悪魔の吐きだめ

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Amazonが放つデジタルネタ満載のコメディドラマ「アップロード」

5月から配信がスタートしたAmazonのオリジナルドラマシリーズ「アップロード〜デジタルなあの世へようこそ」。副題からもわかるようにデジタル化された“あの世”を舞台としたコメディドラマである。

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物語は、死んだ人々の記憶をデジタル化してクラウド上にアップロードし、その仮想現実の世界で住むことができるようになった近未来が舞台。交通事故により、自らの意思に反して仮想現実にアップロードされてしまった主人公のネイサンが、死後のデジタル世界での生活に葛藤するようすと、自らの死に追い込んだ人物を探るサスペンスを織り交ぜたドラマである。


ただ、近年似たドラマは既にいくつか存在しており、近未来を舞台としたアイロニックなSFアンソロジー「ブラックミラー」の中のエピソード「サンジュニペロ」でもデジタル化された死後の世界が描かれていたし、コメディドラマ「グッド・プレイス」でも何でも望みが叶う天国を舞台としていた。そのため、今作「アップロード」のあらすじを聞いてもあまり目新しさは感じないかもしれない。(視聴者の目が肥えるとは恐ろしいことだ)


しかしそれを以ってしても、このドラマには多くの魅力がある。死後デジタル化された人すべてが裕福な暮らしができるわけではないことを今作では描いている。富裕層であればリゾートのような仮想現実にアップロードされるものの、逆に貧困層は容量制限がかけられた質素なアパートのような中に入ることになる。容量が少ないと電話や思考するだけでギガを使い果たして月末まで機能停止してしまったり、さらにお金がない人は読書もゲームも無料版や試供品のコンテンツしか使う事ができない。(本も冒頭の5ページしか読む事ができないため、ハリーポッターが魔法使いだと分からないままでいる少年の描写が秀逸だ)
他にも、仮想現実の世界では、1回興味を示しただけで煩いほどにリターゲティングの広告に追い回されたり、建物に入るために複数のパネルから信号機の画像を選ばないといけないなど、インターネットユーザーであれば誰もが感じたことがある「あるある」が擬人化・具現化して描かれているため笑ってしまう。


また、もう一つ注目したいのが今作のショーランナーを務めたのが、アメリカで大人気だったコメディ「The Office」や「Parks and Recreation」を手掛けたヒットメイカー、グレッグ・ダニエルズであるということだ。

実は先に類似作品として挙げた「グッド・プレイス」のショーランナーのマイケル・シュアは「Parks and Recreation」でダニエルズとともに共同でショーランナーを務めていた仲であった。「Parks」以降でそれぞれ別の道を進み始めた2人は、シュアは「グッド・プレイス」、ダニエルズは「アップロード」とそれぞれ脚本を同時期に進めていながら、お互いのアイデアは口にしなかったという。そんな中で「グッド・プレイス」がスタートし、ヒットしている中で先を越されてしまったダニエルズは相当悔しかったに違いない。

【製作秘話】Amazonドラマ『アップロード』設定は30年前に作られていた。『グッド・プレイス』との意外な関係も【アップロード ~デジタルなあの世へようこそ】VG+ (バゴプラ) | VG+ (バゴプラ)

そしてこの裏話が、「アップロード」の物語で描かれる主人公のネイサンが、競合となる仮想現実を作り上げてライバルから命を狙われるという展開と奇しくも重なるのも面白い。

とはいえ、ファンタジーとしての天国と善行についての哲学を描いた「グッド・プレイス」と、デジタル世界における人間の価値を描いた「アップロード」は両者それぞれに異なる魅力があると思う。


ダニエルズにとっては今作が「Parks and Recreation」以来5年振りの新作となったが、続けて今月5月末にはさらに新作のコメディシリーズ「スペース・フォース」がNetflixでスタートする。「The Office」のスティーヴ・カレルと再びタッグを組み(カレルは共同ショーランナーも務める)こちらも楽しみである。