悪魔の吐きだめ

映画とかドラマとかのことを書いてます。

2017年 海外ドラマベスト10

あくまで「今年日本で配信開始したドラマ」という括りでベスト10本を選出した。そのため、実際に本国での放送から数年経ったドラマもある。しかし、本国と日本のタイムラグは昨年に比べても圧倒的に少なくなってきたと感じた一年だった。

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第10位「ハノーバー高校落書き事件簿」Netflix

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Netflixに人気のジャンルとして実録犯罪モノのドキュメンタリーシリーズというのがあるが、今作はそれをNetflix自身がセルフパロディしたフェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)シリーズ。アメリカのとある高校で起きた「チンコ落書き事件」の犯人と疑われた学生と、彼の無実を証明するためドキュメンタリー制作に乗り出す同級生。生徒間の評価、けなし合い、ムカつく先生、欺瞞がインタビュー形式であぶり出され、実は新しい学園モノとしても評価されるべき作品。

ベストエピソード:Ep1 “Hard Facts: Vandalism and Vulgarity”


第9位「アトランタ(FX)

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役者やミュージシャンなどで活躍するドナルド・グローバーが主演とショーランナーを務めたオフビートなコメディドラマは、「マスター・オブ・ゼロ」と並びミレニアム世代として、マイノリティとしての鬱屈した日常をシニカルな目線で描いた、この時代だからこそ描けた傑作。

ベストエピソード:Ep7 “B.A.N.”


第8位「アイ・ラブ・ディック」Amazon Video)

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2017年数あるドラマの中でも一番トンがってたのは間違いなく今作。歩く男根(ディック)ことケヴィン・ベーコンが上裸で羊の毛を刈る妄想をするキャスリン・ハーンとともにフェミニズムを巡る物語。

ベストエピソード:Ep5 “A Short History of Weird Girls”


第7位「トゥゲザーネス」シーズン1(HBO)

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中年手前の4人の日常を描いたコメディは、マンブルコア出身のデュプラス兄弟が手掛けていることもあり、キャラクターも物語も他のドラマと一癖違う。白眉は公園で若者と場所取りを巡って丸々一話缶蹴りをする回。ただ缶蹴りに興じるだけの話なのだが、その中でそれぞれのキャラクターのあらゆる思惑が入り交る。毎話異なるエンディング曲とともに、絶妙なタイミングで終わる作りも見事。

ベストエピソード:Ep5 “Kick the Can”


第6位「クレイジー・エックス・ガールフレンド」シーズン2(The CW)

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所詮ネットワーク(CW局)のドラマだろ、なんて高を括ってたらあまりの狂気に度肝を抜かれる。それもそのはず、元はケーブル局向けの企画だったというから納得である。歌から演技、ショーランナーまで全てをこなすレイチェル・ブルームが、病んだ主人公レベッカが街中で突然「ダンサー・イン・ザ・ダーク」的妄想ミュージカルを繰り広げる様は、まさに「狂気」。そんな彼女に、観てるこっちはドン引きしつつ爆笑するのだが、ラストで明かされる彼女の壮絶な過去と現実に驚愕。そしてそれを昇華するかのごとく、これまでの曲をメドレーにして歌い上げる彼女の姿にまさかの涙。もう世のミュージカルはこのドラマ一本に任せておいても良いのでは。

ベストエピソード:Ep13 “Can Josh Take a Leap of Faith?”


第5位「マスター・オブ・ゼロ」シーズン2Netflix

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アジズ・アンサリが描く日常と人生の物語は、彼の持ちネタを基にしたシーズン1から大きく方向展開し、ニューヨークに生きる人々にも彼は目を向ける。ただ、そこで描かれるのはやはり半径5メートル範囲の生活に過ぎない。その最たるエピソードが第6話であり、リンクレーターの「スラッカー」をニューヨークを舞台に置き換えて街に生きる人々それぞれの「マスター・オブ・ゼロ」の物語を紡ぎ、軽々と「スラッカー」を超えてしまった。親へのカミングアウトの過程を描きエミー賞脚本賞を受賞した第8話“Thanksgiving”も本当に素晴らしいエピソード。

ベストエピソード:Ep6 “New York, I Love You”


第4位「フリーバッグ」BBC Three)

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主人公の独身女子が突然カメラ目線で心情を赤裸々に吐露し、視聴者の度肝を抜く今作。“イタい女子”の開けっぴろげな告白に爆笑しながらも、最終話で明かされる真相で一気にドン底に突き落とされるのだが、その絶望の中に微かな希望を見せる演出に涙。ブラック過ぎる笑いとイタさに溢れた「The Office」、「ピープショー」の英国遺伝子を脈々と受け継いだド傑作。

ベストエピソード:“Episode 6”


第3位「オリーヴ・キタリッジ」(HBO)

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人生において誰もが経験する「喜び」ではなく、「悲しみ」の部分が、フランシス・マクドーマンド演じるオリーヴの目線で描かれる。荒涼とした港町に生きる人々の孤独と絶望の中に、微かな人の優しさが印象的。俳優陣の演技も素晴らしいが、エリザベス・ストラウトの原作を4話の中にまとめあげた脚本も素晴らしい。

ベストエピソード:Ep2 “Incoming Tide”


第2位「ビッグ・リトル・ライズ」(HBO)

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アメリカの小さな高級住宅街で繰り広げられるママ友同士の確執と疑惑。ソープオペラなストーリーながら、脚本家デヴィッド・E・ケリーのパンチある台詞劇と、ジャン=マルク・ヴァレの妄想と過去が入り交じるフラッシュバック演出にただただ心酔する7時間。TV的猥雑さを残しつつも、映画的スケールのセットと演出で描くバランスが絶妙。ラスト10分の台詞無しの表情だけで謎が明かされる演出と、女優陣の演技は必見。

ベストエピソード:Ep7 “You Get What You Need”


第1位「プリーズ・ライク・ミー」シーズン3〜4(ABC)

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大人になりきれない主人公ジョシュたちの周りで起きるミニマムな日常生活と、ウィットに富んだ会話劇が楽しい今作だが、後半シーズンでは、厳しい現実と彼らは向き合う。それはドラマの中だけでなく、現実の延長線上にもある誰もが感じる人生の痛みや辛さ。避けられない不幸を経験してしまった時、オーストラリアから生まれたこのドラマに今年一番背中をおされたし、この先もずっと励まされ続けるだろう。
ベストエピソード:S4 Ep6 “Souvlaki”


実は映画のベスト10本を選出するよりドラマの10本を決める方がはるかに難しい。何故なら、年々個々の作品のクオリティは上がる一方でありながら、且つNetflixをはじめとした配信サービスが作品数でしのぎを削り、その量は完全に飽和状態。加えて、今年のベスト1に選んだ作品はオーストラリア産。もはやアメリカだけがクオリティの高いドラマを輩出している時代ではない。あらゆる制約が無くなり、各国が同じ土俵に立ち始めた今、視聴者は如何に効率よく、自分に合ったドラマを見つけることができるか、という問題はこの先より深刻になり、嬉しい悲鳴はしばらく止みそうにない。