悪魔の吐きだめ

映画とかドラマとかのことを書いてます。

2016年 海外ドラマベスト10

昨年以上に作品数が豊富だった2016年。去年は15本程度だったが、今年はその倍以上の作品を観ることができた。その中から今年のベスト10本を選出した。

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10位「ワン・ミシシッピ 」(シーズン1)

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Amazonオリジナルシリーズ。スタンダップコメディアンのティグ・ノタロの実体験を基にした半自伝的コメディドラマ。母の死をきっかけに故郷に帰省したティグが自身と向き合う姿をシニカルな笑いとともに描く。Netflixで配信中の彼女のドキュメンタリーとあわせて観るとより彼女の背景を理解できる。製作には「JUNO」の脚本家ディアブロ・コディとコメディアン仲間のルイスCKが名を連ねている。

ベストエピソード : ep1 "Pilot"

 

9位「Veep」(シーズン1)

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賞レースの常連ながらなかなか日本で観られなかったHBOの政治コメディがようやくHuluで配信。ジュリア・ルイス=ドレイファス演じる女性副大統領とその取り巻きを描くノリはまるで「30 ROCK」。ドキュメンタリーテイストな手持ちカメラと毎回のドタバタが楽しい。

ベストエピソード : ep6 "Baseball"

 

8位「殺人を無罪にする方法」(シーズン1)

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グレイズ・アナトミー」のショーランナー、ションダ・ライムズが放つミステリーサスペンス。ヴィオラ・デイヴィス演じる鬼弁護士と部下の学生たちが毎話依頼人からの弁護に奔走するとともに、並行してその彼らが関与した殺人事件がフラッシュフォワード形式で描かれる。その破茶滅茶な展開と過剰なお色気シーンで否応無しに釘付けにする、これぞまさにTVポルノ。そして今作がケーブル局ではなく、ネットワークで放送されたというところに、ネットワーク局の意地を見た気がする。後半のヴィオラ・デイヴィスマーシャ・ゲイ・ハーデンの演技合戦も見もの。

ベストエピソード : ep15 "It's All My Fault"

 

7位「LOVE」(シーズン1)

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ジャド・アパトー製作のNetflixオリジナルドラマ。正反対の性格の2人が惹かれては離れてを繰り返す姿にモヤモヤしながら最終話は涙。本作で主演を務めるポール・ラストとレスリー・アーフィンの実体験を基にしているだけあって、リアルな2人の描写が身につまされて痛い。

ベストエピソード : ep10 "The End of the Beginning"

 

6位「The Inbetweeners」(シーズン1-3)

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イギリスE4チャンネルで放送されたコメディドラマ。バカな高校生4人組が女の子とセックスするために奮闘するいわば「スーパーバッド」ライクな青春モノなのだが、イギリスだけあってその下品さと笑いがかなりブラック。そして何より学生時代の楽しさが目一杯詰まったドラマとして時折胸が熱くなった。UKロックを中心としたサントラもナイス。

ベストエピソード : s1 ep10 "Xmas Party"

 

5位「シリコンバレー」(シーズン3)

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マイク・ジャッジ製作のIT業界を舞台としたコメディドラマ。毎話、毎シーズン絶体絶命の危機を迎える彼ら「パイドパイパー」社が、ようやく軌道に乗り出したシーズン3。最終回では、相変わらず向かう所敵だらけな彼らに待ち受ける最高のドンデン返しが待っておりこれほどまでに完璧なラストがあったのかと感心。コメディとしてももちろん抜群に笑えるのだが、予想外の展開をみせる脚本にはいつも唸らされる。

ベストエピソード : ep10 "The Uptick"

 

4位「ストレンジャーシングス」(シーズン1)

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今年一番話題になったと言っても過言ではないNetflixオリジナルドラマ。溢れんばかりの80年代オマージュと、作品全体に漂うスティーヴン・キングの香り。昔読んでいた「IT」や「キャリー」、「ニードフル・シングス」を、まざまざと思い出して涙。クリエイターは新鋭のダファー兄弟が務めているが、監督として参加したショーン・レヴィが務めた第3話は、単なるミステリードラマとしてでは無く、ファンタジーとしての魅力も最大限に引き出した傑作エピソード。

ベストエピソード : ep3 "Chapter Three: Holly, Jolly"

 

3位「プリーズ・ライク・ミー」(シーズン1-2)

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オーストラリアのコメディドラマ。自身がゲイだと自覚し始めた主人公のジョシュと、精神を病んだ彼の母親の生活が描かれるのだが、大人になりきれない2人の姿が可笑しくて、そしてその健気な姿に泣けてくる。そして、ジョシュと恋人のアーノルドの付かず離れずな関係にやきもき。主人公のジョッシュを演じるとともに、本作のクリエイターを務めるのは、オーストラリアのスタンダップコメディアン、ジョッシュ・トーマス。今作は彼の実体験を基にしたというのが驚き。LGBTドラマというだけで敬遠するのは勿体ない傑作。

ベストエピソード : s2 ep7 "Scroggin"

 

2位「ファーゴ」(シーズン2)

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シーズン1ではコーエン兄弟作品へのオマージュを取り入れ高評価を得たことにより、シーズン2ではその箍が外れ、オマージュを残しながらも今回はオリジナリティを前面に押し出し、その結果シーズン1を越えてしまった。誤解が生み出す暴力と死の連鎖に呆れながらも笑わせるクリエイター、ノア・ホーリーの手腕たるや本当に見事。キルスティン・ダンストも狂気の演技で女優の意地を見せつけた。

ベストエピソード : ep8 "Loplop"

 

1位「トランスペアレント」(シーズン2-3)

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トランスジェンダー父親とその家族を描くAmazonオリジナルドラマ。シーズン2ではナチスから迫害されていた彼らの祖先の姿とともにアイデンティティを巡る物語を壮大に描き、シーズン3では身近な人の死や別れをきっかけに自身と向き合う事になる家族の姿が描かれた。今回特に素晴らしかったのがシーズン2の第9話、女性からも男性からも受け入れられないモーラが、思わず女性のコミュニティを破壊してしまうというシーンがある。それがかつて彼らを迫害をしていたナチスの姿と重なることで、トランスジェンダーLGBT)が決して単なる被害者では無いことを描く。そんな傷だらけの彼らを優しく包み込むのは母親のシェリー。これまで家族から疎まれていた彼女が、シーズン3の最終話で、抱える問題全てを浄化するかの如く「きっとうまくいく」と高らかに歌い上げる姿にテレビの前でスタンディングオベーション。3年目になっても依然この時代を代表するドラマであり続けている。

ベストエピソード :

s2 ep9 "Man on the Land"

s3 ep10 "Exciting and New"

 

去年Netflixに押されてしまったHuluが、今年HBOと独占契約して一気に巻き返し。その一方でAmazonも「Mr.ROBOT」や「ファーゴ」、オリジナルドラマを次々に配信するなどし、結果溢れるほどの作品数にこちらは嬉し泣き状態。今後も3社で刺激し合うことより多くの作品が観られることを期待したい。

プレイリストで振り返る2016年の映画とドラマ

2016年に観た映画とドラマの中で流れて印象的だった曲(僕がプレイリストでヘビロテしていた10曲)とともに、それぞれの作品を振り返りたいと思います。 f:id:delorean88:20161226234311j:image

 

Good Girls / Elle King

 (個人的に)今年一番の重要作の『ゴーストバスターズ』から。エンドロールまで楽しさを詰め込んだ最高のエンタメ映画。劇場が笑いに溢れていたのも良い思い出。

 

Beyond Clueless / Summer Camp


膨大な学園映画をサンプリングして再構築を試みた野心作『ビヨンド・クルーレス』から。歌うのは僕らのサマーキャンプ。明るさだけでなく、どことなく暗さを孕んだ歌声が、「学園」 を描いた作品とマッチしていた。

 

Sarah / Alex G


Netflixドラマ『Flaked』から。コメディ俳優ウィル・アーネットが自ら製作を手掛けた新境地的脱力系ドラマ。作品としてはイマイチかもしれないけど、カリフォルニアの気怠げな雰囲気と、哀愁たっぷりに描かれるダメ男の主人公を観てるとなんだか泣けてくる。デヴィッド・ドゥカヴニーの「カリフォルニケーション」にも通ずる男泣きドラマ。

 

I'll Fight / Wilco


ジャド・アパトー製作ドラマ『LOVE』 の最終話で流れるI'll Fight。お互いの欠点を知りながら、それでももう一度共に生きる事を決めた2人のテーマに涙。

 

Squeeze Me / N.E.R.D.


子供向けとは到底思えない「スポンジボブ」の劇場版第2弾『海のみんなが世界を救Woo!』(邦題もなかなか狂ってる)。まさかのトリップシーン(本当に)で使われてて印象的だったこの曲は、プロデュースがファレル・ウィリアムスだけあってキャッチーで耳に残る一曲。

 

Can't Bring Me Down / Awreeoh


黒人版「スーパーバッド」かと思いきや、シビアな着地の仕方が面白かった『DOPE』から、劇中の架空のバンドAwreeohが歌う一曲。「スポンジボブ」に続いて、今作でも楽曲のプロデュースを手がけたファレル・ウィリアムスは、楽曲だけでなく作品のプロデュースにも関わっている。

 

Trouble Town / Jake Bugg


BBCの刑事ドラマ『Happy Valley』のオープニングテーマ。国営放送とは思えない陰惨なバイオレンス描写とボコボコになりながらも犯人を追い詰める主人公のオバさん婦警に毎回ハラハラしながらも釘付け。

 

Didn´t Leave Nobody But The Baby / Jeff Russo & Noah Hawley


TVシリーズ版『ファーゴ』シーズン2第1話のエンディング曲は、「オー・ブラザー!」でも使用されていた「Didn´t Leave Nobody But The Baby」のカバー曲。歌うのはなんとクリエイターを務めるノア・ホーリー。多才だなぁ。この他にもシーズン2では、コーエン兄弟作品のカバー曲が、随所で使用されていてそれを探すのも楽しかった。

 

Hand In My Pocket / Alanis Morissette


Amazonドラマ『トランスペアレント』シーズン3最終話から。アラニス・モリセットのこの曲を歌うのは、母親役のジュディス・ライト。これまで家族から疎まれてきた母だったが、この最終話で家族の抱える問題全てを包み込んで歌い上げる姿に涙。本当に素晴らしい回だった。

 

Can't Help Falling In Love / Patrick Wilson


今年ナンバーワンのホラー映画『死霊館 エンフィールド事件』。前作を上回る恐怖とともに、家族の愛を描いた本作でエルヴィスの代表曲を歌い上げるパトリック・ウィルソン。こんなに温かいシーンがあるホラー映画がこれまであっただろうか。

 

 

以上です。

というわけで、ドラマ、映画のベスト10はまた後日に。 

 

 

『ブレイキング・バッド』と『逆噴射家族』について~ブレイキング・バッドが影響を受けた日本映画

前回『ブレイキング・バッド』のシーズン2について書いた中で触れた傑作エピソード第10話「Over」と、製作側が(恐らく)影響を受けていると思われる日本映画『逆噴射家族』ついて書きたいと思います。以下ネタバレあり。

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第9話「4 Days Out」のラストで、ウォルターは、医師から余命半年と言われていた末期ガンが、縮小していると知らされる。喜ぶ妻に対し、呆然とするウォルターは、トイレに篭り、ハンドペーパーの容器をボコボコに殴る。そこにはガンを克服した「喜び」ではなく、明らかに「怒り」が描かれていた。

そして続く第10話「Over」では、その後のウォルターの様子が描かれる。彼は相棒のジェシーにドラッグビジネスから手を引く事を告げる。「ガンを宣告されて、なぜ?と思ったが、克服したと言われても同じく、なぜ?と思った。」そう家族に告白するウォルターの言葉が全てを現している。それは「麻薬精製」のきっかけ(言い訳)を失ってしまった事による喪失感である。そして、それは男としてのプライドを失ってしまったことを意味している。息子や、息子が父の自分より慕っている甥に対し怒りを露わにしたのもその理由からだ。そんな中、家で過ごす間ふと床下の腐食を見つけたウォルターは、家の工事に没頭し始める。

 

この回を観て思ったのが、1984年に石井聰亙が監督した日本映画『逆噴射家族』である。小林克也演じる父 勝国が念願のマイホームを手に入れるが、祖父が越してきたことから徐々に家族間に亀裂が生まれ、最終的には家族間での戦争にまで発展してしまうという驚愕のコメディ?映画なのだが、そこで描かれている父親と家の関係性、そしてその狂気に両作とも通じるところがある。

「Over」でのウォルター同様に、家の床下で白アリを見つけてしまった勝国は、「家を守らなくては」と仕事も休み、取り憑かれたように害虫駆除に励むシーンがある。彼らに共通して言えるのは、「家」が彼ら自身の心理状態を表しているということである。「家」は、家族を守る父、男としてのプライドそのもので、そこに生じた「歪み」を彼らは必死に修復しようとする。

また、狂気の発端となる重要なシーンも両作似ており、『逆噴射家族』では、会社を無断欠勤した事を上司に叱責されデスクに座る勝国が、突然思い立ったかのように会社を出ていくシーンがある。「Over」でも工具店のレジに並ぶウォルターが、突然レジを抜け出し、密売人と思われるジャンキーの元に向かう。(後ろでパソコンの音とレジの音という電子音が鳴る点まで類似している)

その他にも『ブレイキング・バッド』の他のエピソードと『逆噴射家族』の共通点が多く見受けられる。シーズン3第10話「Fly」は、ラボに迷い込んだ一匹の蝿を追い回すウォルターとジェシーを描いただけの密室エピソード(本国ではBottle Episodeと呼ばれる)だが、たった一匹の蝿に執念を燃やすウォルターは、退治したはずの白アリがまだいると思い込んで床下を掘り続ける勝国を連想させる。シーズン4第11話「Crawl Space」(これも床下が重要なキーとなっているエピソード)では、妻からある事実を知り床下でウォルターが発狂するという名シーンがあるが、『逆噴射家族』でも床下で呆然と仰向けに横たわる勝国を真上から捉えたカメラが徐々に引いていくという同じアングルのカットが存在する。

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また、夫の狂気に絶えられなくなった妻と夫のやり取りは、ドラマ史上屈指の名作「Ozymandias」(シーズン5第14話)での会話にも通じる。(「Ozymandias」も「Fly」も脚本は「Over」のモイラ・ウォーリー・ベケットだったりするのも偶然では無い気がする)

以上の理由から、『ブレイキング・バッド』は『逆噴射家族』に影響を受けている(はず)だと考えている。もしショーランナーのヴィンス・ギリガンに会う機会があれば是非聞いてみたいところである。

第68回エミー賞受賞作についての雑記

今日行われた第68回エミー賞の授賞式の感想について。今年は番狂わせも多く、そんな意味でも楽しい授賞式でした。

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今回の各主要部門の受賞結果は以下の通り。

【ドラマシリーズ部門】
〈作品賞〉
ゲーム・オブ・スローンズ
主演男優賞
ラミ・マレック 「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」
〈主演女優賞〉
タチアナ・マスラニー「オーファン・ブラック 暴走遺伝子」
助演男優賞
ベン・メンデルソーン「ブラッドライン」
助演女優賞
マギー・スミスダウントン・アビー
〈ゲスト男優賞〉
ハンク・アザリア「レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー
〈ゲスト女優賞〉
マーゴ・マーティンデイル「ジ・アメリカンズ」
〈監督賞〉
ミゲル・サポチニク「ゲーム・オブ・スローンズ
脚本賞
デヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイス「ゲーム・オブ・スローンズ

作品賞はやっぱり昨年同様「ゲーム・オブ・スローンズ」。「ブレイキング・バッド」という強豪が消えて以降、監督賞も脚本賞もしっかり押さえて、今や独壇場って感じ。いまだに僕はシーズン1止まりなのでそろそろちゃんと観始めないと怒られそうな気がしてきました。驚かされたのは各演技賞。主演男優賞は「Mr.ロボット」からレミ・マレックゴールデングローブ賞でも主演男優賞を受賞していたけど、GG賞は旬に飛びつく傾向があるので、堅いエミー賞では受賞は逃すと思っていた。主演女優賞は「オーファンブラック」のタチアナ・マズラニー。こちらもタラジ・P・ヘンソン、ロビン・ライトヴィオラ・デイヴィスらの名だたる強豪を押し退けて受賞。エミーもいよいよ若手に優しくなってきたか。

 

【コメディシリーズ部門】
〈作品賞〉
「ヴィープ(原題) / Veep」
主演男優賞
ジェフリー・タンバー「トランスペアレント
〈主演女優賞〉
ジュリア・ルイス=ドレイファス「ヴィープ(原題) / Veep」
助演男優賞
ルーイ・アンダーソン「バスケッツ(原題) / Baskets」
助演女優賞
ケイト・マッキノン「サタデー・ナイト・ライブ
〈ゲスト男優賞〉
ピーター・スコラーリ「GIRLS/ガールズ」
〈ゲスト女優賞〉
ティナ・フェイエイミー・ポーラーサタデー・ナイト・ライブ
〈監督賞〉
ジル・ソロウェイ「トランスペアレント
脚本賞
アジズ・アンサリ、アラン・ヤン「マスター・オブ・ゼロ」

こちらも作品賞は、昨年同様HBOの政治コメディ「Veep」。主演女優賞もジュリア・ルイス=ドレイファスが連続受賞。「風刺ではじめた政治ドラマが、今日ではドキュメンタリーになってしまいました」というスピーチが印象的だった。主演男優賞は「トランスペアレント」からジェフリー・タンバー。こちらも2年連続受賞で、司会のジミー・キンメルが「時間の節約に」と開始早々にトロフィーを渡し、笑いをとっていた。監督賞は同じく「トランスペアレント」のジル・ソロウェイ。この受賞したエピソード「Man on the Land」は、トランスジェンダーを単なる被害者として描くこと無く、更に作品のテーマを掘り下げた傑作エピソード。受賞後にジミー・キンメルから「コメディじゃないだろ」とツッコまれていたが、確かにこの回は全く笑えずただただ深く考えさせられる。脚本賞はなんとアジズ・アンサリが「Master of None」で受賞。主演男優賞は惜しくも受賞を逃したが、隣に座る母親の膝の上で受賞の発表を待つ姿には笑った。

彼が脚本賞を受賞した「Parents」は、その自らの両親の実話を基にしたもの。ドラマ内でも両親に感謝を述べていたが、スピーチや会場での様子も仲の良さが垣間見えて微笑ましかった。

もう一つ今回の受賞で嬉しかったのが、助演女優賞を受賞したサタデー・ナイト・ライヴのケイト・マッキノン。まさかの受賞で、普段はあまり感情を出さないケイトも涙ぐんでいた。でもしっかりスピーチでは「まずヒラリー・クリントンとエレン・デジェネレスに感謝」と述べて笑いをとるあたりはさすが彼女。そんなケイトを見つめるSNLの先輩芸人、ティナ・フェイエイミー・ポーラーの目は、まるで我が子の受賞を見ているかのように見えて、なんだかグッときてしまった。舞台裏でケイトの受賞を見ていた現在のSNLの同期、レスリー・ジョーンズの喜びもハンパなかったようで、本人が投稿したツイートは笑えたけどケイト以上に喜ぶその姿に感動してしまった。

リミテッドシリーズ部門は、「アメリカン・クライム・ストーリー O・Jシンプソン事件」がほぼ独占。「glee」から「アメリカン・ホラー・ストーリー」、「ノーマルハート」など定期的に話題を提出し続けるライアン・マーフィーは新たな「J・Jエイブラムス」、もしくはそれ以上かも。これからもますます目が離せない。

そんな今年のエミー賞授賞式のMVPは、司会のジミー・キンメルのお母さんと、そのお母さん特製のピーナツバターサンドを配る「ストレンジャーシングス」の子供たちでした。

この「ストレンジャーシングス」の愛されっぷりからすると、間違いなく来年のエミー賞には絡んでくるだろうな。そんな予想も含めてまた来年どんなドラマが観られるのか今から楽しみだ。

第68回エミー賞ノミネートについての雑記

今年エミー賞ノミネートについて予想しました。未見のドラマ、エピソード等は排してるのでかなり偏った予想です。

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【ドラマ部門】

〈作品賞〉

The Americans (FX)
Better Call Saul(AMC)
Downton Abbey(PBS)
Game of Thrones(HBO)
Homeland(Showtime)
House of Cards(Netflix)
Mr. Robot (USA)

昨年遂に受賞を果たした「ゲーム・オブ・スローンズ」や、常連の「ハウス・オブ・カード」が並ぶ中、やはり受賞は今季でファイナルシーズンを迎えた「ダウントンアビー」に。今年シーズン4でようやくノミネートされた「ジ・アメリカンズ」にも注目したいところ。一方で放送開始早々ゴールデングローブ賞でいきなり作品賞を受賞した「Mr.ロボット」も受賞の可能性はゼロではないが、同賞でノミネートされてた「ナルコス」が本レースではガン無視されるなど、「初モノ」に甘いGG賞とエミー賞に大きな隔たりがあり、当てにならない。

 

主演男優賞

Kyle Chandler as John Rayburn on Bloodline (Netflix)
(Episode: "Part 23")
Rami Malek as Elliot Alderson on Mr. Robot (USA)
(Episode: "eps1.0_hellofriend.mov")
Bob Odenkirk as Jimmy McGill on Better Call Saul (AMC)
(Episode: "Klick")
Matthew Rhys as Philip Jennings on The Americans (FX)
(Episode: "The Magic of David Copperfield V: The Statue of Liberty Disappears")
Liev Schreiber as Ray Donovan on Ray Donovan (Showtime)
(Episode: "Exsuscito")
Kevin Spacey as President Frank Underwood on House of Cards (Netflix)
(Episode: "Chapter 52")

ベテラン揃いの中、こちらも「Mr.ロボット」からレミ・マレクが初ノミネート。サイコ演技はなかなか良かったけど、やっぱりここは先輩方に受賞を譲るのでは。「ベター・コール・ソウル」シーズン2最終話"Klick"で名演を見せたボブ・オデンカークよりも、やはり毎年受賞を逃していたケビン・スペイシー大統領が遂に当選する可能性が高い。

 

〈主演女優賞〉

Claire Danes as Carrie Mathison on Homeland (Showtime)
(Episode: "Super Powers")
Viola Davis as Prof. Annalise Keating on How to Get Away with Murder (ABC)
(Episode: "There's My Baby")
Taraji P. Henson as Cookie Lyon on Empire (Fox)
(Episode: "Rise by Sin")
Tatiana Maslany as Sarah Manning, Alison Hendrix, Cosima Niehaus, Beth Childs, Rachel Duncan, and MK on Orphan Black (BBC America)
(Episode: "The Antisocialism of Sex")
Keri Russell as Elizabeth Jennings on The Americans (FX)
(Episode: "The Magic of David Copperfield V: The Statue of Liberty Disappears")
Robin Wright as First Lady Claire Underwood on House of Cards (Netflix)
(Episode: "Chapter 49")

スーサイド・スクワッド」でのビッチ演技が記憶に新しいヴィオラ・デイヴィス先生は、シーズン2は未見だが、2年連続受賞は厳しいかなと思いつつ、一票。「ジ・アメリカンズ」組は夫婦揃って初ノミネート。同じくファーストレディーロビン・ライトも夫同様毎年悔しい思いをしているのでそろそろ受賞しても良い頃かな。

 

【コメディ部門】

〈作品賞〉

Black-ish (ABC)
Master of None (Netflix)
Modern Family (ABC)
Silicon Valley (HBO)
Transparent (Amazon)
Unbreakable Kimmy Schmidt (Netflix)
Veep (HBO)

ここはぜひインド系スタンダップコメディアン、アジズ・アンサリが主演・脚本・監督を全てこなした力作「マスター・オブ・ゼロ」に。昨年本命だったにも関わらず「Veep」に負けた「トランスペアレント」シーズン2も前季から大きく方向性を変えながらもかなり深いテーマまで突き詰めた傑作だったので受賞の可能性も高い。「アンブレイカブル・キミー・シュミット」は、正直前季の方が個人的に良くできていたと思う。

 

〈監督賞〉

Master of None (Episode: "Parents"), Directed by Aziz Ansari (Netflix)
Silicon Valley (Episode: "Daily Active Users"), Directed by Alec Berg (HBO)
Silicon Valley (Episode: "Founder Friendly"), Directed by Mike Judge (HBO)
Transparent (Episode: "Man on the Land"), Directed by Jill Soloway (Amazon)
Veep (Episode: "Kissing Your Sister"), Directed by David Mandel (HBO)
Veep (Episode: "Morning After"), Directed by Chris Addison (HBO)
Veep (Episode: "Mother"), Directed by Dave Stern (HBO)

「トランスペアレント」の第9話"Man on the Land"は、このシーズンの核心となる重要なエピソード。この回で、本作は「トランスジェンダーのドラマ」という枠から抜け出した感がある。マイク・ジャッジ監督の「シリコンバレー」シーズン3第1話も素晴らしかった。

 

脚本賞

Catastrophe (Episode: "Episode 1"), Written by Rob Delaney and Sharon Horgan (Amazon)
Master of None (Episode: "Parents"), Written by Aziz Ansari and Alan Yang (Netflix)
Silicon Valley (Episode: "Founder Friendly"), Written by Dan O'Keefe (HBO)
Silicon Valley (Episode: "The Uptick"), Written by Alec Berg (HBO)
Veep (Episode: "Morning After"), Written by David Mandel (HBO)
Veep (Episode: "Mother"), Written by Alex Gregory and Peter Huyck (HBO)

ここはアジズ・アンサリ「マスター・オブ・ゼロ」から"Parents"に。インドから渡ってきた両親(演じるのもアジズの本当の両親)のルーツを探る傑作回。一周回って皮肉なオチも効いていてここは受賞してほしいところ。でも個人的には第3話の"Hot Ticket"や第9話"Mornings"の方が優れていたと思うけど。

 

主演男優賞

Anthony Anderson as Andre "Dre" Johnson, Sr. on Black-ish (ABC)
(Episode: "Hope")
Aziz Ansari as Dev Shah on Master of None (Netflix)
(Episode: "Parents")
Will Forte as Phil "Tandy" Miller on The Last Man on Earth (Fox)
(Episode: "30 Years of Science Down the Tubes")
William H. Macy as Frank Gallagher on Shameless (Showtime)
(Episode: "I Only Miss Her When I'm Breathing")
Thomas Middleditch as Richard Hendricks on Silicon Valley (HBO)
(Episode: "The Empty Chair")
Jeffrey Tambor as Maura Pfefferman on Transparent (Amazon)
(Episode: "Man on the Land")

「Master of None」のアジズに受賞してほしいところはあるものの、ここはやはり監督賞と同様に「トランスペアレント」のジェフリー・タンバーに。

 

助演男優賞

Louie Anderson as Christine Baskets on Baskets (FX)
(Episode: "Easter in Bakersfield")
Andre Braugher as Captain Ray Holt on Brooklyn Nine-Nine (Fox)
(Episode: "The Oolong Slayer")
Tituss Burgess as Titus Andromedon on Unbreakable Kimmy Schmidt (Netflix)
(Episode: "Kimmy Gives Up!")
Ty Burrell as Phil Dunphy on Modern Family (ABC)
(Episode: "The Party")
Tony Hale as Gary Walsh on Veep (HBO)
(Episode: "Inauguration")
Keegan-Michael Key as Various Characters on Key & Peele (Comedy Central)
(Episode: "Y'all Ready for This?")
Matt Walsh as Mike McLintock on Veep (HBO)
(Episode: "Kissing Your Sister")

アンブレイカブル・キミー・シュミット」から2度目のノミネートのタイタス・バージェスに。

 

助演女優賞

Anna Chlumsky as Amy Brookheimer on Veep (HBO)
(Episode: "C**tgate")
Gaby Hoffmann as Alexandria "Ali" Pfefferman on Transparent (Amazon)
(Episode: "Bulnerable")
Allison Janney as Bonnie Plunkett on Mom (CBS)
(Episode: "Terrorists and Gingerbread")
Judith Light as Shelly Pfefferman on Transparent (Amazon)
(Episode: "Flicky-Flicky Thump-Thump")
Kate McKinnon as Various Characters on Saturday Night Live (NBC)
(Episode: "Host: Ariana Grande")
Niecy Nash as Denise "DiDi" Ortley on Getting On (HBO)
(Episode: "Don't Let It Get in You or on You")

今年こそ「トランスペアレント」のもう一人の主役であるギャビー・ホフマンに。彼女なくしてこのドラマの成功はあり得ないと思っている。同作で母役のジュディス・ライトもノミネート。その他「ゴーストバスターズ」でキレまくってたケイト・マッキノンも2年連続ノミネートだが受賞は難しいかも。

 

 

『ブレイキング・バッド』シーズン2とバタフライ効果

バタフライ効果」をご存知だろうか。「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起きる」という話からその名が付いた現象のことで、関係ないと思われるような初期の小さな要因が、将来の結果に大きな影響を及ぼすことを表している。そんな些細な事柄により引き起こされた顛末を13話で描き切ったのが「ブレイキング・バッド」のシーズン2である。

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シーズン1では、主人公のウォルターがどうして覚醒剤の精製に手を出す事になったのか、そしてそれが及ぼす影響を描いていたが、シーズン2では、更にその「影響」について掘り下げる。家族を守るために始めたウォルターの「選択」は、その守るべき家族へ脅威を及ぼし、やがて相棒のジェシーの恋人をきっかけに、大きな事件を引き起こす。今シーズンでキーアイテムとして扱われている「ピンクテディベア」が示す意味が最終話で明らかになる時、はじめてウォルター(そして視聴者)は、「その選択」の及ぼした事の重大さに気がつくのだ。 

シーズン2では、いくつかのエピソードの冒頭に、この最終話への伏線が散りばめられており、話が進むにつれて、パズルのピースが回収されるが如く徐々に最終話で起きた不穏な出来事が明らかになってくる。(余談だが、実はこの伏線が描かれてるエピソードタイトルを順に並べると最終話の出来事を示す文になるという凄いネタも隠されている)

 

そんな壮大な伏線と緻密に練られたシーズンでありながら、個々のエピソードも非常に秀作が多い。特に傑出したエピソード、ジャンキーに監禁されたジェシーと彼らの子どもとのやり取りを描く第6話「Peekaboo」や、荒野に取り残されたウォルターとジェシーが喧嘩しながらも科学の力で危機を乗り越える第9話「4 Days Out」などは、正に「ブレイキング・バッド」の持つ面白さを凝縮した回である。

だが、今シーズン、ひいては全シーズンの中でも特に優れたエピソードだと個人的に思っているのが、第10話「Over」である。このエピソードで、本作はある転換点を迎えた。それはドラマ(そしてウォルター)のきっかけを、根底から覆すものなのだが、その転機をご都合主義に終わらせず、更にドラマの持つ狂気のレベルをぐっと押し広げることに成功した。この展開には本当に感心した。

 

シーズン1の放送を終えた本作は、批評家からは賞賛されたものの、同時期に同放送局のAMCが人気ドラマ「マッドメン」を放送していたこともあり、その陰に隠れ視聴率は伸び悩んでいた。しかし、ヒットを確信していたAMCは、シーズン1の倍以上の話数の13話をオーダー。そんな局からの期待とチャンスを、ショーランナーのヴィンス・ギリガンは大胆にもシーズン丸ごとを使った壮大な「選択と結果」の物語にしてしまった。しかしこの決断が、今後の番組の方向性を決定付け、更には「ブレイキング・バッド」の知名度を上げることになったのだ。

 

(全く余談だが、冒頭に述べたバタフライ効果については、『ジュラシック・パーク』で耳にした人が多いかもしれない。映画でもジェフ・ゴールドブラム演じるマルコム博士が触れていたが、原作ではより話のテーマとして描かれている。パーク同様に、周囲を大惨事に巻き込んでいくウォルターは、まるでT-REXのようである)

リブート版『ゴーストバスターズ』を観た!

「ポール・フェイグがクリステン・ウィグメリッサ・マッカーシーらを起用してゴーストバスターズの新作を撮る」というニュースが報じられてからひたすら楽しみに待っていたリブート版『ゴーストバスターズ』。その感想を極力ネタバレ無しで書きます。

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前回も書いたが、今回の『ゴーストバスターズ』はキャストを女性に一新したことで、既に公開前から大きな批判があった。

更には出演者の一人、レスリー・ジョーンズがTwitterで集中攻撃される事態にまで発展。Twitter本社がアンチを煽った犯人をTwitterから永久追放するなどの対応も話題となった。そんな意味でも注目されてしまった今回のゴーストバスターズだったが、それらのスキャンダルをも吹き飛ばすほど映画自体は最っ高にパワフルで面白かった。

演じる今回の新バスターズの4人のやり取りはは、まるでコントを見ているかのようで、クリステン・ウィグメリッサ・マッカーシーは勿論のこと、2人に比べると知名度は低いレスリー・ジョーンズ、ケイト・マッキノンの2人も抜群の個性を発揮しており、劇場は大爆笑だった。

 

また、今作は、ゴーストバスターズが如何にして「ゴーストバスターズ」となっていったかの過程が描かれるのも特徴的だった。あの有名な「ノーゴーストマーク」はどのようにロゴとして採用されたか、プロトンパックはどのように生まれたのか等、オリジナルではさり気なく登場していたプロップがどのような経緯で生まれたのかファンは気になるところ。そこにしっかりと説明を加えるあたりが、ポール・フェイグの真面目さとオリジナルへの愛がうかがえる。

その他にもオリジナルで人気だったゴーストも再登場するのだが、単に登場させるだけでなく、その使い方も工夫がされていて感心した。それはオリジナルのキャストのカメオ出演にも言える。特に、ビル・マーレイの使い方は皮肉が効いていて爆笑だった。

だが、なんと言っても今作で一番観客の笑いをかっさらっていったのが、クリス・ヘムズワース演じる秘書のケヴィン。オリジナルではキレ者の秘書をアニー・ポッツが演じていたが、今回クリヘムが演じる秘書のケヴィンは、完全にバカ丸出しで、これまでの映画でありがちだった「美人しか取り柄がない女性秘書」というところの逆にいき、イケメンだけど無能な「観賞用」の秘書をイキイキと演じていた。彼はサタデー・ナイト・ライブにホストとして出演した時から、抜群のコメディセンスを発揮してたが、今回の演技で完全にコメディアンの才能を証明してみせた。

 

そんな今回の『ゴーストバスターズ』、これまでの敵は、破壊の神様や中世の騎士などオカルト的要素が強かったが、今回の敵は普通のおっさん。好みが分かれるところかもしれないけど、実はこのおっさんも、主人公のエリンやアビーのように周りから虐げられてきた弱者の一人。ただ道を踏み外してしまっただけに過ぎない。その同じ境遇の相手を敵にするところがポール・フェイグらしいと思う。

それはラストにも言えることで、ニューヨーク市民の歓声に包まれて終わる1作目、2作目とは違い、人知れず街を救ったバスターズが迎えるラストには、「誰しもヒーローとなり得る」「誰かはきっと応援してくれている」というポール・フェイグの弱者に対しての温かい眼差しを感じる。思えば、彼はTVシリーズ「フリークス学園」から近年の「SPY」に至るまで、常に虐げられてきた弱者を中心とした物語を描いてきた。
「ビッチどもにゴーストなんか退治できない」なんて、奇しくも現実で騒がれているような台詞が劇中でも出てくるが、そんなことも物ともせず、ひたすら自分たちの信念で突き進み、互いに助け合いながら敵に立ち向かうからこそ、彼女たちは本当にカッコ良いのだ。

 

そして、何より今回嬉しかったのは、映画館が笑いに包まれていたこと。日本では、アメリカンコメディが冷遇されがちで、なかなか映画館で上映されなかった。今作は「ゴーストバスターズ」というタイトルで全国公開されたが、蓋を開ければ完全に中身はコメディ映画であり、それが日本でもちゃんとウケていることが何より嬉しかった。だから、みんなで笑えて、みんなで楽しめる今回のリブート版『ゴーストバスターズ』は、なるべく満員の映画館で、そしてゲラゲラ笑いながらみんなで観てこそ、一番楽しめると思う。そして、これがきっかけでもっと沢山のコメディが映画館で上映されるようになってほしいと思う。