悪魔の吐きだめ

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Amazon制作の異色のコメディドラマ『トランスペアレント』

Netflixの後を追うようにして始まった、Amazonのストリーミングサービス、「Amazonプライムビデオ」。そんなAmazonもNetflix同様にオリジナルドラマを自社で製作しており、その一つが、今年のゴールデングローブ賞で作品賞を受賞して話題となった「トランスペアレント」です。

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タイトルの“Transparent”とは、「(反対側が見えるほど)透き通った、透明な」という意味。そして、もう一つの意味が、transgender「トランスジェンダー」とparent「親」を組み合わせた造語、つまり「トランスジェンダーの親」を指している。

というのもこのドラマ、60歳を越えて家族にトランスジェンダーだと告白する父親と、その家族を描く物語なのだ。LGBTを扱ったドラマは、重くなりがち、かつ説教臭い印象を個人的に持っていたが、今作が素直に楽しめたのは、トランスジェンダーの問題のみならず、その父親の問題をきっかけに家族が抱える「闇」を浮き彫りにするホームドラマとして成り立たせているバランスが良かったからだと思う。

ジェフリー・タンバー演じるモートンが、家族に自分の性の悩みを打ち明ける一方で、長女のサラは既婚者ながら元恋人のガールフレンドとヨリを戻そうとし、次男のジョシュ(演じるのは今ノリに乗ってるデュプラス監督兄弟の弟、ジェイ・デュプラス)は乳母と幼い頃から性的関係を持っている。三女のアリもいまだに定職に就かずに、父親からお金をせびって暮らしている。そんなそれぞれ問題を抱えた家族たちが、父親の告白をきっかけに自分自身も過去と生き方に向き合うことになる。

実はこの作品、大きなドラマは特に起こらない。その分、それぞれのキャラクターの描写が丁寧で、徐々に彼らの過去や秘密が明らかになるにつれ、視聴者は驚いたり共感するようになる。その静かで温かい空気感の漂う演出と、脚本には毎話驚かされる。

そして、なんと言っても出演者の演技が全員素晴らしい。もちろん主演のジェフリー・タンバーはゴールデングローブ賞エミー賞のW受賞も納得の演技。彼の印象は「ブル~ス一家は大暴走!(原題:Arrested Development)」の家族をかき回すトボけた父親役が強かったが、今回の秘密を抱えて苦悩する年老いた父親の姿は同情を誘う。

また、もう一人の主役と言うべき存在が、三女のアリ役のギャビー・ホフマン。奔放に生きているかのように思え、実は人一倍孤独を抱え、生き方に悩む演技がとても良かった。今年のエミー賞でも助演女優賞にノミネートされ、惜しくも受賞は逃したが、来年こそ期待できると思う。

LGBTを扱ったドラマと聞いて、手を伸ばさない人もいるかもしれないが、本人の葛藤や周りの戸惑いをしっかりと描きながらも、ハイテンポで、ハイテンションな家族の会話も面白くコメディドラマとしても笑いながら楽しめる。(本作、賞レースではコメディ部門でノミネートされており、「笑えないのにコメディじゃないだろ」という意見もあったが、僕個人は十分笑えるコメディドラマだと思った)

このようなテーマ扱い、そしてきちんと評価されているのは、やはり同性婚など世間のLGBTへの認識が変わってきた今の時代だからこそなんだと思う。そしてそれが、ネットワーク局でもケーブル局のドラマでもなく、Amazonというストリーミングでの配信形態であること。まさに色々な「今」の時代を反映した今世紀を代表するドラマになるだろう。