悪魔の吐きだめ

映画とかドラマとかのことを書いてます。

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の魅力

いよいよ、9/2にNetflixが日本で開始されるということで、Netflixのオリジナルドラマ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」について書きたいと思います。

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まず、Netflixはアメリカで人気の動画ストリーミングサービスで、過去の映画やテレビドラマのみならず、自社でもオリジナルドラマを製作していることで有名。特にデヴィッド・フィンチャーが製作、ケヴィン・スペイシーが主演した「ハウス・オブ・カード」は、1話に映画並みの予算とクオリティーで、日本でも話題になりました。

そんなNetflixのオリジナルドラマシリーズで、その「ハウス・オブ・カード」以上の人気をアメリカで誇るのが、「オレンジ・イズ・ニューブラック」です。

大まかなストーリーは、婚約者と幸せに暮す主役パイパー・チャップマンが、学生時代の恋人(レズビアン)と共謀して麻薬の密輸を行っていたのが今更になってバレてしまい、突然投獄される。しかも、その元恋人も同じ刑務所にいることが分かり…というのが一話目の内容。女性刑務所で様々な囚人たちと関わりながら、刑期を終えるまで奮闘するパイパーの姿がドラマを通して描かれる。

「Orange is the New Black」というタイトル、「~is the New Black」とは慣用句で、「○○は流行りの色」という意味。訳すと「オレンジ=囚人服が流行りの色」という意味。(主にファッション雑誌などで使われるようで、なんとも皮肉なタイトル)そして、もうひとつの意味は、直訳して「オレンジは新しいクロ」。この意味は下のポスターを見ればわかるように、オレンジ色は新人が着させられる囚人服のため、普段の社会であれば、優遇される白人女性のパイパーが、刑務所内では逆に社会で黒人が受けるような差別を受けることを意味している。

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料理長の機嫌を損ねれば食事にタンポンを入れられるし、刑務官に逆らえば独房に入れられる。パイパーの受ける受難は相当なもの。

しかし、このドラマ、あくまでコメディーだから全然重くない。それは、第一話目の冒頭の囚人仲間から嫌がらせを受けるシーンを見れば明らかで、シャワーを浴びているパイパーが、「可愛らしいオッパイしやがって!」、と悪態をつかれるのだが、その時の彼女は、自分のオッパイを誇らしげに思い、恥ずかしそうにニヤリと笑う。

悲惨に思えるシーンでも、なんだか滑稽に見えるのは、このドラマのクリエイター、ジェンジ・コーハンによるもの。彼女は前作「Weeds~ママの秘密」というドラマで、未亡人の主婦が家族を養うために大麻の密売人になる、というブラックコメディーを手掛けていました。同じ薬物ドラマでも「ブレイキング・バッド」とは大違いで、陰惨な雰囲気は皆無。どんなに絶望的な状況でも、明るくやり過ごす主人公のメアリー・ルイーズ・パーカーが印象的なドラマだった。そんな製作者のドラマだからこそ、笑いとドラマのバランスが心地よく、人気に繋がっているのだと思う。

また、この作品のもう一つの魅力は、パイパーを取り巻く囚人たちの物語である。元恋人のアレックスや、刑務所のボス的存在レッド、パイパーを目の敵にするペンサタッキーなど、主人公のパイパーに嫌がらせをする彼女たちを最初は観てる側も憎々しく思うけれど、物語が進むにつれ、彼女たちが入所した理由が徐々に明らかになる。誰しもが刑務所に入りたくて入ったわけではなく、それぞれに罪を犯した理由があり、一人一人にドラマがある。僕は、個々のキャラクターを掘り下げて描ける事こそ、テレビシリーズの最大の魅力だと思っているので、毎話明らかになっていくキャラクターの本性がとても楽しかった。きっと1シーズンを観終わる頃には、誰しもお気に入りのキャラクターが見つかると思う。

そんなキャラクターたちと、敵対し合いながら(時には協力し合いながら)、刑務所という地獄を生き抜いていくサバイバル・コメディー「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」。面白いのでNetflixに加入したらぜひ観てみてください。

2015年エミー賞ノミネートについての雑記

今年もエミー賞のノミネートが発表されました。

そんな中でも今年はコメディ勢、というか「サタデーナイトライブ(以下、SNL)」組が熱い気がするのでそれについて色々。

コメディ部門の作品賞は、今季で最終シーズンを迎えた「Parks and Recreation」が4年ぶりに作品賞にノミネート。(本国では7年続いた人気シリーズなのに日本では一向に放映される気配なし)

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主演は、SNLでウィークエンドアップデートのアンカーを務めていたエイミー・ポーラー。最近では、ピクサーの「インサイド・ヘッド」でヨロコビの吹き替えに抜擢されてましたね(個人的には竹内結子の日本語吹き替えより遥かに良い)
彼女自身は、毎年エミー賞にノミネートされるものの、受賞歴はゼロ。ゴールデングローブ賞では受賞できたし、今年こそ有終の美を飾って欲しいな。
 
同じくエイミーと共にSNLでアンカーを務めていたティナ・フェイが「30 ROCK」終了後にNetflixで製作した「Unbreakable Kimmy Schmidt」も作品賞にノミネート。

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長年カルト教団に拉致されて生活していた女性が突然都会に解放されてカルチャーギャップに四苦八苦するというコメディなのかホラーなのか分からないようなストーリーだけど、そこはティナ・フェイ、手堅く収めて批評家からの評判も上々みたい。日本での配信も既に決定してるから今から楽しみ。
 
コメディ部門主演男優賞は、SNLの元メンバー、ウィル・フォーテが『The Last Man on Earth』でノミネート。

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この作品、ウィル・フォーテ自身もクリエイターも務めているけど、「21ジャンプストリート」「LEGO(R)ムービー」のクリストファー・ミラーとフィル・ロードも監督兼製作しているという気になるドラマ。
何故か地球最後の男となったフィル・ミラー(ウィル・フォーテ)が、同じく唯一の生き残りだと思っていた女性二人と三角関係になるらしい。。んーすごく気になる。てか、主人公の名前はフィル・ロードとクリス・ミラーの2人から取ってるのだろうか。
 
そんな、元メンバーが目立つ中で、現役メンバーのケイト・マッキノンがSNLから助演女優賞でノミネート。今季のSNLでは、ヒラリー・クリントンのモノマネが最高だった。現メンバーの中では一番実力があるし、現在撮影中のリブート版「ゴーストバスターズ」にも出演しているし、これからますます注目されそう。

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(この写真のケイト・マッキノンのキャラが最高すぎて今から楽しみ)
 
もう一人、気になる女芸人がエイミー・シューマー。最近よく見かけるなーって思ってたら今回自身の番組「Inside Amy Schumer」で主演女優賞初ノミネート。ジャド・アパトーの新作「Trainwreck」の主演&脚本を務めたり、GQマガジンでC-3POとエロい写真撮ってファン怒らせたり(マーク・ハミルは喜んでるみたいだけど)何かと話題な彼女。これからも期待っす。

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はい、以上です。
エミー賞の授賞式は9/21!コメディもドラマも何が穫るか今からワクワク。
 
 

天才になるために 『セッション』

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【若干ネタバレあり】

『セッション』は本当に衝撃的だった。観た後は、周りの人たちが全て凡人に見えるぐらい打ちのめされた。観た人なら分かるかもしれないが凡人を否定するような映画であるからだ。


アメリカの有名な音楽大学に入学した主人公ニーマンは、そこで指揮する有名なフレッチャー率いる楽団に引き抜かれ有頂天となる。かねてから思いを寄せていた女の子への告白も成功し、順風満帆な生活になるかと思えた。しかし、鬼教師フレッチャーの容赦ないプレッシャーが彼を変える。テンポが少しでも遅れれば椅子を投げ、顔を殴り、親を馬鹿にする。完璧を求めるフレッチャーに認められるため、「天才的なドラマー」になるために、ニーマンはドラムに狂ったように取り憑かれていく。
ここまで彼を突き動かしているのは、ドラムを愛する気持ちではなく、コンプレックスとエゴである。顔もさえないし、友達もいない。夜は父親と一緒に映画を観に行く以外楽しみがない。そんな自分を確立できるのは「自分は他人とは違う」というエゴである。自分が「天才」でなければ彼らに勝てる物は何も無い。「天才」であることが何より大事なのだ。主奏者に選ばれるのも、プロへのスカウトも、その副産物に過ぎない。だからこそ、食事会で自分の音楽よりもスポーツができることを褒められる従兄弟たちを罵倒したし、主奏者のライバルとして途中入団したコノリーを目の敵にした。「天才」になるために、目的もなく大学に通う凡人な彼女と別れ、一人暮らしの親バカの父親を切り捨て、死に物狂いで練習をする。
宣伝でも取り立たされている最後の演奏は、彼の払った犠牲が全て昇華される圧巻のシーンである。
セリフは無く、音楽と視線で全てが語られる。彼の演奏が「完璧」になるにつれ、フレッチャーの目は「信頼」に変わり、父親の目は「恐怖」に変わる。彼はすべてを捨て「天才」となる。
 
パンフレットに斎藤工が解説文を載せており、そこに「この映画で描かれているドラムは、他にも言い当てられる誰しも感じる壁だ(大意)」などと書かれていたがこの意見には反対である。これはドラムを通して「天才になる」話であって、それ以外何ものでもない。そういう解釈こそ無意味に感じるほど徹底的に削ぎ落とされた脚本、演出を前に観客は俯瞰せざるを得ない。それは我々はただの凡人に過ぎないからだ。

クリープハイプのライブに行ってきた

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先日クリープハイプのライブに行ってきました。彼らのライブは初めてだったし、そもそもライブ経験も少ない僕ですが、彼らのライブがすごく印象的だったのでちょっと書きたいと思います。

会場は千葉県の市川市文化会館。「一つじゃつまらないから、せめて二つぐらいやろう 後編」と銘打たれたコンサートツアーの初日。
一曲目に「HE IS MINE」を持ってくるなど(「HE IS MINE」は彼らの曲の中でもライブを盛り上げる定番曲。サザンで言えば「マンピーのG★SPOT」のような立ち位置)、かなり挑戦的にスタートしたライブだが、新旧の曲を織り交ぜながら安定したライブを見せつけた。

そんなライブの中で印象的だった事の一つが、長谷川カオナシの存在である。クリープハイプはこれまでは正直ボーカル“尾崎世界観”のバンドであった。ベースの長谷川カオナシは、アルバム内でボーカルをとることが以前からあったがその存在が浮いた感はしないでもなかった。しかし今回の長谷川カオナシは、しっかりともう一人のボーカルとしてそこにいた。「のっぺらぼう」や初期の曲「火まつり」、また尾崎との掛け合いが秀逸な「そういえば今日から化け物になった」やアンコールで演奏された「目覚まし時計」、そして次回のニューシングル「愛の点滅」のカップリング候補として紹介された新曲含め、尾崎世界観に引けを取らない歌を披露していた。これでクリープハイプはボーカルが2人いるバンドとなったと胸を張って言えるようになったと思う。

そしてもう一つが、クリープハイプのバンドとしての大衆性だ。これまでDVDなどでしかライブを観てこなかったが「ぶっきらぼうなバンド」だな、という印象が強かった。真摯に曲を伝えようとする余り少し観客に対して乱暴だなと感じる事があったからだ。だから今回MCなどで見せた観客との距離感の近さは少し驚いた。決して媚びを売っている訳ではなく、良い意味でより大衆的になった気がした。
特にMCで尾崎が「当たり前が嬉しい」と言っていたのが印象的だった。むしろこれまでは“当たり前”を忌み嫌うバンドだったし、今回のライブでもMC内で「こんなMCありきたりで嫌だなぁ笑」と自嘲する場面もあったけど、続けて「こんな当たり前なやり取りをずっと続けていきたい」と語っていた。数年前だったらこんな事絶対言わなかっただろうな。

そんな今回のライブで一番良かったのは、ラストで演奏された「ねがいり」だった。「これまで嫌な事も沢山あったけど、それも含めて“良い忘れ物”だった。これからももっと忘れ物を作っていきたい。」そんな紹介から始まったこの曲は、これまでの盛り上がりに対して、会場は不思議な静けさに包まれた。舞台の背後からライトで照らされた彼らの姿が、逆光で客席からは見えなかったから余計にそう感じたのか、“音楽”だけをしっかりとこちら側に聴かせようとしているように感じられた。この姿勢こそがクリープハイプらしさだと思う。

よく「好き嫌い」が分かれるバンドとして挙げられる事が多い彼らだけど、曲のキャッチャーさだったりそのクオリティ、そしてやっぱり尾崎世界観の個性は、もっと広く愛されても良いと思う。
クリープハイプ、ほんとに良いよ。

祝!Netflix日本上陸!

遂に!遂に!Netflixが日本上陸!というわけで今回は日本で配信してほしいドラマを挙げてみました。

ちなみにNetflixとは、アメリカ人の4000万人以上が登録している最大手の動画ストリーミング配信サイト。そのコンテンツ数はHuluを凌ぐほどで、近年だとデヴィッド・フィンチャー製作の元、オリジナルドラマ「ハウス・オブ・カード」を制作してエミー賞を受賞するなど、今ノリにノッてる配信サービスなんです。

そんなNetflixがいよいよ日本に!こりゃすっかり日本テレビの専門サービスになりつつあるHuluもやばいんじゃないの?なんて話はさておき、ぜひ日本で配信して欲しいドラマを紹介したいと思います。

 
【Netflixオリジナル番組】
1、「Orange is the New Black」
フィンチャーの「ハウス・オブ・カード」同様にNetflixがオリジナル制作した女子刑務所が舞台の実話ドラマ。幸せに婚約者と暮らすパイパー・チャップマンが、かつて麻薬の運び屋をしていた罪に問われ突然投獄。白人で良いとこ育ちのパイパーは口の悪い黒人やヤク中に虐められながらも、持ち前の明るさと機転の良さで困難に立ち向かう話。製作は美人ママが売人になってご近所にハッパを売りさばく「Weeds」のクリエイター、ジェンジ・コーハン。どんな困難にも笑顔で立ち向かう主人公と、それに伴ってどんどんビッチになっていく展開はまんま「Weeds」。刑務所モノながら重すぎず笑いに落とす手法と、アメリカじゃ「ハウス〜」より人気があるらしい。フラッシュバックでそれぞれのキャラクターがどうして投獄されたのかが話が進むにつれて徐々に明らかになるように作られてるから、嫌味なキャラでも同情しちゃうんだよね。うまい。日本でもひっそりとシーズン1がAmazon Instant Videoから配信されてたりするけど、シーズン2以降の配信の見込みがないのでここはNetflixさんにぜひ。
 
元々は米のFOXチャンネルで2003年から2006年まで放送されていたコメディドラマ。日本でも「ブル~ス一家は大暴走!」という邦題で放送されてた。放送当時、批評家からは絶賛されていたものの、視聴率は全く振るわず打ち切りに。しかし、放送終了後に主役のジェイソン・ベイトマンマイケル・セラらが映画で一躍人気となったおかげで再評価&根強いファンからカルト的人気を博し、Netflixが続編の制作を決定したのでした。
毎回強烈なキャラクターのドタバタ劇と、巧妙に練られた脚本がまさに実写版「シンプソンズ」なノリでほんとに面白かった。ちなみにこのドタバタ劇に対して淡々とキャラクターの心情を解説するナレーターはロン・ハワード。Huluでもシーズン1~3まで一時期放送してたけど、その後は全く音沙汰ないのでぜひ。
 
3、「Wet Hot American Summer」&「Wet Hot American Summer:First Day of Camp」
今や人気スターとなったブラッドリー・クーパーやエイミー・ポーラー、ポール・ラッドの出世作コメディ!らしい。と、いうのも日本じゃ劇場公開はおろかDVD化すらされてないという由々しき事態。アメリカでもカルト的人気な本作をNetflixは8話からなるミニシリーズ化し、映画のキャストを再集結&クリステン・ウィグジョン・ハムなどのキャストも新たに起用するという豪華さ。もうこれだけでNetflixの集客力というか、資金力がわかりますね。ぜひ日本でもお願いします。

4、「Happy Valley」
これは正確にはNetflixオリジナルではなくBBC製作のドラマなんだけど、USではNetflixのみでの配信ということで一応。ストーリーは、中年のおばさん婦警が自分の娘をレイプして自殺に追い込んだ犯人を見つけ出すというかなりヘビーな内容。イギリスの国営放送ながら暴力描写も凄いらしいし、伏線を張った物語も話題になってサテライト賞やら昨年度のドラマ批評家のベストドラマにノミネートされたみたい。

以上っす。ほんとはまだまだたくさんあるんだけど一応Netflixオリジナル系ドラマという括りで。最低でもこれぐらいは配信されるだろう、という期待も込めて挙げました。
日本で既に始まってるHuluやU-nextなど最近少しずつ知名度が上がってきた動画配信サービス。やはりNetflixがこれらに差をつけるならば「コンテンツ数」と「コンテンツ力」だと思う。Huluが日本テレビに買収された後にモコズキッチンなど謎のラインナップに力を入れ始めて衰退していったように(とはいえ英国ドラマ「Utopia」をいち早く配信するなど頑張ってはいるけど)、Netflixも同じ道を辿らないか不安な面もあるし。
とはいえ現状コンテンツも何も発表されてないので、サービスが開始する秋まで首を長くして待ちましょうかね。
 

改めて『ブレイキング・バッド』について語りたい~シーズン1~

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ようやく重い腰を上げて「ブレイキング・バッド」について書く事にした。なんで重い腰になるかと言うと、それは言うまでもなく「ブレイキング・バッド」(以下BrBa)こそ海外ドラマ史上最も優れたドラマであり、個人的にも大ファンだからである。

散々Twitter含めて、会う人会う人に「BrBa」をオススメしてた。ようやく昨年にソニーからファイナルシーズンまでDVD化されたけど、数年前にシーズン2までが発売された頃から大ファンで、当時から声を大にして猛烈プッシュしてたものの、それ以降のシーズンは全くソフト化されなくて。。あの時はほんと苦しい思いをしてたなぁ。結局最初に「BrBa」を発売していたDaylighって会社はどうなったんだろうか。。

まあ、そんな話はさておき「BrBa」は本当にすごいドラマだと言うことを長々と書きたいと思います。先に言っておくけど、ネタバレ前提で語っていくので、未見の方はご注意を。

このドラマのシーズン1は、いわば物語の序章である。全ての物語のキッカケ(元凶)が描かれる。

主人公のウォルター・ホワイトは、高校の化学教師。妻と息子を支えるために安月給ながらも懸命に働いていたところ、突然倒れ、運ばれた先の病院で末期ガンを宣告される。そんな彼は家族にお金を残すために元教え子のジェシー・ピンクマンと手を組み、ドラッグ精製を始める。ってのが物語のはじまり。

少しお金を稼ぐために軽い気持ちで始めたドラッグビジネスは、だんだんと思わぬ結果となっていき血を血で洗う闇の世界に徐々にドップリ浸かっていくのだが、まだシーズン1ではその世界の恐ろしさを知ったウォルターの戸惑いが描かれている。

第1話には「ブレイキング・バッド」の面白さが全て詰まっている。師弟関係となるジェシーとの世代ギャップギャグ。妻スカイラーに対して秘密を抱える苦悩。そして化学の力を使って悪人に立ち向かう痛快さである。

脳性麻痺を抱える息子をいじめる不良を蹴り倒し、メスの精製に見せかけて毒ガスを発生させギャングを気絶させ、初の取引で大量に金を稼げたウォルターは、男を取り戻し帰宅後にスカイラーと激しくセックスする。初回からこんなにもブッ飛んでるドラマがあっただろか。しかもこれがコメディとして作られているのが驚きである。加えて、アルバカーキの乾いた荒野と澄み渡る青空の風景を捉えた画作りが、この暴力的な物語とマッチし、なんだかコーエン兄弟の「ファーゴ」の荒野版を見ているようだ。(実際、かなりこの映画には影響を受けているらしく、今シーズン最終話のタイトル「A No-Rough-Stuff-Type Deal」は、「ファーゴ」の台詞から取られている)

 

今シーズンでパイロットの他に特筆すべきエピソードは、ウォルターが悪に振り切れた第4話「Cancer Man」と第6話「Crazy Handful of Nothin'」である。

第4話「Cancer Man」では、ウォルターはガンを宣告された事を家族に告白する。このシーンは涙無しでは見られないほど役者陣の演技が素晴らしいのだが、このエピでは、もう一人のCancer Manが描かれる。タイトルが意味するのは、ガンを患った男=ウォルターと、社会的にガンのような奴=ケンである。

銀行の列を割り込みし、ハンズフリーで大声で話すケンという男を見かけたウォルターは、不快に思いつつも何も言えなかったが、たまたま入ったガソリンスタンドで彼の姿を見かける。彼が車から離れた隙に彼の愛車のボンネットに濡れたモップを突っ込み、バッテリーをショートさせて車ごと爆発させる。

もうこのシーンがマジで最っ高にカッコイイんだよね。

爆発を背に立ち去るところとか、戦隊ヒーローみたいだし。忌々しい“Cancer”を吹っ飛ばすウォルターの姿に爽快感を感じると同時に、ここに来てより悪の道に一歩踏み出したな、って印象を受けた。ちなみにここで流れるDarondoのDid't Iって曲も渋くて超カッコイイっす。

 

第6話「Crazy Handful of Nothin'」では、さらに多くの金を必要とするウォルターは、そのシマを取り仕切るギャング、トゥコに接触するようにジェシーに持ちかける。しかし凶暴なトゥコは、メスだけ奪いジェシーをボコボコにする。キレたウォルターは今となってはお馴染みのスキンヘッドスタイルになり、単身トゥコのアジトに殴り込むのだが、もちろんただじゃ済まさないホワイト先生。メスに見せかけた雷酸水銀という爆発性のある化合物を床に叩きつけて、アジトを丸ごと爆破!

 丸刈りの父親を見たウォルターJrは、「Badass Dad !」って言ってたけど、本気でBadassになった瞬間である。。恐るべき化学の力。この「ペンは剣より強し」的なバトルも「BrBa」の魅力なのである。最高。

 

長くなったけどシーズン1から、コメディありドラマありグロありのスタイルが確立されており、5年後の最終話まで「BrBa」のそのスタイルは揺らぐことはない。これは当初からクリエイターのヴィンス・ギリガンが描きたい明確なビジョンがあったからなんだな、と再認識できる。

そしてシーズン2では、1を遥かに越える展開でウォルターとともにドラマ自体が怪物と化していく。。というわけでシーズン2についてはまた後日。

 

 

ゴールデングローブ賞ノミネートの新作海外ドラマが面白そう

2015年の最初は、気になるテレビドラマについて。
最近は日本でも、Huluが普及し始めたりしたおかげで、本国とタイムラグなく日本でもドラマが観られたりするようになった。それについては本当にありがたいんだけど、まだまだ米国で高評価のドラマが観られなかったりしてる。
そこで、先日発表されたゴールデングローブ賞のテレビ部門から特に初ノミネートされた新作ドラマに注目してみたいと思います。


まずは、ドラマ部門

“ The Affair,” Showtime
“Downton Abbey,” PBS
“Game of Thrones,” HBO
“The Good Wife,” CBS
“House of Cards,” Netflix


「ダウントンアビー」、「ゲームオブスローンズ」、「ハウスオブカード」はもはや常連って感じ。「ブレイキング・バッド」がいなくなった今ようやく日の目を見るか。「グッドワイフ」もまだまだ熱いね。

ここで気になるのが新作「The Affair」
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タイトル通り男女の不倫の話なんだけど、ある事件の取り調べによる回想形式で話が進むみたいで、双方の視点による証言の食い違いで、どんどん謎が深まるんだとか。
クリエイターは「ハウス・オブ・カード」のサラ・トリム。回想形式で進む話は「True Detective」みたいだし、主役はみんな大好き「The Wire」のドミニク・ウェスト。なんだか米ドラマの美味しい要素が詰まってるようですごく面白そう。

一方、ミュージカル/コメディ部門は、以下の通り

“Girls,” HBO
“Jane the Virgin,” The CW
“Orange is the New Black,” Netflix
“Silicon Valley,” HBO
“Transparent,” Amazon Instant Video


ここで注目したいのが、「Jane the Virgin」と「Transparent」の2作が、賞レース初ノミネートのCW局とアマゾンのネット配信サービスAmazon Instant Video制作のドラマだということ。

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「Jane the Virgin」を放送するCW局は、日本でもお馴染み「ゴシップガール」や「ヴァンパイアダイアリーズ」とかティーン向けドラマを連発してるテレビ局。故に若年層からの支持は熱いけど、賞レースには無縁で、四大ネットワーク局と言われる、NBC、CBS、FOX、ABCからは離れた存在だった。それが今作で開局以来初のノミネート。
物語は、処女の女の子ジーナ・ロドリゲス演じるジェーン(同作で主演女優賞にもノミネート)が手違いで人工授精で妊娠しちゃうって話。なんともぶっ飛んだ話だけど、オリジナルはベネズエラの昼ドラなんだとか。ドロドロのメロドラマをアメリカテイストにアレンジしてるみたいで、ノリはアグリーベティってところなのかな。
近年、ケーブル局&ネット配信ドラマにほぼ独占されてる賞レースにネットワークの意地を見せたのがまさかのCWだとは。。もう馬鹿にしません。

もう一本がAmazon Instant Videoが制作する「Transparent」
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Arrested Development(邦題:ブル〜ス一家は大暴走!)」でメチャクチャな父親役を演じたジェフリー・タンバーがトランスジェンダーをカミングアウトした父親を演じるファミリードラマ。こちらもやたらと評価が高くて、エンターテイメント・ウィークリー誌が選ぶ2014年のベストドラマの第1位にも選ばれるほど。近年のネット配信ドラマサービスの先駆け「Netflix」に追いつけ追い越せと始まったアマゾンのオリジナルドラマサービス。当初は「ゾンビランド」のドラマシリーズを制作して酷評浴びたりしてたけど、ここに来てグンと注目度が上がったねぇ。
これまで光の当たらなかったこの2局の健闘が楽しみ。

昨年のゴールデングローブ賞&エミー賞で、近年の米ドラマの最高傑作「ブレイキング・バッド」のファイナルシーズンが作品賞受賞という有終の美を飾って終わり、なんだかアメリカドラマの歴史が一区切りついた感も否めなかったけど、こうやって見てみると、まだまだ面白そうなドラマがたくさんあるね。今は日本でも「24」以来の海外ドラマブームが来てるみたいなので、これを機にもっと沢山のドラマが日本でも観られるようになるといいなー。