悪魔の吐きだめ

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アナベルから本家「死霊館」へのラブレター?『アナベル 死霊博物館』

ジェームズ・ワンが監督した「死霊館」(The Conjuring)は本当に凄いホラー映画だった。“出そうで出ない(けどやっぱり出てくる)”脅かし演出、ホラーに似つかわしくない流麗なカメラワークなど、ビジュアルや大きな音に頼るだけのワンパターン化していた近年のホラー映画と比べて、極めてストイックなホラー映画として人気を博した。
ただ、その完成度の高い「死霊館」の映画の中で妙に浮いた存在がいた。そう、アナベルである。

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とにかくアナベルそもそも顔面のビジュアルからして凶悪すぎる。先にのも述べたように見た目の派手さで観客を驚かさないストイックな今作の中でその逆を行く、いわゆる見た目重視の古典的な存在なのである。


さらにアナベルを違和感たらしめてるのはその登場シーンで、「死霊館」1作目の序盤と中盤にアナベルは登場するものの、メインとなるペロン一家の物語とは直接的な関係がないのである。キリキリとした緊張感の中で進む話の中盤、突如始まるアナベルの小話の唐突感たるや、コース料理を食べていたら途中で突然ハンバーガーを出されたようなジャンクさである。
そんな存在でありながらも、結局はそのやたら恐ろしいビジュアルで人気を博したアナベルはスピンオフとなりシリーズ化を果たす。


今回の「アナベル 死霊博物館」は、そんなアナベルシリーズの3作目となる。
物語は「死霊館」1作目の冒頭のウォーレン夫妻がアナベル人形を引き取るところから始まる。ここで注目すべきは、ウォーレン夫妻の再登場である。これまで本家「死霊館」2作品以外の、「アナベル」を含めたスピンオフが5作品が製作されたが、夫妻を演じるパトリック・ウィルソンヴェラ・ファーミガがスピンオフ作品に出演したのは今回が初めてなのである。


夫妻が自宅へとアナベルを持ち帰り、これまで除霊してきた数々のアイテムを保管するコレクションルーム内にアナベルを封印する。と、ここでオープニングになるのだが、「この時夫妻はアナベル人形のもたらす本当の恐怖を知る由もなかった・・・」云々と書かれたテロップが流れ、ゴゴゴゴと不穏な音楽とともに大きな文字で「Annabelle Comes Home」とタイトルが現れる。実はこのオープニングクレジット、死霊館」のそれと全く一緒なのである。

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つまりウォーレン夫妻が登場し、このオープニングを再現しているということは、「はい、これから死霊館のパロディをやりますよ!」と冒頭で宣言しているも同然なのだ。


時は流れて、ウォーレン夫妻の娘ジュディが両親が留守にする間、ベビーシッターのメアリーに預けられる一日が描かれる。そこでメアリーの友人ダニエラがこっそり夫妻のコレクションルームに侵入。アナベルが封印された箱を開けてしまい、これがきっかけで部屋に閉じ込められていた悪霊たちが一気に解き放たれてしまうのだ。産みの親ジェームズ・ワン曰く死霊館版ナイトミュージアムというように、ここからはお化けのどんちゃん騒ぎとなるのだが、冒頭の宣言通り、驚かし方は本家の伝統芸“出そうで出ない”寸止めドッキリ(勝手に命名をきっちり踏襲しまくる。その他にも、寝ている間に足を引っ張ったり、お化けからのゲロ移し、壁に掛けられた十字架が逆さを向くなどとにかく「死霊館」ネタで少女たちを攻めまくる。


この本家元ネタ攻撃に対抗するのはウォーレン夫妻!と思いきや、戦うのはその娘のジュディなのである。「死霊館」1作目の以後に当たる今作は、1作目でアナベルにより恐怖のドン底に突き落とされたジュディとアナベルとのリベンジマッチとなるのだ。これはつまり「死霊館」1作目で生き延びたジュディに対して、凶暴な不良少女であったアナベルが追放(スピンオフ)となった今、アナベルが本家「死霊館」へのカムバックの凱旋試合に挑む物語なのではないかと思えてくる。原題のタイトル「Annabelle Comes Home」の「Home」とは正に本家「死霊館」のことではないか!


そう考えると、今作で「死霊館」のネタを散りばめていた理由はオリジナルへのリスペクトであり、アナベルから本家「死霊館」へのラブレターのように思う。
いつしか独走状態となっていたアナベルシリーズにおいて今作は、オリジナルへの回帰を目指した作品でありながら、その一方で、本家では出来なかった(良い意味で)下品なジャンル映画の楽しさを押し出している。

そんな映画のエンディングに流れるのはKing Harvestの「Danicing in tne Moollight」。その歌詞を見るとアナベル(そして彼女に取り憑いて操るジェームズ・ワン!)の「まだまだフザけさせてよ!」という無邪気なエクスキューズにも捉えられる。そう思うとあんなに凶悪なアナベルも、なんだか可愛らしく思えてきてしまうではないか。(いや、そんなことないか)

 


Dancing In the Moonlight

月が大きくて明るい夜は
オレたちは毎晩ようにハジけるんだ

 

それはとてつもない(超常的な)喜びなんだ
だってみんな月明かりの下で踊るんだから


此処にいるみんなはすごい奴らばかりだ
彼らは吠えたり、噛み付いたりなんかしないよ
楽しいことが好きで、ケンカもしない


みんな気楽に生きてるんだ
だからみんな月明かりの下で踊るんだよ