第68回エミー賞ノミネートについての雑記
今年エミー賞ノミネートについて予想しました。未見のドラマ、エピソード等は排してるのでかなり偏った予想です。
【ドラマ部門】
〈作品賞〉
The Americans (FX)
Better Call Saul(AMC)
Downton Abbey(PBS)
Game of Thrones(HBO)
Homeland(Showtime)
House of Cards(Netflix)
Mr. Robot (USA)
昨年遂に受賞を果たした「ゲーム・オブ・スローンズ」や、常連の「ハウス・オブ・カード」が並ぶ中、やはり受賞は今季でファイナルシーズンを迎えた「ダウントンアビー」に。今年シーズン4でようやくノミネートされた「ジ・アメリカンズ」にも注目したいところ。一方で放送開始早々ゴールデングローブ賞でいきなり作品賞を受賞した「Mr.ロボット」も受賞の可能性はゼロではないが、同賞でノミネートされてた「ナルコス」が本レースではガン無視されるなど、「初モノ」に甘いGG賞とエミー賞に大きな隔たりがあり、当てにならない。
〈主演男優賞〉
Kyle Chandler as John Rayburn on Bloodline (Netflix)
(Episode: "Part 23")
Rami Malek as Elliot Alderson on Mr. Robot (USA)
(Episode: "eps1.0_hellofriend.mov")
Bob Odenkirk as Jimmy McGill on Better Call Saul (AMC)
(Episode: "Klick")
Matthew Rhys as Philip Jennings on The Americans (FX)
(Episode: "The Magic of David Copperfield V: The Statue of Liberty Disappears")
Liev Schreiber as Ray Donovan on Ray Donovan (Showtime)
(Episode: "Exsuscito")
Kevin Spacey as President Frank Underwood on House of Cards (Netflix)
(Episode: "Chapter 52")
ベテラン揃いの中、こちらも「Mr.ロボット」からレミ・マレクが初ノミネート。サイコ演技はなかなか良かったけど、やっぱりここは先輩方に受賞を譲るのでは。「ベター・コール・ソウル」シーズン2最終話"Klick"で名演を見せたボブ・オデンカークよりも、やはり毎年受賞を逃していたケビン・スペイシー大統領が遂に当選する可能性が高い。
〈主演女優賞〉
Claire Danes as Carrie Mathison on Homeland (Showtime)
(Episode: "Super Powers")
Viola Davis as Prof. Annalise Keating on How to Get Away with Murder (ABC)
(Episode: "There's My Baby")
Taraji P. Henson as Cookie Lyon on Empire (Fox)
(Episode: "Rise by Sin")
Tatiana Maslany as Sarah Manning, Alison Hendrix, Cosima Niehaus, Beth Childs, Rachel Duncan, and MK on Orphan Black (BBC America)
(Episode: "The Antisocialism of Sex")
Keri Russell as Elizabeth Jennings on The Americans (FX)
(Episode: "The Magic of David Copperfield V: The Statue of Liberty Disappears")
Robin Wright as First Lady Claire Underwood on House of Cards (Netflix)
(Episode: "Chapter 49")
「スーサイド・スクワッド」でのビッチ演技が記憶に新しいヴィオラ・デイヴィス先生は、シーズン2は未見だが、2年連続受賞は厳しいかなと思いつつ、一票。「ジ・アメリカンズ」組は夫婦揃って初ノミネート。同じくファーストレディーのロビン・ライトも夫同様毎年悔しい思いをしているのでそろそろ受賞しても良い頃かな。
【コメディ部門】
〈作品賞〉
Black-ish (ABC)
Master of None (Netflix)
Modern Family (ABC)
Silicon Valley (HBO)
Transparent (Amazon)
Unbreakable Kimmy Schmidt (Netflix)
Veep (HBO)
ここはぜひインド系スタンダップコメディアン、アジズ・アンサリが主演・脚本・監督を全てこなした力作「マスター・オブ・ゼロ」に。昨年本命だったにも関わらず「Veep」に負けた「トランスペアレント」シーズン2も前季から大きく方向性を変えながらもかなり深いテーマまで突き詰めた傑作だったので受賞の可能性も高い。「アンブレイカブル・キミー・シュミット」は、正直前季の方が個人的に良くできていたと思う。
〈監督賞〉
Master of None (Episode: "Parents"), Directed by Aziz Ansari (Netflix)
Silicon Valley (Episode: "Daily Active Users"), Directed by Alec Berg (HBO)
Silicon Valley (Episode: "Founder Friendly"), Directed by Mike Judge (HBO)
Transparent (Episode: "Man on the Land"), Directed by Jill Soloway (Amazon)
Veep (Episode: "Kissing Your Sister"), Directed by David Mandel (HBO)
Veep (Episode: "Morning After"), Directed by Chris Addison (HBO)
Veep (Episode: "Mother"), Directed by Dave Stern (HBO)
「トランスペアレント」の第9話"Man on the Land"は、このシーズンの核心となる重要なエピソード。この回で、本作は「トランスジェンダーのドラマ」という枠から抜け出した感がある。マイク・ジャッジ監督の「シリコンバレー」シーズン3第1話も素晴らしかった。
〈脚本賞〉
Catastrophe (Episode: "Episode 1"), Written by Rob Delaney and Sharon Horgan (Amazon)
Master of None (Episode: "Parents"), Written by Aziz Ansari and Alan Yang (Netflix)
Silicon Valley (Episode: "Founder Friendly"), Written by Dan O'Keefe (HBO)
Silicon Valley (Episode: "The Uptick"), Written by Alec Berg (HBO)
Veep (Episode: "Morning After"), Written by David Mandel (HBO)
Veep (Episode: "Mother"), Written by Alex Gregory and Peter Huyck (HBO)
ここはアジズ・アンサリ「マスター・オブ・ゼロ」から"Parents"に。インドから渡ってきた両親(演じるのもアジズの本当の両親)のルーツを探る傑作回。一周回って皮肉なオチも効いていてここは受賞してほしいところ。でも個人的には第3話の"Hot Ticket"や第9話"Mornings"の方が優れていたと思うけど。
〈主演男優賞〉
Anthony Anderson as Andre "Dre" Johnson, Sr. on Black-ish (ABC)
(Episode: "Hope")
Aziz Ansari as Dev Shah on Master of None (Netflix)
(Episode: "Parents")
Will Forte as Phil "Tandy" Miller on The Last Man on Earth (Fox)
(Episode: "30 Years of Science Down the Tubes")
William H. Macy as Frank Gallagher on Shameless (Showtime)
(Episode: "I Only Miss Her When I'm Breathing")
Thomas Middleditch as Richard Hendricks on Silicon Valley (HBO)
(Episode: "The Empty Chair")
Jeffrey Tambor as Maura Pfefferman on Transparent (Amazon)
(Episode: "Man on the Land")
「Master of None」のアジズに受賞してほしいところはあるものの、ここはやはり監督賞と同様に「トランスペアレント」のジェフリー・タンバーに。
〈助演男優賞〉
Louie Anderson as Christine Baskets on Baskets (FX)
(Episode: "Easter in Bakersfield")
Andre Braugher as Captain Ray Holt on Brooklyn Nine-Nine (Fox)
(Episode: "The Oolong Slayer")
Tituss Burgess as Titus Andromedon on Unbreakable Kimmy Schmidt (Netflix)
(Episode: "Kimmy Gives Up!")
Ty Burrell as Phil Dunphy on Modern Family (ABC)
(Episode: "The Party")
Tony Hale as Gary Walsh on Veep (HBO)
(Episode: "Inauguration")
Keegan-Michael Key as Various Characters on Key & Peele (Comedy Central)
(Episode: "Y'all Ready for This?")
Matt Walsh as Mike McLintock on Veep (HBO)
(Episode: "Kissing Your Sister")
「アンブレイカブル・キミー・シュミット」から2度目のノミネートのタイタス・バージェスに。
〈助演女優賞〉
Anna Chlumsky as Amy Brookheimer on Veep (HBO)
(Episode: "C**tgate")
Gaby Hoffmann as Alexandria "Ali" Pfefferman on Transparent (Amazon)
(Episode: "Bulnerable")
Allison Janney as Bonnie Plunkett on Mom (CBS)
(Episode: "Terrorists and Gingerbread")
Judith Light as Shelly Pfefferman on Transparent (Amazon)
(Episode: "Flicky-Flicky Thump-Thump")
Kate McKinnon as Various Characters on Saturday Night Live (NBC)
(Episode: "Host: Ariana Grande")
Niecy Nash as Denise "DiDi" Ortley on Getting On (HBO)
(Episode: "Don't Let It Get in You or on You")
今年こそ「トランスペアレント」のもう一人の主役であるギャビー・ホフマンに。彼女なくしてこのドラマの成功はあり得ないと思っている。同作で母役のジュディス・ライトもノミネート。その他「ゴーストバスターズ」でキレまくってたケイト・マッキノンも2年連続ノミネートだが受賞は難しいかも。
『ブレイキング・バッド』シーズン2とバタフライ効果
「バタフライ効果」をご存知だろうか。「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起きる」という話からその名が付いた現象のことで、関係ないと思われるような初期の小さな要因が、将来の結果に大きな影響を及ぼすことを表している。そんな些細な事柄により引き起こされた顛末を13話で描き切ったのが「ブレイキング・バッド」のシーズン2である。
シーズン1では、主人公のウォルターがどうして覚醒剤の精製に手を出す事になったのか、そしてそれが及ぼす影響を描いていたが、シーズン2では、更にその「影響」について掘り下げる。家族を守るために始めたウォルターの「選択」は、その守るべき家族へ脅威を及ぼし、やがて相棒のジェシーの恋人をきっかけに、大きな事件を引き起こす。今シーズンでキーアイテムとして扱われている「ピンクテディベア」が示す意味が最終話で明らかになる時、はじめてウォルター(そして視聴者)は、「その選択」の及ぼした事の重大さに気がつくのだ。
シーズン2では、いくつかのエピソードの冒頭に、この最終話への伏線が散りばめられており、話が進むにつれて、パズルのピースが回収されるが如く徐々に最終話で起きた不穏な出来事が明らかになってくる。(余談だが、実はこの伏線が描かれてるエピソードタイトルを順に並べると最終話の出来事を示す文になるという凄いネタも隠されている)
そんな壮大な伏線と緻密に練られたシーズンでありながら、個々のエピソードも非常に秀作が多い。特に傑出したエピソード、ジャンキーに監禁されたジェシーと彼らの子どもとのやり取りを描く第6話「Peekaboo」や、荒野に取り残されたウォルターとジェシーが喧嘩しながらも科学の力で危機を乗り越える第9話「4 Days Out」などは、正に「ブレイキング・バッド」の持つ面白さを凝縮した回である。
だが、今シーズン、ひいては全シーズンの中でも特に優れたエピソードだと個人的に思っているのが、第10話「Over」である。このエピソードで、本作はある転換点を迎えた。それはドラマ(そしてウォルター)のきっかけを、根底から覆すものなのだが、その転機をご都合主義に終わらせず、更にドラマの持つ狂気のレベルをぐっと押し広げることに成功した。この展開には本当に感心した。
シーズン1の放送を終えた本作は、批評家からは賞賛されたものの、同時期に同放送局のAMCが人気ドラマ「マッドメン」を放送していたこともあり、その陰に隠れ視聴率は伸び悩んでいた。しかし、ヒットを確信していたAMCは、シーズン1の倍以上の話数の13話をオーダー。そんな局からの期待とチャンスを、ショーランナーのヴィンス・ギリガンは大胆にもシーズン丸ごとを使った壮大な「選択と結果」の物語にしてしまった。しかしこの決断が、今後の番組の方向性を決定付け、更には「ブレイキング・バッド」の知名度を上げることになったのだ。
(全く余談だが、冒頭に述べたバタフライ効果については、『ジュラシック・パーク』で耳にした人が多いかもしれない。映画でもジェフ・ゴールドブラム演じるマルコム博士が触れていたが、原作ではより話のテーマとして描かれている。パーク同様に、周囲を大惨事に巻き込んでいくウォルターは、まるでT-REXのようである)
リブート版『ゴーストバスターズ』を観た!
「ポール・フェイグがクリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシーらを起用してゴーストバスターズの新作を撮る」というニュースが報じられてからひたすら楽しみに待っていたリブート版『ゴーストバスターズ』。その感想を極力ネタバレ無しで書きます。
前回も書いたが、今回の『ゴーストバスターズ』はキャストを女性に一新したことで、既に公開前から大きな批判があった。
更には出演者の一人、レスリー・ジョーンズがTwitterで集中攻撃される事態にまで発展。Twitter本社がアンチを煽った犯人をTwitterから永久追放するなどの対応も話題となった。そんな意味でも注目されてしまった今回のゴーストバスターズだったが、それらのスキャンダルをも吹き飛ばすほど映画自体は最っ高にパワフルで面白かった。
演じる今回の新バスターズの4人のやり取りはは、まるでコントを見ているかのようで、クリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシーは勿論のこと、2人に比べると知名度は低いレスリー・ジョーンズ、ケイト・マッキノンの2人も抜群の個性を発揮しており、劇場は大爆笑だった。
また、今作は、ゴーストバスターズが如何にして「ゴーストバスターズ」となっていったかの過程が描かれるのも特徴的だった。あの有名な「ノーゴーストマーク」はどのようにロゴとして採用されたか、プロトンパックはどのように生まれたのか等、オリジナルではさり気なく登場していたプロップがどのような経緯で生まれたのかファンは気になるところ。そこにしっかりと説明を加えるあたりが、ポール・フェイグの真面目さとオリジナルへの愛がうかがえる。
その他にもオリジナルで人気だったゴーストも再登場するのだが、単に登場させるだけでなく、その使い方も工夫がされていて感心した。それはオリジナルのキャストのカメオ出演にも言える。特に、ビル・マーレイの使い方は皮肉が効いていて爆笑だった。
だが、なんと言っても今作で一番観客の笑いをかっさらっていったのが、クリス・ヘムズワース演じる秘書のケヴィン。オリジナルではキレ者の秘書をアニー・ポッツが演じていたが、今回クリヘムが演じる秘書のケヴィンは、完全にバカ丸出しで、これまでの映画でありがちだった「美人しか取り柄がない女性秘書」というところの逆にいき、イケメンだけど無能な「観賞用」の秘書をイキイキと演じていた。彼はサタデー・ナイト・ライブにホストとして出演した時から、抜群のコメディセンスを発揮してたが、今回の演技で完全にコメディアンの才能を証明してみせた。
そんな今回の『ゴーストバスターズ』、これまでの敵は、破壊の神様や中世の騎士などオカルト的要素が強かったが、今回の敵は普通のおっさん。好みが分かれるところかもしれないけど、実はこのおっさんも、主人公のエリンやアビーのように周りから虐げられてきた弱者の一人。ただ道を踏み外してしまっただけに過ぎない。その同じ境遇の相手を敵にするところがポール・フェイグらしいと思う。
それはラストにも言えることで、ニューヨーク市民の歓声に包まれて終わる1作目、2作目とは違い、人知れず街を救ったバスターズが迎えるラストには、「誰しもヒーローとなり得る」「誰かはきっと応援してくれている」というポール・フェイグの弱者に対しての温かい眼差しを感じる。思えば、彼はTVシリーズ「フリークス学園」から近年の「SPY」に至るまで、常に虐げられてきた弱者を中心とした物語を描いてきた。
「ビッチどもにゴーストなんか退治できない」なんて、奇しくも現実で騒がれているような台詞が劇中でも出てくるが、そんなことも物ともせず、ひたすら自分たちの信念で突き進み、互いに助け合いながら敵に立ち向かうからこそ、彼女たちは本当にカッコ良いのだ。
そして、何より今回嬉しかったのは、映画館が笑いに包まれていたこと。日本では、アメリカンコメディが冷遇されがちで、なかなか映画館で上映されなかった。今作は「ゴーストバスターズ」というタイトルで全国公開されたが、蓋を開ければ完全に中身はコメディ映画であり、それが日本でもちゃんとウケていることが何より嬉しかった。だから、みんなで笑えて、みんなで楽しめる今回のリブート版『ゴーストバスターズ』は、なるべく満員の映画館で、そしてゲラゲラ笑いながらみんなで観てこそ、一番楽しめると思う。そして、これがきっかけでもっと沢山のコメディが映画館で上映されるようになってほしいと思う。