悪魔の吐きだめ

映画とかドラマとかの感想書いてます

「マイ・ブックショップ」小さな書店と厳しい現実

大人になってから本を多く読むようになった。何かきっかけがあったわけでは無かったと思うけど今まで触れてこなかったジャンルも含めて読み漁りはじめた。それがきっかけで今も本屋、それこそ大型書店から小さい古本屋まで、見かけるとつい立ち寄ったりしている。そんな中で最近知ったのが「一箱古本市」というもので、そこでは個人がそれぞれ持ち寄ったダンボール一箱分程度の古本を売ることからこの名前がついている。ただ、他のフリーマーケット等と異なるのが、自分たちが持ち寄った本、つまり思い入れがあり他の人にも読んで欲しいと思う本を箱に詰めて持ち寄っている点である。だからその本を手に取って眺めていると、売り手の人たちが「この本はねココが面白いんだよ」などと言って楽しそうに話しかけてくる。一箱とは言え彼らにとってはそこが小さな“書店”であり、その店主であるのだ。

前置きが長くなったが、今作の「マイ・ブックショップ」を観ていてその“小さな書店”の持つ温かさを思い出した。

f:id:delorean88:20190325013521j:image

エミリー・モーティマー演じる主人公のフローレンスは亡き夫との夢であった書店を小さな田舎町で開く決意をするところから映画は始まる。本を愛する彼女は店頭に本を並べながら、時にはその並べた本を手に取り読書に耽りながら店を作り上げていく描写がとても美しい。彼女がそっと本を手に取り、ふふふと目尻に皺を寄せて微笑む姿に、ああ本当にこの人は本が好きなんだな、と感じてしまう。

本を通して人々交流が深まる様子が描かれる点も今作の魅力で、フローレンスは家に引き篭もる老人(ビル・ナイ)に自分の知らない面白い本を届けて欲しいという依頼を受けて本(レイ・ブラッドベリの「華氏451」)を届けたり、アルバイトとして雇った(なのに読書嫌いな)少女クリスティーンに「本は好きじゃなくても構わないけど、この本だけは読んで欲しい」と「ジャマイカの烈風」を渡したり。そんな風に一冊の本を人に勧めて交流が深まっていくって素敵じゃないですか。

でもそんな本を通しての微笑ましいやり取りだけでこの映画は終わらない。本屋を営む彼女はそれを快く思わない町の住民から嫌がらせを受け始めるのだ。その主犯格とも言うべき富豪のガマート夫人を演じるのが、パトリシア・クラークソン。彼女はHBOのTVシリーズ「シャープ・オブジェクト」でも小さな田舎町の地主を憎々しげに演じていたがその嫌らしさは今作でも同様。フローレンスの書店を潰そうとあの手この手で攻撃してくる。

そして驚くのが、彼女の決断、迎える事の顛末のなんともビターな味わいである。それはラース・フォン・トリアーの「奇跡の海」とかなり近いものがある。同じ小さな港町が舞台という点が似ているのもあるのだが、それ以上に「奇跡の海」のベスと今作のフローレンスに同じ信念を持つ女性としての共通点を感じる。(もちろん「奇跡の海」の方が遥かにハードな内容であるのは確かだけど)

自分の行動が正しいと信じて貫き通すヒロインと、それを疎ましく目障りに思う周囲。その対比と彼女の決断に深く心が動かされる。そして、彼女が現実に負けてしまったとしても、それが何処かで実を結ぶラストがとても美しいのだ。

ちなみに今作を観た後、映画に出てきた本が読みたいと思って銀座の蔦屋書店に立ち寄った。丁度「マイ・ブックショップ」のフェアを開催していたこともあって、絶版となっている「ジャマイカの烈風」をそこで買えて満足した一方で、フローレンスがこのスターバックスが併設された巨大な店を訪れたらどんな気持ちになるだろうと思ったりもした。