悪魔の吐きだめ

映画とかドラマとかのことを書いてます。

2021年 映画ベスト10

毎年恒例の今年観た(公開・配信された)映画ベスト10について。

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第10位「バーブ&スター ヴィスタ・デル・マールへ行く」

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クリステン・ウィグとアニー・マモロウの「ブライズメイズ」コンビの新作ということで期待していたが、前作と打って変わって完全にバカバカしいコメディに振り切った快作(怪作)。中年期の女性の悲哀を混ぜたコメディになるかと思いきや、ツッコミ不在のまま突き進む異様さと底抜けにハッピーな展開にある意味感動。


第9位「ザ・スーサイド・スクワッド

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ディズニーに一時切られたジェームズ・ガンがワーナーと手を組んで、お金かけて好き放題やりまくった大作。今の時代にこんなビッグバジェットなB級映画(褒めてる)が作られることに心底驚いた。とはいえ後半からは陰に生きる人々をフィーチャーした展開はこれまでのガンの作品にも共通する至って真面目な映画でもあったなと思う。


第8位「ドント・ルック・アップ」

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超豪華俳優陣を揃えて今のコロナ禍とメディアと政治を全てひっくるめたブラックコメディとしてゲラゲラ笑いながらも、あまりに現実と地続きな話にギョッとする。すっかり最近は政治映画専門となったアダム・マッケイだが、近年の作品の中でも特に面白かった。


第7位「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」

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007への思い入れはそこまで無いのだが、ダニエル・クレイグのボンドの最終作としてもアクションとしても楽しめた一本。やはり何より白眉は、アナ・デ・アルマスとクレイグのアクションシーケンスで、この軽快さとユーモアは間違いなく脚本に参加したフィービー・ウォーラー=ブリッジの功績だと思うし、全編でこのノリが続いて欲しかったという気持ちもある。


第6位「スポンティニアス」

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ティーンエイジャーの身体が爆発する奇病が発生する死と隣り合わせの中で出会った男女の物語」というあらすじだけでは全く訳が分からないのだが、そんな変わった設定ながら中身はめちゃくちゃピュアな学園ラブコメ映画という佳作。チャーリー・プラマーとキャサリン・ラングフォードの演技もさることながら、10代の刹那な日常の切り取り方が秀逸だった。


第5位「パワー・オブ・ザ・ドッグ」

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広大な荒野を舞台に、高圧的な牧場主とそれを取り巻く人々の関係性がヒリヒリと描かれるのだが、何よりもベネディクト・カンバーバッチとコディ・スミット=マクフィーの演技の素晴らしさ尽きる。カンバーバッチ演じるフィルというキャラクターとマクフィー演じるピーターのパワーバランスが一気に逆転する場面は鳥肌モノ。単に“トキシック・マスキュリニティの解体”という言葉で片付けてはいけない、美しくもアブない雰囲気を纏った秀作。


第4位「ミッチェル家とマシンの反乱」

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映像が凄い、アクションが凄い、という以上に久々に超面白いコメディ映画だった。もちろん「スパイダーバース」の制作陣故に映像の情報量も途轍もないのだが、全編に渡るギャグの嵐と家族愛をテーマにめちゃくちゃ綺麗に収めてる点でも本当に凄い作品。


第3位「花束みたいな恋をした」

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恐らく観る人によっても思い入れや評価が変わる「あの時」を追体験できる胃痛恋愛映画。どの場面を切り取っても男女双方の視点で語ることができる点においても凄い作品で、今さらながら脚本家 坂元裕二のスゴさを知った一本。
別記事に感想を書いてるのでそちらも。


第2位「アメリカン・ユートピア

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トーキング・ヘッズは数曲知っている程度で、世代でも大ファンでもないのだが、まさかここまでハマるとは思ってなかった。デヴィッド・バーンの歌唱力と、楽器隊の生演奏の迫力、ヘンテコで癖になるダンスが組み合わさった時の高揚感がハンパない。特に「This Must Be The Place」の“Ooh〜”のくだりで行進するところが最高に好きです。


第1位「マリグナント」

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ホラー作品の監督から暫く離れ、すっかり大作映画監督のイメージとなりつつあるジェームズ・ワン。「死霊館3」の監督からも退いた裏で進めていた完全オリジナルの新作ホラーに期待していたが、まさかこんなトンデモ映画だったとはという驚き。そして、無茶苦茶な話ながら、これまで培った演出力で、ジャンプスケアに頼らない流麗なカメラワークやトンチキアングルのビジュアルの洪水で眼福&大満足。この暗い世の中でも、こんなぶっ飛んでとにかく楽しい映画からパワーをもらえたのが嬉しくて敢えて今年のベストとしました。


〈次点〉
「ファーザー」
親子のドラマかと思いきや、アルツハイマー患者の視点に立ったホラーでびっくりした。

「ビーチ・バム」
ユルいマシュー・マコノヒーのメロウなロードムービーとして面白かった。

「ズーム/見えない参加者」
「アンフレンデッド」と同じ系統かと思って嘗めてたら、あらゆるアイデアが凝縮されていて感動。世のZOOM系コンテンツはこれを見倣ってほしい。


〈見逃し旧作ベスト5〉
「スリー・フロム・ヘル
デビルズ・リジェクツが哀愁たっぷりに帰ってきただけで泣いた。

「恐怖のセンセイ」
新時代のファイトクラブ

「わたしたち」
小学生時代を追体験して号泣。

「ザ・ライダー」
意外にもサスペンスとして一級の面白さ。

「ソウルフル・ワールド」
物語、映像、音楽どこを取っても超一級。

2021年 ドラマベスト10

毎年恒例の今年のドラマランキング個人ベスト10について。

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10位「メア・オブ・イーストタウン」(HBO)

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ケイト・ウィンスレット主演の骨太ミステリー。小さな田舎町を舞台にした狭いコミュニティ内で顔見知りであるが故の疑心暗鬼となる人間ドラマの重厚さが流石HBO。ウィンスレットは言わずもがな、今年のエミー賞で無名ながら助演女優賞を受賞したジュリアンヌ・ニコルソンはじめ、住民役の役者陣がほぼ全員ハイレベルな演技をしているのも見どころだった。


9位「フィール・グッド」 シーズン2(Netflix

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コメディアンのメイ・マーティンの実体験を自らドラマ化した今作。シーズン1も素晴らしかったが、今シーズンでは主人公メイのトラウマへの向き合い方、心の機微を丁寧に(時に馬鹿馬鹿しくも)描いていてとても良かった。


8位「ザ・チェア」(Netflix

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サンドラ・オー主演、女優のアマンダ・ピートがショーランナーを務め、旦那のデヴィッド・ベニオフとD.B.ワイスのGoTコンビがプロデュースの「大学の教授陣の政権争いを描いたコメディ」と聞いて、まったく想像がつかなかったが、大学学部長を中間管理職として描きその悲喜こもごもを哀愁たっぷりに描いた作品として今年一ウェルメイドで期待を超えた面白さだった。サンドラ・オーの演技の巧みさも再認識。

 


7位「マスター・オブ・ゼロ」シーズン3(Netflix

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待望のシーズン3ながら、主演兼ショーランナーだったアジズ・アンサリはバックに回り、リナ・ウェイスとナオミ・アッキーを主役としたカップルのドラマを描いた今作。「Moment In Love」というサブタイトルが付くように、恋人同士だった2人が徐々にすれ違うまでの顛末、人生の楽しかった瞬間を切り取った丁寧なドラマに胸が締め付けられた。これまでにあったようなコメディの部分が無いため評価は分かれたものの、こうしたミニマムな人間関係こそが今作の魅力であり、「Master Of None」というタイトルが表すように「器用貧乏な」人間ドラマではないかと思う。

 


6位「大豆田とわ子と三人の元夫」(カンテレ)

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日本のドラマは殆ど観ないのだが、今作に関しては久々に「ハマった」という1本。決して大きな事件が起きることは無いのだが、松たか子演じる大豆だとわ子と周囲の人間ドラマ、コメディとサプライズの絶妙なバランスと、エンディングに至るまでの作り込みに毎週楽しみになってしまったドラマ。同じ脚本家の坂本裕二の過去作「最高の離婚」や「カルテット」も追いかけて観てすっかりドハマりしてしまいました。

 


5位「神話クエスト」シーズン2(Apple TV+)

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とあるゲーム開発会社を舞台にしたオフィスコメディとしてシーズン1はそこそこに楽しめたかなという印象だったが、シーズン2はギャグのキレが格段に上がりめちゃくちゃ笑えるとともに、前季で登場したキャラクターたちが際立ち一人一人のドラマが描けている点ですごく面白かった。シーズン1から2になる点で明暗が分かれるのはこのドラマをきちんと描けるかどうかではないかと今更ながら思う。昨年ベスト10に入れるぐらい面白かったのにシーズン2がまるで駄目だった「テッド・ラッソ」、「私の”初めて”日記」に共通して言えるのはこのキャラのドラマ、成長を描けていなかった点にあると思う。

 


4位「メイドの手帖」(Netflix

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「夫のDVから逃げるために娘を連れて家出した主人公がメイドになってお金を稼ぐ話」と聞いてあまりの重いテーマに観る気がなかなか起きなかったし、実際に重い物語と展開で気が滅入ることもあったのも事実。だが、それ以上に主演のマギー・ケアリーの憂い顔をしつつも気丈に振る舞う演技が(コメディ要素込みで)素晴らしく、かつハイテンポな演出で”ドラマ”というエンターテイメントにうまく落とし込んだ面白さがあった。後から監督・製作が「ER」シェイムレス」のジョン・ウェルズだと知り、驚きつつも納得した。

 


3位「ホワイト・ロータス」(HBO)

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ハワイのリゾートホテルを舞台にした宿泊客と従業員とのゴタゴタを描いたまさに”グランドホテル”形式のコメディドラマ。ブラックな笑いとぞれぞれの衝突が張り詰めていく中で、カットインで映し出されるハワイの絶景が素晴らしく、こんな大自然の中でもこんなにも醜くくて小さい諍いが起きるという皮肉さが良い。全話の脚本・監督を務めたマイク・ホワイトの手腕と、終始ヘコヘコと奇妙に鳴り続けて耳に残るテーマ曲、そして誰しも印象に残るであろうジェニファー・クーリッジの暴走演技で、唯一無二の世界観を作り上げた、楽しくも今年一クレイジーな1本。

 


2位「地獄が呼んでいる」(Netflix

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ある日突然地獄から来た使者が特定の人間を焼き殺す事件が発生し・・・という物語から驚きのツイストを加えた救いのない展開ながら、アクションの楽しさも兼ね備え、個人的には「イカゲーム」よりも遥かに面白く見どころがある韓国ドラマだった。「新感染」のヨン・サンホの作家性というのがイマイチ掴めていなかったが、人間の汚さという部分を煮詰めてエンタメに昇華する巧みさというのが今回で証明されたように思う。

 


1位「セックス・エデュケーション」シーズン3(Netflix

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シーズン1、2も観続けて好きなドラマではあったが、まさかここまで化けるとは・・・こんなにも泣かされるかと驚かされた意味でもダントツで今年一位のドラマ。性教育がテーマだけに前季まではイロモノ的なコメディ要素がメインだったが(それがこのドラマの魅力でもあったが)、今シーズンでは2年かけて描いたキャラクターたちをミックスし、一人一人をさらに深堀りしてこんな一面があったのか!と何度も笑いながら涙ぐんでしまった。

 


<次点>
「モーニング・ショー」シーズン2(Apple TV+)
ギョッとするエピソードもあり基本楽しめたが、いち早くコロナをテーマに取り入れつつも少し時期尚早で粗が目立ったのが残念。

「マーダーズ・イン・ビルディング」(Star/ディズニープラス)
スティーヴ・マーティンマーティン・ショートの懐かしい2人とセレーナ・ゴメスが織りなす古き良きミステリーという趣で、今年サプライズヒットとなった1本。ミステリーとして十分楽しめたものの、少しエンジンがかかるのが遅かった点と、やはりギャグがちょっと古かった・・・

 


<見逃し旧作ベスト5>
今年のドラマではないものの、見逃して面白かった5本もここで供養させていただきたい。

「バリー」 シーズン2(HBO)
第5話「ronny/illy」が最高!

「ザ・クラウン」シーズン3(Netflix
シリーズ最高傑作。

「ピュア」(BBC
何故UKドラマはこんなにも繊細で泣けるのか。

「Pバレー」(Starz)
ストリッパー版「オレンジ・イズ・ザ・ニューブラック」。

「僕らのままで/WE ARE WHO WE ARE」(HBO/Sky Atlantic)
ジャック・ディラン・グレイザー君の虜です。

2021年エミー賞受賞結果

珍しく多くの予想が当たった今年のエミー賞。サプライズは少なかったが、コロナ禍でアットホームな雰囲気の授賞式が良かった。やっぱりエミーはオスカーよりも敷居が低く観ていて楽しい。以下受賞結果について。

 

●ドラマ部門

・作品賞

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予想 ザ・クラウン

受賞 ザ・クラウン

これはもう納得の受賞なので。

 

・主演女優賞

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予想 エマ・コリン

受賞 オリヴィア・コールマン

ここはダイアナ妃のエマ・コリンかと思ったが…女王は強かった。

 

・主演男優賞

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予想 ジョシュ・オコナー

受賞 ジョシュ・オコナー

こちらは的中。あそこまで視聴者をイラつかせたチャールズ皇太子が受賞。他のキャストやメンバーがイギリスから中継参加にも関わらず、オコナーだけアメリカに来ていたところを見ると受賞は自分でも予想していたのだろう。とは言え劇中のチャールズ同様に猫背ではにかみながら用意してきたメモを読み上げる姿は可愛いらしかった。

 

助演女優賞

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予想 ジリアン・アンダーソン

受賞 ジリアン・アンダーソン

こちらも的中。あの癖のある話し方、最終話の感情露わにした鉄の女の演技はほんと素晴らしかった。

 

助演男優賞

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予想 マイケル・K・ウィリアムズ

受賞 トバイアス・メンジー

まさかここも「ザ・クラウン」とは…今までのシーズンと比べてもフィリップがフィーチャーされる回は無かったのでこの受賞は少し疑問が残る。

 

●コメディ部門

・作品賞

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予想 テッド・ラッソ

受賞 テッド・ラッソ

ここも下馬評通り、予想通り。とは言え監督賞、脚本賞が「Hacks」が受賞してしまったので少しハラハラしたが。来年以降も良きライバルとなりそう。

 

・主演女優賞

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予想 ジーン・スマート

受賞 ジーン・スマート

こちらも予想通り。主演としては初受賞、壇上でも貫禄あるスピーチでした。

 

・主演男優賞

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予想 ジェイソン・サダイキス

受賞 ジェイソン・サダイキス

ここも予想通り。エミー賞のノミネートも初。SNL時代の恩人ローン・マイケルズに感謝を述べていたのが印象的だった。話は逸れるが、今年は特にSNLの現役キャスト、サダイキスのようなOBメンバーの活躍が目立った。こうしてレベルの高いコメディアンを発掘し続ける番組として今だに一定の評価を保ち続けているローン・マイケルズは本当に凄い人物だ。

 

助演女優賞

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予想 ハンナ・ワディンガム

受賞 ハンナ・ワディンガム

ここも的中。初ノミニーの初受賞。ドラマのキャラとは打って変わって受賞にはしゃぐ姿が微笑ましかった。

 

助演男優賞

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予想 ボーウェン・ヤン

受賞 ブリット・ゴールドスタイン

ここで予想を外した。ただ納得の受賞ではある。ボーウェン・ヤンはいつかきっとケイト・マッキノンのように跳ねることは間違いないので受賞もそう遠くないだろう。(プレゼンターとしてもしっかり笑いを取っていた)

 

●リミテッドシリーズ部門

・作品賞

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予想 メア・オブ・イーストタウン

受賞 クイーンズ・ギャンビット

「クイーンズ・ギャンビット」は配信から時間が経ってしまっているため受賞は「メア・オブ・イーストタウン」に賭けたが…やはり強かったか。監督賞が「クイーンズ〜」、脚本賞が「I May Destroy You」だったためドラマシリーズ部門より混戦だった。

 

・主演女優賞

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予想 ケイト・ウィンスレット

受賞 ケイト・ウィンスレット

ここはベテランの納得受賞。オスカーを受賞していてもやっぱりテレビの賞でも獲れて大喜びしているウィンスレットを観て嬉しかった。

 

・主演男優賞

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予想 リン=マニュエル・ミラン

受賞 ユアン・マクレガー

ここは当てずっぽうだったので。

 

助演女優賞

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予想 ジュリアンヌ・ニコルソン

受賞 ジュリアンヌ・ニコルソン

ずばり的中!ニコルソンはほぼ賞レース経験の無い女優だったのでこういう人が実力を認められて受賞するのは本当に嬉しい。

 

助演男優賞

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予想 エヴァン・ピーターズ

受賞 エヴァン・ピーターズ

こちらも的中。スピーチで喜びが爆発して「ケイト・ウィンスレット!」と叫んだ瞬間は怒っているのかと思った。律儀にライアン・マーフィーにお礼を述べていたのも好印象。たしかに彼のおかげでここまで来れたのは間違いない。

2021年エミー賞予想

いよいよ明日に迫った第73回エミー賞について毎年恒例の受賞予想。

 

●ドラマ部門

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作品賞は「ザ・クラウン」と予想。今回がシーズン4にあたる今作だが、ドラマとして純粋にめちゃくちゃ面白かったという点で推したい。「ザ・ボーイズ」、「マンダロリアン」、「ブリジャートン家」はエンタメ色が強いため受賞は無いだろう。(どれも面白いのは確かだし好きではあるけど)「ポーズ」ファイナルシーズン、「This Is Us」シーズン5は未見のため評価できないのが残念。

 

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主演女優賞は「ザ・クラウン」でダイアナを演じたエマ・コリンと予想。エリザベス女王オリヴィア・コールマンすらも食ってしまっていた。ライバルは同じく初ノミニーの「ポーズ」のMJ・ロドリゲスかと。

 

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主演男優賞は「ザ・クラウン」でチャールズ皇太子を演じたジョシュ・オコナーと予想。今作のヒールとしても抜群の悪役ぶりだった。スターリング・K・ブラウン、ビリー・ポーターの可能性も捨てきれないが2人とも過去に一度受賞しているため初ノミニーのオコナーに票が行く可能性が高いと踏んだ。

 

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助演女優賞の候補がほぼ「ザ・クラウン」と「ハンドメイズ・テイル」に染まっているのが凄いが、ここはやはりサッチャーを演じたジリアン・アンダーソンと予想。ただ票割れが起きる可能性も捨てきれず「ラヴクラフトカントリー」のアーンジャニュー・エリスの受賞もあり得るかと。

 

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助演男優賞は亡くなったマイケル・K・ウィリアムズと予想。

 

●コメディ部門

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コメディ部門の作品賞はやはり「テッド・ラッソ」と予想。ライバルは「Hacks」か。「フライトアテンダント」も面白かったがちょっと粗が目立つドラマだったので。「エミリー、パリに行く」についてはノーコメント!

 

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コメディ主演女優賞は「Hacks」のジーン・スマートと予想。主演としては初となる受賞を期待。

 

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コメディ主演男優賞はジェイソン・サダイキスと予想。他候補と比べてもこれは間違いないだろう。

 

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コメディ助演女優賞は、SNLからマッキノン、ブライアント、ストロングの3名がノミネートされる快挙となったが票割れして「テッド・ラッソ」のハンナ・ワディンガムと予想。

 

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コメディ助演男優賞は願いも込めてズバリ、たSNLのボーウェン・ヤンと予想。ヤンが獲ったらスゴいという気持ちもあるけど、抜群の存在感と面白さで言えば可能性は全然アリ。

 

●リミテッドシリーズ部門

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リミテッドシリーズ部門の作品賞は「メア・オブ・イーストタウン」と予想。めちゃくちゃ良くできたサスペンスとして面白かったので。「クイーンズ・ギャンビット」も可能性はあるが配信から投票までに少し間が空きすぎてしまっているので。「ワンダヴィジョン」も面白かったけど…

 

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リミテッドの主演女優賞はケイト・ウィンスレットと予想。ライバルは今をときめくアニャ=テイラー・ジョイか「I May Destroy You」(はやく観たい!)のミカエラ・コールか。

 

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リミテッドの主演男優賞は「ワンダヴィジョン」以外観ていないので正直分からないが「ハミルトン」のリン=マニュエル・ミランダか。

 

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リミテッドの助演女優賞は「メア・オブ・イーストタウン」のジュリアンヌ・ニコルソンと予想。正直この方は存じ上げなかったのだが、素晴らしい演技だった。ジーン・スマートとキャスリン・ハーンのコメディエンヌっぷりも良かったが。

 

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リミテッドの助演男優賞は全員が初ノミネートというフレッシュな顔ぶればかりで予想が難しいが、ここはエヴァン・ピーターズに。

ヨルゴス・ランティモスの描く唯一無二の世界「アルプス」

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思い返してみて登場人物たちが一人として涙を溢していただろうか、と思ってしまう。
唯一涙を溢していたとしたら、目薬を差されていた主人公の父親だろう。それも強引に、だ。


「アルプス」の名付けられたグループは、突然家族を亡くした遺族に故人に成り代わって悲しみをケアしている。いや、ケアなのかどうかすら怪しい。彼らがこういった成り代わりを行う目的は明らかにされないからだ。
そこに所属する看護師の主人公が「アルプス」のメンバーに黙って勝手に故人の成り代わりを始めたことから起きる顛末が描かれる。


その故人に成り代わる演技も下手だし、故人の口癖すらも棒読み。“演じさせられている”という感じが強く、それに対する遺族も懐かしんだり、悲しんだりということもない。ただ、“演じる者”と“それを観る(見るではなく)者”の不安定な関係性だけが映し出されるのである。
そこにあるのは、誰かに真似事をしないと生きていけないというアイデンティティの欠如とも思える。


ヨルゴス・ランティモスの描く作品のキャラクターは一貫して「映画」という書き割りの中である種の「ルール」を課せられていて、その中で行動すること、感情を出すことを機械的に“強いられている”(ように観ている側は感じる)。「籠の中の乙女」や「ロブスター」、「聖なる鹿殺し」のいずれの作品でも、主人公たちは自らに課したルールをひたすら守り、決して逸脱しようとしない。その不穏な程の窮屈さ、偏屈さ(それ故の可笑しさ)はヨルゴス・ランティモスしか作り得ない唯一無二の世界観ではないだろうか。

「花束みたいな恋をした」の感想と妄想

観ている間Apple Watchが盛んに振動して心拍数が上昇していることをしつこく知らせてくるので、途中で外してしまった。観終わってそのまま帰路につき、徐にパソコンを開いてこれを書いている。「花束みたいな恋をした」は、きっと誰しも誰かに話したくなる作品だと思う。(ただその相手が恋人かどうかは別として)だからここに感想と妄想、思いを書き出したい。

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まず「花束みたいな恋をした」というタイトルは”した”というのがミソで、”する”でも”している”でもなくて、”した”のであってそれは過去形である。つまりこのカップルの終わりは既に冒頭から分かっている。2015年、付き合い出した2人が2020年に別れる。2人の結末がわかった上で観ることはとても辛い。いま付き合っている相手がいる人であれば尚更じゃないか?

菅田将暉演じる「麦くん」は調布に住み、有村架純演じる「絹ちゃん」は飛田給に住んでいる。2人を繋ぐのは常に京王線で、昔沿線上に住んでいた自分も懐かしい気持ちになる。
名大前で終電を逃した当時大学生の2人は、同じく終電を逃した会社員と思しき男性と女性、皆見ず知らずの状態でどうせなら、と飲みに行く。するとひょんな事から映画の話題になった時に、男性が「俺、結構マニアックな映画知ってるよ?ショーシャンクの空に、とか」と言う。女性もそれに乗っかって「私も魔女の宅急便(実写版)最近観たの〜」と言い出す。これに麦くんと絹ちゃんは苦笑する。もちろん観ているこちらも苦笑する。そこであぁなるほど、これはアウトサイダー同士なのだなと分かる。
善し悪しを言うのではないけれど、きっとこの社会人男性と女性側と全く同じ意見の人もいると思う。(というか現にいる)毎回映画好きの指標で「ショーシャンク」が持ち出されるのも可哀想な気もするが・・・今作の主人公の麦くんと絹ちゃんは”そちら側”ではない人間ということが瞬時に分かるエピソードだ。メインではない、サブの趣味。だから今作にはいわゆるサブカルチャーと呼ばれるような作品が多く触れられる。

その後2人になった麦くんと絹ちゃんは、意気投合しお互いに好きな本挙げる。穂村弘、今村夏子、羅列羅列羅列・・・観ようとしていたお笑い芸人のライブも履いている靴も同じ。同じ趣味嗜好。こんなことあるのか?答えは「ある」。稀に本当にそういう出会いはある。じゃあそんな趣味が合う2人が付き合えばベストカップルになってうまく行くか?という疑問というより、趣味が合う合わないという以前に、最高の状態で付き合い始めた恋人同士でも年が経つにつれて心が離れる、誰しも起こり得る話であって、映画の中で何か大きなイベントやアクシデントが起きずに別れることになる。これがこの映画の肝であって無茶苦茶に刺さる。

実家暮らしの絹ちゃんは就活のプレッシャーで親と合わなくなっていて、それに対して麦くんは「同棲しよう」と持ちかける。この麦くんの提案と言う部分が、後からも効いてくる。彼が行う大きな提案は「現状打破」という意味合いが強い。絹ちゃんは基本相手に同意するタイプで、すんなりこれを受け入れる。
調布駅から徒歩30分のマンションに住み始め、一緒に同じ本を読んで泣き、同じ映画を観て笑い、同じ時を過ごす。麦くんはイラストを描く仕事で細々と稼ぎ、絹ちゃんはアイス屋でアルバイトをする。

ここで大きな転機となるのが、麦くんの就職である。麦くんは新潟に帰るように言う親に反発し仕送りを止められてしまう。麦くんというのは、大学生の頃からおっとりした性格なのだが、生活を続けるために就職を選ぶとその性格が変わり始める。もとは夢だったイラストを描く仕事をしたいのだが、とりあえず一旦就職して仕事の合間で絵を描き続けようと考える。お金が貯まってちゃんと落ち着けば、また本来の目指す道に専念できる、と。既にこの時点で胸が苦しい。結果が目に見えているからだ。なぜなら自分自身が全く同じだったから。
17時で終わると聞いていた仕事は20時過ぎまでかかり、休日も仕事にかかりきりになる。2人で一緒に行くはずの舞台にも行かず、絹ちゃんだけがゲームをクリアして、漫画も先に進む。
「大きい音出してゲームしていいよ」と言いながら耳栓をする麦くん。気持ちが分かる。そうしたくないけど、そうなってしまう。「なんでもう前みたいに本を読まなくなったの?」と絹ちゃんに聞かれて、麦くんは「もうパズドラしかやる気が起きない」と言い放つ。辛い。

必ずしも仕事をすると全員そうなるわけではないが、麦くんのようになってしまう人(僕みたいに)は一定数いるのではないか。それが一律に悪いこととも言い切れない気もする。麦くんは絹ちゃんだけが変わらずにいつづけることに憤りを覚える。自分はこんなに頑張っているのに、責任持って仕事をしているのに。そんな独り善がりの言葉で絹ちゃんを傷つける。かつて就活で傷ついていた絹ちゃんを慰めた麦くんはそこにはいない。

だから2人の別れは本当に辛くて悲しい。麦くんはまたしても現状打破をする提案を持ちかけ、絹ちゃんはそれに納得するように自分に言い聞かせようとする。だが、もう2人は出会ったあの頃には二度と戻れないことを出会った場所で知ることになる。

事故も妊娠も何も起きない恋愛映画でありながら、ピークの状態で付き合った2人が別れるまでを克明に描いた秀作としてそれぞれの観た人の目線で語りがいのある本当に面白い映画、それが「花束みたいな恋をした」である。(自分の気持ちと少し距離を保つためにここは”面白い映画だった”と強く言っておきたい)

 

追記:絹ちゃんが劇中で観ている「ストレンジャー・シングス シーズン2」は、シーズン1は麦くんと一緒に観て2は1人で観ることに決めたんだろうかとか、テレビの前にあったミイラ展のガチャガチャは2019年の展覧会ものだけどこの時は2人で一緒に観に行ったんだろうか、など細かいところの妄想だけで話が尽きない。

青春映画「ペーパータウン」と「ぼくとアールと彼女のさよなら」について

休日にたまたま「ペーパータウン」と「ぼくとアールと彼女のさよなら」の青春映画2本を立て続けに観る機会があった。いずれもヤングアダルト小説の原作を基にした作品で、何年か前に読んでいたものの映画はずっと未見だった。


この2作には色々と共通点があって、主人公の高校3年生の男子の一人称視点で語られる形式で物語が進むということ。2015年7月にアメリカで公開されたということ。原作が金原瑞人氏が翻訳していること、など共通点が多い。ただ、物語はまるで陰と陽のように違った印象を受ける。

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「ペーパータウン」は「きっと星のせいじゃない」を書いたジョン・グリーン原作。主人公はクエンティンという平凡な高校生だ。彼は幼い頃から向かいの家に住むマーゴのことが好きだったが一歩踏み出せずに高校卒業間近まで来ていたのだが、そんな時にマーゴが行方不明となってしまう。もともと活発で家出しがちなマーゴだったため、家族も彼女のことは気に留めないのだが、クエンティンは彼女が意図的に残した痕跡を頼りにマーゴを探す旅に出る、という物語。
映画ではアレックス・ウルフがクエンティンを演じていて、イケメンではあるんだけど少し野暮ったい彼の雰囲気が原作に合っていた。また、友人のベンとレイダーは、最近活躍が目覚ましいオースティン・エイブラムスとジャスティス・スミスが演じている。

この仲良し3人グループのやり取りが非常に微笑ましく、今作の見どころでもある。クエンティンと友人たちはスクールカーストで言えば決して上位ではないことは描写で分かるのだけど、そこのポジションにいることの苦悩とか妬み僻みみたいなものはあまり描かれていない。また、家を抜け出して、マーゴの手がかりを追って旅に出る様子は、卒業という現実からの逃避行のように思える。

今作が「ぼくとアール〜」に比べても”陽”と感じるのは、こうした高校生活という縛られた環境内での、明るい側面、楽しい時を切り取って描いているからだ。そんな中でも、ふと現実に返るふとした切ない瞬間もある。原作とは違い少しほろ苦いエンディングが待っているし、冒頭で印象的だった幼い頃のクエンティンとマーゴが自転車に乗るシーンで、坂を昇る二人に対してカメラは坂を下っていくのだが、最後でその下るカメラの目線は、高校を卒業して車に乗って町を出るクエンティンの視点だったということが分かる。もう戻ることのできないあの日を思い出すことを表したシーンだ。

 

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これに対し「ぼくとアールと彼女のさよなら」は、まさに”陰”の映画である。原作は、ジェス・アンドルーズ(原作のタイトルは「ぼくとあいつと瀕死の彼女」)で、映画版も同じくアンドルーズが脚本を務めている。

主人公のグレッグは、学校で浮かないようにするためスクールカーストにいる全種類の生徒と仲良くする変わり者。彼の趣味は友人のアールと名作映画のパロディを作ること。そんなある日、母親から強いられ、白血病になった同級生のレイチェルの元を訪れるようになり、彼女と交流を深めていく。

グレッグを演じるのはトーマス・マン。彼は高校生の一晩のパーティーを描いた傑作「プロジェクトX」でも主人公を演じていたが、今作ではより持ち味の気怠そうな印象を前面に出している。それもそのはずで、主人公のグレッグは人と本当の関係を築くのを面倒臭いと思っており、母親から強制されるレイチェルのお見舞いにも最初は行こうとはしなかった。友人であるはずのアールのことも“友達”とは決して呼ばず、映画を共に作る“同僚”と頑なに言い張る。そんな彼が難病の彼女と出会い、接していくうちに変わっていく。というとありきたりなお涙頂戴系の映画になってしまいそうだが、そうならないのが今作。ひねくれたグレッグという人物目線で語られる原作も、突然登場人物の会話が映画の脚本風になったり、箇条書きで書かれたり少し変わっているのだが、これは映画も然り。円形状に机の並ぶ教室のセットや特徴的な形をした廊下をカメラが横にパンするシーンが多く、スクールカーストに満遍なく接するグレッグの人物像を表す。監督は「glee」や「アメリカン・ホラー・ストーリー」でエピソード監督を務めているアルフォンソ・ゴメス=レホン。「アメホラ」でもトリッキーな俯瞰ショットなどを多用しているが今作でも、グレッグが自らの学園生活を俯瞰して見ていることが演出で良く表されている。また、特に素晴らしいのが終盤の病室でのシーン。原作には無い場面なのだが、これぞ映画の成せる業だなという現実を越えたファンタジックさが重なり涙ぐんでしまった。

役者陣もトーマス・マン以外にも、レイチェルを演じたオリヴィア・クック。グレッグの両親を演じるニック・オファーマン、コニー・ブリットン。レイチェルの両親のモリー・シャノン。教師役のジョン・バーンサルなど、全員それぞれの持ち味を活かしていて印象に残る。

ただ一言いうと、映画も原作でも異なる邦題のタイトル。原題「Me and Earl and the Dying Girl」に、自分だったら「僕とアールと死にかけの女の子」という邦題にしたい。