのことを書いてます。

2018年 映画ベスト10

今年面白かった映画上位10本について。

去年の作品やDVDスルーの作品は除いてます。

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第10位「RAW」

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大学デビューと同時に肉食デビューしたベジタリアン女子が真面目だった殻を破るようにノリノリで人肉に目覚めていく様が最高。一見するとフェティシズム溢れるトンデモ映画に見えて、実は自身と(その鏡となる姉と)どう向きあうか、を丁寧に描いた至極真っ当な成長物語でもあった。

 


第9位「レディ・バード

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グレタ・ガーウィグの初監督作は、誰もが経験する痛い10代の思い出と母親との葛藤の物語。普通ならしっとりとなりそうな青春映画だが、今作は俯瞰的に、時に冷たくバサバサと物語が進んでいくあたりが新鮮。親子ゲンカが次のシーンでは仲良くなっていたりするあたりは、本当に過去の思い出をスライドショーのごとく見させられているよう。次回作にも期待したい。

 


第8位「アベンジャーズ / インフィニティ・ウォー」

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正直なところマーベル映画は特にファンというわけでもなく、だらだらと今まで観続けて(続いて)きたわけだが、今作は今までの中でもずば抜けてアクションが凄い、というかめちゃくちゃ見やすい。これだけのキャラクターを総動員しながらカメラと個々のキャラクターの位置関係、編集が優れているため、大きなスケールでのバトルを描きながらの個々のアクションがすごく丁寧。その辺りはMCUの中でも監督のルッソ兄弟はやっぱり断トツに上手い。加えて群像劇としての描き方も優れている。(この辺はルッソ兄弟出世作「ブル~ス一家は大暴走」と「Community」から培ったんだと思う)ラストもこれだけ各キャラのファンの多いマーベル映画を、ここで終わらせるか!というドSっぷりも媚を売っていなくて最高。あまりにもラストが清々しいし、個人的にはもう後篇は無くても十分だ。

 


第7位「ファントム・スレッド

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自身も完璧主義で自分で何でもこなすポール・トーマス・アンダーソンが病に倒れた時に妻が楽しそうに看病してる姿を見て、今作を思いついたみたいだけど、そりゃ奥さんがSNL卒業メンバーの天才コメディエンヌ、マヤ・ルドルフだもの。こんなきっかけで生まれた今作はやはりコメディ映画だ。常にマウントを取り合う夫婦の愛と狂気。それがなおさら身近にありそうだから可笑しくもあり恐ろしい。

 


第6位「フロリダ・プロジェクト」

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夢の世界の裏側で繰り広げられる日常が子供目線で描かれるファンタジー映画。人々にとっての“ディズニーランド”という存在、その脇に建つモーテルという“現実”。夢と現実の狭間にいる子供が初めて厳しい現実に直面した時、更にその先の“夢の世界”に飛び込む(逃避する)瞬間に涙が止まらなかった。

 


第5位「A GHOST STORY」

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ルーニー・マーラが黙々とパイを食べ続けるあたりで、やっぱりこういう映画か。と思ったのも束の間、その後は湿っぽさは皆無、むしろ驚きのSF展開を迎えアクロバティックに着地。テンポよく進む時代(と展開)に取り残されるお化けを演じるケイシー・アフレックは常にシーツを被っているのだが、その姿だけで哀愁漂う表情がまるで分かるのが凄い。

 


第4位「犬ヶ島

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ウェス・アンダーソン監督の新作は、単なるオモシロニッポン描写じゃなくて完全にファンタジーの世界として確立してるから日本人から見ても違和感が無いし、緻密に作り込まれたいつもの「箱庭的」なウェス・アンダーソンの世界として凄く面白くて楽しい。何より“I Bite”からの“I Won’t Hurt You”に変わる過程が泣ける。今作の日本描写ぐらい「フィクションです!」って言い切ってくれれば、いちいち文句も出ないんだろうなと思うし、でもその中で出てくる日本語表記や台詞がマトモだったのは、脚本にも携わった野村訓市がかなり努力したんじゃないかとも思ったり。

 


第3位「アンダー・ザ・シルバーレイク

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マルホランド・ドライブ、ネオンデーモンに次ぐ“どうかしている”系LA観光映画であり、サブカル要素を散りばめたインヒアレント・ヴァイス。映画に記号を見出したがる僕ら世代にぶっ刺さる中二キャラ全開のアンドリューがso cute。LAの、更にはアメリカのサブカルミレニアム世代に対する“憧れ”をすごい感じたし、あの生活感は真似したくなる。リンチ的な「訳分からなくて楽しい!」ってテンションでもなく、インヒアレント・ヴァイス的なメロウとも違う、なんと言うか変なカクテルをチャンポンして飲んで悪酔いして気怠い感じ。決して嫌な意味ではなく。

 


第2位「タリーと私の秘密の時間

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ジェイソン・ライトマン×ディアブロ・コディ×シャーリーズ・セロンの「ヤング≒アダルト」以来の再タッグ作だけあって楽しみにしてたけど本当に良かった。現実と向き合えない「ヤング~」の主人公のその後の物語とも捉えられる。育児に追われた主婦が見る泡沫の夢。“こうじゃなかったのに”の物語は時に笑えて厳しすぎるほど残酷だけど、「ヤング≒アダルト」と同じく現実に向き合う(向き合わざるを得ない)瞬間には思わず鳥肌が立った。他にも育児に追われて疲弊していく様子をルーファス・ウェインライトの曲に乗せて細かいカットで繋いでいくシーンは今年観た中でも一番のカット。「マイレージ・マイライフ」の搭乗口カットのアップデート版とも思えるし、演出の面でもジェイソン・ライトマンも明らかに前作より腕を上げてる。

 


第1位「聖なる鹿殺し」

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やっぱ俺は良く出来た映画よりこういうトチ狂った映画の方が断然好きだ!理解しようとする事すら無意味に思えてくる状況に身を任せて振り回される快感。1人もマトモな人間がいない世界で繰り出されるギャグの応酬とスパゲッティが胃もたれするぐらい強烈すぎる。登場人物は状況を説明する駒でしかなく、彼らは必死にその置かれた状況、ルールに順応しようとする。そういう意味ではヨルゴス・ランティモスの作家性は、ラース・フォン・トリアーのそれとすごく似てる。映画という枠組みの中でストイックなまでに自分に試練を課してひたすらその中で苦しむマゾヒズムな主人公が大好きなので。

「ペンタゴン・ペーパーズ」とスピルバーグのTV界への恨み節

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先日日本で公開となったスティーヴン・スピルバーグ監督の新作「ペンタゴン・ペーパーズ」(原題: The Post)。ベトナム戦争時代の政府の隠蔽文書とそれを世間に公表しようとする新聞社を描いたこの映画はスピルバーグフィルモグラフィーの中では比較的地味な作品ではあるものの、オスカーやゴールデングローブでも作品賞にノミネートされるなど高く評価されている。ただこの映画で何より驚くのは出演者の多くがTVドラマシリーズに出演している旬な俳優陣であることだ。
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この映画の主役となるのは、ワシントンポスト紙の経営者キャサリン・グラハムを演じるメリル・ストリープと、現場で働く記者ベン・ブラッドリーを演じるトム・ハンクスの2人なわけだが、その脇を固めるキャストに注目したい。

まず、映画の冒頭に登場する今作のキーマン、ダニエル・エルスバーグを演じるのはマシュー・リース。機密文書を盗み出すシーンに既視感を覚えたのは、彼が「ジ・アメリカンズ」でロシアスパイの夫婦を演じているから。盗みの仕草も慣れた手つきだ。

トム・ハンクスの部下ベン・バグディキアンを演じるのは「ブレイキング・バッド」、「ベター・コール・ソウル」で悪徳弁護士を演じるボブ・オデンカーク。エミーでも主演男優賞を争ってアンソニー・ホプキンスケヴィン・スペイシーらと互角に戦うだけあってその演技力には定評がある。(昨年のエミーではライバルにマシュー・リースもノミネートされていた)
その彼の同僚を演じるのはデヴィッド・クロス。カルト的な人気を誇るコメディドラマ「ブルース一家は大暴走」でお馴染みだが、オデンカークとは旧知のコメディ仲間であり、2人はコント番組「ボブとデヴィッド」を製作。近年はNetflixで10年ぶりにリバイバル放送もされた。それもあってか2人の掛け合いは息もピッタリだ。

同じコメディ俳優系列では、メリル・ストリープの娘役を演じたアリソン・ブリーは「コミ・カレ!」や「GLOW」などのコメディドラマに出演しており、途中参戦するワシントンポスト紙の顧問弁護士2人のうちの1人を演じるザック・ウッズも「シリコンバレー」で知られるコメディドラマの俳優である。
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もう1人の弁護士役を演じるのはオデンカーク同様「ブレイキング・バッド」、「ファーゴ」で知られるジェシー・プレモンス。オデンカークとプレモンスは、「ブレイキング〜」、「ファーゴ」ともに共演するシーンはなかったが(「ファーゴ」ではオデンカークがs1、プレモンスがs2のキャストだった)、今回はオデンカークが弁護士役だった「ブレイキング〜」と立場が逆となり、プレモンスが弁護士としてオデンカークを問い詰めるシーンがあって面白い。
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さらに「ブレイキング・バッド」繋がりでは、メリル・ストリープが主催する夕食会のシーンで「ブレイキング・バッド」s3で登場シーンは僅かながら印象深いキャラとして人気だったゲイルことデヴィッド・コスタビルもチョイ役ではあるが出演していた。

「ファーゴ」繋がりで言えば、ワシントンポスト紙の紅一点の記者を演じるキャリー・クーン、ライバルのニューヨークタイムズ紙の記者を演じるマイケル・スタールバーグはどちらも「ファーゴ」s3のキャストだった。
トム・ハンクスの妻役を演じるのは、「アメリカン・ホラー・ストーリー」シリーズ、「アメリカン・クライム・ストーリー / O・J・シンプソン事件」でエミー主演女優賞を受賞したライアン・マーフィーの秘蔵っ子のサラ・ポールソン。そして今作で渦中の人物となる国防長官を演じるのは、ポールソンとともに「アメリカン・クライム・ストーリー」に出演するブルース・グリーンウッドであるのだ。

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これだけ多くのTVシリーズの旬な俳優陣が一度に一本の映画にキャスティングされたのはまさに異例で、TVから映画への進出がせいぜいジョージ・クルーニーだったかつてと比べても、今のTVと映画の隔たりが無くなりつつある、つまりそのクオリティと演技力は「映画」に全く引けを取らない状況になっていることが窺える。

しかしその一方で、実はここまでのキャストを揃えた裏にはスピルバーグのTV界への強い嫉妬と執念があるようにも思える。というのも、映画界では巨匠の地位を築いたスピルバーグだが、TV界ではあまりヒットを飛ばせていないからだ。人気があれば何年も続くTVシリーズの中で、彼の手掛けたドラマは軒並み2〜3年でキャンセルされてしまっているものが多い。(「バンド・オブ・ブラザーズ」や「ザ・パシフィック」は高い評価を得たがこれらは元々リミテッドシリーズとして製作されたものだ。)

映画とTVでは、その尺や媒体を通して描かれる物語として、表現方法や演出はまるで違うものの、今作は当初TVシリーズとして構想をしていたのではないかとも思える。基本的には地味な話ながらも着実に個々のキャラクターが呼応しあいジリジリと結末まで突き進む脚本は、映画というよりは長く深くキャラクターを描くことができるロングフォーマットのTVシリーズに向いているからだ。
しかし、スピルバーグは敢えて「TVシリーズ」というフォーマットを選ばずに、自分の最も得意とする「映画」というフォーマットを選んだ。とは言うものの、このストーリーを牽引する為にはTVとしてのロングフォーマットで培ったパワーを持つキャスティングをする必要があった。その狭間の歯痒さが今作にはあるように思う。

イマイチTVという舞台を活かしきれていないスピルバーグに対して、Netflixらが台頭する昨今のTV界は急速に飛躍しており、あらゆるクリエイターが映画からTVへと流れている。その焦りと憧憬があってこそ「ペンタゴン・ペーパーズ」が生まれた、というのは大袈裟な話でもないだろう。

2017年 海外ドラマベスト10

あくまで「今年日本で配信開始したドラマ」という括りでベスト10本を選出した。そのため、実際に本国での放送から数年経ったドラマもある。しかし、本国と日本のタイムラグは昨年に比べても圧倒的に少なくなってきたと感じた一年だった。

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第10位「ハノーバー高校落書き事件簿」Netflix

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Netflixに人気のジャンルとして実録犯罪モノのドキュメンタリーシリーズというのがあるが、今作はそれをNetflix自身がセルフパロディしたフェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)シリーズ。アメリカのとある高校で起きた「チンコ落書き事件」の犯人と疑われた学生と、彼の無実を証明するためドキュメンタリー制作に乗り出す同級生。生徒間の評価、けなし合い、ムカつく先生、欺瞞がインタビュー形式であぶり出され、実は新しい学園モノとしても評価されるべき作品。

ベストエピソード:Ep1 “Hard Facts: Vandalism and Vulgarity”


第9位「アトランタ(FX)

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役者やミュージシャンなどで活躍するドナルド・グローバーが主演とショーランナーを務めたオフビートなコメディドラマは、「マスター・オブ・ゼロ」と並びミレニアム世代として、マイノリティとしての鬱屈した日常をシニカルな目線で描いた、この時代だからこそ描けた傑作。

ベストエピソード:Ep7 “B.A.N.”


第8位「アイ・ラブ・ディック」Amazon Video)

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2017年数あるドラマの中でも一番トンがってたのは間違いなく今作。歩く男根(ディック)ことケヴィン・ベーコンが上裸で羊の毛を刈る妄想をするキャスリン・ハーンとともにフェミニズムを巡る物語。

ベストエピソード:Ep5 “A Short History of Weird Girls”


第7位「トゥゲザーネス」シーズン1(HBO)

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中年手前の4人の日常を描いたコメディは、マンブルコア出身のデュプラス兄弟が手掛けていることもあり、キャラクターも物語も他のドラマと一癖違う。白眉は公園で若者と場所取りを巡って丸々一話缶蹴りをする回。ただ缶蹴りに興じるだけの話なのだが、その中でそれぞれのキャラクターのあらゆる思惑が入り交る。毎話異なるエンディング曲とともに、絶妙なタイミングで終わる作りも見事。

ベストエピソード:Ep5 “Kick the Can”


第6位「クレイジー・エックス・ガールフレンド」シーズン2(The CW)

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所詮ネットワーク(CW局)のドラマだろ、なんて高を括ってたらあまりの狂気に度肝を抜かれる。それもそのはず、元はケーブル局向けの企画だったというから納得である。歌から演技、ショーランナーまで全てをこなすレイチェル・ブルームが、病んだ主人公レベッカが街中で突然「ダンサー・イン・ザ・ダーク」的妄想ミュージカルを繰り広げる様は、まさに「狂気」。そんな彼女に、観てるこっちはドン引きしつつ爆笑するのだが、ラストで明かされる彼女の壮絶な過去と現実に驚愕。そしてそれを昇華するかのごとく、これまでの曲をメドレーにして歌い上げる彼女の姿にまさかの涙。もう世のミュージカルはこのドラマ一本に任せておいても良いのでは。

ベストエピソード:Ep13 “Can Josh Take a Leap of Faith?”


第5位「マスター・オブ・ゼロ」シーズン2Netflix

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アジズ・アンサリが描く日常と人生の物語は、彼の持ちネタを基にしたシーズン1から大きく方向展開し、ニューヨークに生きる人々にも彼は目を向ける。ただ、そこで描かれるのはやはり半径5メートル範囲の生活に過ぎない。その最たるエピソードが第6話であり、リンクレーターの「スラッカー」をニューヨークを舞台に置き換えて街に生きる人々それぞれの「マスター・オブ・ゼロ」の物語を紡ぎ、軽々と「スラッカー」を超えてしまった。親へのカミングアウトの過程を描きエミー賞脚本賞を受賞した第8話“Thanksgiving”も本当に素晴らしいエピソード。

ベストエピソード:Ep6 “New York, I Love You”


第4位「フリーバッグ」BBC Three)

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主人公の独身女子が突然カメラ目線で心情を赤裸々に吐露し、視聴者の度肝を抜く今作。“イタい女子”の開けっぴろげな告白に爆笑しながらも、最終話で明かされる真相で一気にドン底に突き落とされるのだが、その絶望の中に微かな希望を見せる演出に涙。ブラック過ぎる笑いとイタさに溢れた「The Office」、「ピープショー」の英国遺伝子を脈々と受け継いだド傑作。

ベストエピソード:“Episode 6”


第3位「オリーヴ・キタリッジ」(HBO)

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人生において誰もが経験する「喜び」ではなく、「悲しみ」の部分が、フランシス・マクドーマンド演じるオリーヴの目線で描かれる。荒涼とした港町に生きる人々の孤独と絶望の中に、微かな人の優しさが印象的。俳優陣の演技も素晴らしいが、エリザベス・ストラウトの原作を4話の中にまとめあげた脚本も素晴らしい。

ベストエピソード:Ep2 “Incoming Tide”


第2位「ビッグ・リトル・ライズ」(HBO)

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アメリカの小さな高級住宅街で繰り広げられるママ友同士の確執と疑惑。ソープオペラなストーリーながら、脚本家デヴィッド・E・ケリーのパンチある台詞劇と、ジャン=マルク・ヴァレの妄想と過去が入り交じるフラッシュバック演出にただただ心酔する7時間。TV的猥雑さを残しつつも、映画的スケールのセットと演出で描くバランスが絶妙。ラスト10分の台詞無しの表情だけで謎が明かされる演出と、女優陣の演技は必見。

ベストエピソード:Ep7 “You Get What You Need”


第1位「プリーズ・ライク・ミー」シーズン3〜4(ABC)

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大人になりきれない主人公ジョシュたちの周りで起きるミニマムな日常生活と、ウィットに富んだ会話劇が楽しい今作だが、後半シーズンでは、厳しい現実と彼らは向き合う。それはドラマの中だけでなく、現実の延長線上にもある誰もが感じる人生の痛みや辛さ。避けられない不幸を経験してしまった時、オーストラリアから生まれたこのドラマに今年一番背中をおされたし、この先もずっと励まされ続けるだろう。
ベストエピソード:S4 Ep6 “Souvlaki”


実は映画のベスト10本を選出するよりドラマの10本を決める方がはるかに難しい。何故なら、年々個々の作品のクオリティは上がる一方でありながら、且つNetflixをはじめとした配信サービスが作品数でしのぎを削り、その量は完全に飽和状態。加えて、今年のベスト1に選んだ作品はオーストラリア産。もはやアメリカだけがクオリティの高いドラマを輩出している時代ではない。あらゆる制約が無くなり、各国が同じ土俵に立ち始めた今、視聴者は如何に効率よく、自分に合ったドラマを見つけることができるか、という問題はこの先より深刻になり、嬉しい悲鳴はしばらく止みそうにない。

2017年 映画ベスト10

2017年の個人的映画ベスト10について。

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第10位「ゲット・アウト」

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米人気コメディアンのジョーダン・ピール初監督作は、笑いと恐怖の紙一重の差ギリギリを描いたエンタメホラー映画。古典ホラーをベースにしながら人種問題も取り入れた、2017年のアメリカの今を反映するWTFな一本。

 

第9位「スイート17モンスター」

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「なんで自分ばっかり!」と日々周りのせいにしてきた10代を経験した(そして今もそう思う日々を送る)全ての人たちにとって、今作の主人公の姿はあまりにもイタすぎる。主人公を演じたヘイリー・スタインフェルドのキャラクターも含めて、後世に語り継ぐべき新たな学園映画。

 

 

第8位「散歩する侵略者

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血まみれの女子高生が笑顔で道路を闊歩し、その後ろで車が横転する。黒沢清が描く世紀末は、不気味さと可笑しさが絶妙なバランスで入り交じった世界。そんな異様な作品ながら、スピルバーグ的エンターテイメント性が存分に溢れていた傑作であり怪作。

 

 

第7位「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」

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家族というのは必ずしも良いものではない。「イカとクジラ」から一貫して家族の「苦い」部分を切り取ってきたノア・バームバックは、親や兄弟への「諦め」と「許し」、そしてそれが一番の「優しさ」であることを描く。息子のアダム・サンドラーが父のダスティン・ホフマンに向ける「ありがとう、さようなら」という言葉が忘れられない。

 

 

第6位「ベイビー・ドライバー

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音楽に合わせて車がドリフトし、銃声が鳴り響く。エドガー・ライトは、このポップで陰惨な“ミュージカルカーアクション”で新たな地位を間違いなく確立した。冒頭のハイライトでもあるThe Jon Spencer Blues Explosionの“Bellbottoms”に乗せた銀行強盗シーンが最高。

 

 

第5位「Demolition」(雨の日は会えない、晴れた日は君を想う)

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突然妻を失った主人公は、身の回りの物を破壊していくことで、自分の気持ち、悲しみを理解しようとする。そんな主人公同様に、映画自体も過去や妄想がフラッシュバックとして細かく散りばめら、物語が脱構築して描かれる。この手法を得意とするジャン=マルク・ヴァレが描くべくして描いた奇妙で哀しい人間ドラマ。

 

 

第4位「20センチュリー・ウーマン

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女性に囲まれて育てられたマイク・ミルズの自伝的作品。あくまで男性から見た視点として「結局母親(女)ってよくわんねえや」と見栄を張らずに帰着するところにも好感が持てるし、隣に住む女の子としてエル・ファニングをキャスティングするあたりがかなり分かっている。

 

 

第3位「キングス・オブ・サマー」

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少年時代の「あの夏」の「あの瞬間」だけを切り取った本当のサマームービー。主人公たちの姿、光景を自分の「あの頃」と重ね合わせて何度涙ぐんだか分からない。米TV界で活躍するコメディアンたちも多く出演しており、そのコミカルなやり取りも面白い。

 

 

第2位「釜山行き」

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まだ「観たことない」ゾンビ映画があることに衝撃。全カット、全キャラクター、そのそれぞれの物語がとにかく素晴らしい。冒頭で安易にキャラクターの説明に入ることなく、状況に対して個々がどう反応していくかで各登場人物に深みを持たせ、さらに中盤で席替えをすることで、新たな人間ドラマを生みだす。「電車」という前後にしか進めない状況の中で工夫した演出と、どこの車両に誰が乗ってるかという位置関係の描き方も見事。

 

 

第1位「ハクソー・リッジ

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狂った人間が、戦争という狂った場所に放り込まれたら。その異常な世界を描いた「ハクソー・リッジ」が今年一番の映画体験だった。「武器を持たずに戦場に行く」という恐ろしい信念を持つ主人公デズモンドと、それに翻弄される前半の人間ドラマも申し分なく面白いが、何より後半の異様なテンションで描かれる沖縄・前田高地(ハクソー・リッジ)を舞台とした戦場シーンが凄い。カメラが崖の上をクレーンアップすると、地面が火を吹き、人体が肉片となって吹き飛ぶ様はまさに本当の「地獄」。その最中に「信念」だけを武器に身一つだけで乗り込むデズモンドの行動にただただ唖然。信念と狂気は紙一重だということ描いたこの作品は、メル・ギブソン以外には作れなかったかもしれない。

 

ベスト10からは漏れたものの、そのほか今年好きだった作品は以下。

ノクターナル・アニマルズ

マンチェスター・バイ・ザ・シー

「T2 トレインスポッティング

「エイミー、エイミー、エイミー!」

ドクター・ストレンジ

「沈黙」

「Okja/オクジャ」

 

また、今年のMVPはエル・ファニング。4位に選んだ「20センチュリー・ウーマン」のほか、今年は「ネオン・デーモン」に始まり、「パーティで女の子に話しかけるには」まですべて違う役柄ながらどれもピッタリのはまり役だった。今後にさらに期待したい。

『キングス・オブ・サマー』 永遠だと思っていたあの夏について

この映画の事を書こうとすると、うまく言葉に纏まらない。でも書き留めて置かないと、朝起きた時には覚えていた夢が、断片となって徐々に消えていくように、この映画を観たときに感じていた気持ちも、いつの間にか忘れてしまいそうになる。その気持ちというのは、誰もが青春時代に感じ、そして今はもう忘れてしまっていたものなのだ。ジョーダン・ヴォート=ロバーツの監督作「キングス・オブ・サマー」は、観ている間に、そんな遠い気持ちを呼び起こさせる。

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父親と二人で暮らしている主人公の高校生ジョーは、いつまでも子供扱いし、自分に対して無関心な父親に、不満を募らせていた。一方、父親父親で、反抗的な息子の態度が気に入らない。直接的な要因があった訳ではないが、親子はいつしか擦れ違うようになっていた。
同じく、ジョーの親友のパトリックも過保護な両親に不満を持っていた。そして、(いつの間にか加わったおかしな同級生ビアジオを含めて)3人は誰にも縛られない自由な生活を手に入れるため、森に自分たちで家を建てて生活をすることを決める。

今作を観て思い出す青春映画も多い。「スタンド・バイ・ミー」はもちろん、3人の関係性も「スーパーバッド」を彷彿とさせる。しかし、今作で彼らを突き動かす理由は、「映画的」では無い。
学校では虐められている訳ではないが、揶揄われてはいる。親への不満も「口煩い」、「言っている意味がわからない」という程度のものだ。(個人的には、パトリックの抱える親に対する不満に爆笑しながらも、共感してしまった。あの当時、親の言うことは本当に意味不明に聞こえるのだ。)でも、その頃の彼らにとって、それらの問題は「その程度」じゃ済まなかった。彼らが家を出ることを決めた理由は、誰もが感じていたフラストレーションである。ただ、「自由」になりたくて、そして自由になることが大人になることだと考えて、家を飛び出した彼らは、その代償を知らなかった。

他の青春映画にあるような、「彼らはこの夏を境に大人になった」とか「この経験を通して成長した」みたいな上から目線のクサい説教めいた事など、この映画の中では描かれない。夏の一番輝いている瞬間だけを、この映画は切り取っていく。それは楽しい瞬間だけでなく、失恋や親友との喧嘩などの普遍的な「痛み」も含めた輝きである。

そんな夏に生じた、親や友人との諍いはいつしか解消し、知らぬ間に夏は終わってしまう。決定的な理由や言い訳もなく、知らぬ間に大人になってしまうのだ。ただ、そのひと夏の出来事を振り返るのは、ずっと先のこと。「今」を生きる彼らにとって、あの夏は「永遠」であると同時に、「刹那」だった。それだけで十分なのだ。それが全てなのだから。

そんな彼らを(そしてあの頃の僕らを)讃えるように、最後に流れるYouth Lagoonが歌う「17」に、刹那であったが故の瑞々しさと、失ってしまったものの大きさを改めて知り、僕は涙が止まらなかった。

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」ラストの曲に込められた意味

MARVELの中でも特に原作の知名度が低かったにも関わらず、大ヒットとなった「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」待望の続編、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」が日本で公開となった。

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この無名に近いキャラクター達の作品がヒットした理由には、キャラクターや話の面白さもあるが、特に従来のアメコミ映画らしからぬ選曲にある。主人公が母親から貰ったミックステープをウォークマンで愛聴している設定ということもあり、宇宙での激しい銃撃戦の最中に70年代〜80年代のヒット曲が流れるというミスマッチ感が面白く、ドラマを一層盛り上げている。
 
今回の続編でも、1作目同様に様々な曲が使用されていた。ここでこの曲か!みたいな驚きもありながら、フリートウッド・マックの「The Chain」や、ルッキング・グラスの「Brandy」などは、重要な場面で繰り返し使用され、とても印象的だった。
そんな曲の中でも、特に歌詞の内容とリンクさせて使用されていたラストの曲について書きます。
 
以下、ネタバレありです。

“Sorry about your life !” 「痛み」に寄り添うオージー産傑作ゲイドラマ『プリーズ・ライク・ミー』の魅力とは

 「海外ドラマ」と言うと、どうしてもアメリカ産ドラマをイメージしてしまいがちだし、実際アメリカからは毎年どんどん面白いドラマが発信されているのも事実。しかし、そんなアメリカンドラマに引けを取らない傑作が、オーストラリアから誕生した。それが「プリーズ・ライク・ミー」である。

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主人公である、21歳の大学生ジョシュが彼女にフラれるところから物語が始まる。フラれた理由は、なんと「あなたがゲイだから」というもの。もちろんその時は全力で否定する彼だったが、フラれて以降気になる男性が出始めて、、という物語。

 

実は、このドラマの面白さを一言で言うのは難しい。主人公のジョシュは、イケメンとは程遠く、髪は薄毛で、顔も皺くちゃ。自分で「50歳の赤ちゃんみたいだ」と嘆くぐらいに見た目は残念。それなのに、性格も自己中心的だから恋人もできない。でも、そんなジョシュに対して、観ている側はいつしか共感するようになっていく。

好意を持つ男性が目の前に現れるものの、自分からつい嫌われるようなことを言ってしまったり、距離を自分から置いてしまったりする。その一方で、ようやく決断して一歩を踏み出してもうまくいかない。彼が過ごすのは、そんなイタい毎日なのだ。それでも「愛されたい」と願う気持ち、それはジョシュだけではなく誰もが思う気持ちが、タイトルの「Please Like Me」に込められている。

 

もう一つのこのドラマの魅力は、辛い現実でさえも明るく描いている点にある。ジョシュの物語と並行して、彼の母親の物語も描かれるのだが、実は彼女は重度の躁鬱病。しかし、ジョシュは、病気のためベッドから起き上がれない母に枕を投げつけて、「いつまで寝てるの!病院行くよー!」などとふざけて叫んだりするのだ。普通なら怒られるだけじゃ済まないようなシーンだが、そのジョシュの能天気さが、ドラマ全体に溢れているため、不思議と周囲は(そして視聴者も)笑顔になってしまう。

母の病気だけではなく、彼の周りには身近な人の死や、友人の中絶など、多くの不幸な出来事が次々と起こる。しかし、その度に彼は、料理を作ってふるまったり、一緒に歌を歌って、みんなを励ます。

ある事件をきっかけに落ち込む彼の父親が、ジョシュに「自分なんかが父親で良かったか?」と尋ねる場面がある。それに対し、空を見てジョシュはこう答える。「あの月よりもっと良い月だったらな、なんて思わないでしょ?だって月は一つしかないんだもの」ジョシュの純真さと、ドラマの持つ暖かさが詰まったワンシーンだ。

 

しかし、そんな暖かい雰囲気に包まれたドラマだが、シーズン4の終盤では、誰も予想だにしていなかった最大の悲劇が起きる。その悲劇を乗り越えようと、もがく彼らの姿は、観ているこちらも本当に辛く、涙が止まらなかった。その後半で印象的なのが、ズタズタになったジョシュが、友人のトムと「Sorry about your life.(大変だったね)」と、お互いに慰め合う場面である。これを「君の人生に同情するよ。」と、直訳してしまうと大袈裟に聞こえてしまうが、このフレーズこそ、今作を観るすべての人に対する、慰めの言葉だと思う。

ドラマで描かれる不幸、それは些細なものから生活を揺るがす大きなものまで様々だが、それは決してドラマの中だけのものではなく、誰しもが日常生活で避けられないもの。そんな不幸を経験してしまった時に、「頑張れ!」や「乗り越えろ!」のように背中を「押す」のではなく、「大変だったね」と優しく声をかけて背中を「さすってくれる」ようなドラマだったとラストを観て気がつく。

「現実の辛さ」を時に明るく、シビアに描いた今作は、「オーストラリアの〜」であったり、「ゲイが主人公の〜」という枕詞は必要がないように感じる。それは、描かれている「痛み」は、万国共通であり、誰もが感じるものだからだ。その「痛み」を丁寧に掬い上げるように描いたという点が画期的で、且つ本当に素晴らしい作品なのだ。

 

ちなみに、主演兼製作を手掛けるジョシュ・トーマスは、豪州のスタンダップ・コメディアン。今作は、彼自身の実体験を元にドラマ化したというから驚きである。ハイトーンボイスで早口に繰り出されるセリフは、さすがコメディアンだと思いながらも、まだ20代ながら、今作での繊細なストーリーと魅力的なキャラクターを生み出した手腕には脱帽。残念ながら、今作はシーズン4で終了したものの、彼の次回作が今から楽しみである。