悪魔の吐きだめ

映画とかドラマとかのことを書いてます。

「ファイティング・ファミリー」スティーヴン・マーチャントが描いた“諦めた者”についての物語

最近、講談師の神田松之丞がパーソナリティを務めるラジオ「問わず語りの松之丞」をよく聴いている。その中で神田松之丞が「しゃべくりセブン」に出演した際にくりぃむしちゅーの「上田晋也一代記」を行おうとしたが結局やらなかった、という話があった。理由は「人生がつまらなすぎたから」と言っていて、あまりの言い草に聴きながら一人で声を出して笑ってしまった。もちろん芸能人なんだから“つまらない”ということは無いのだろうが、取り立ててネタにできるようなものが何も無かった、ということからだった。ただ、くりぃむの上田ですら人生に「何も無い」のであれば、普通の人の人生はどうなのだろうと思ってしまう。


ティーヴン・マーチャントが監督した「ファイティング・ファミリー」は、女子プロレス界の元女王ペイジがWWEに採用されるまでを描いた実話を基にした物語である。話だけ見れば「ロッキー」フォロワーのサクセスストーリーかと思いきや、“自分の夢を諦めることになった者”、“なりたい自分になりたくてもなれない者”についての映画なのだ。

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イギリスの田舎町で暮らすペイジは、兄のザックや両親とともに家族ぐるみでプロレス巡業で生計を立てており、一攫千金を夢見て兄妹で世界的に有名なプロレス団体WWEのオーディションを受験する。しかしそのオーディションに合格したのはペイジだけ。妹の前では気丈に振る舞うザックだったが、裏では悔しさを滲ませる。なぜこんなに努力しているのに認められないのか。オーディションを何度受けても合格せず、子供も産まれ父となったザックは夢からどんどん遠のいていく。故郷に久々に戻ってきたペイジに対して冷たく当たるザックは「なんで俺じゃなくてお前なんだ!」と強く怒りをぶつける。それに対して思わずペイジはこう返してしまう。「あんたには何も無いからよ!」と。


ティーヴン・マーチャントは以前からこうした陰にいる人物の物語を描いてきた。マーチャントが有名になったのはリッキー・ジャーヴェイスと組んで監督・脚本を務めた「ジ・オフィス」である。イギリスの片田舎にある小さな印刷会社内の日常をドキュメンタリータッチで描いたコメディドラマなのだが、その中には自分が部下から慕われていると勘違いする上司、自分はこんな小さな会社で働くべきじゃないと思いながらもズルズルと辞められないで仕事を続ける社員など、思わず誰もが自分と重ね合わせてしまうようなキャラクターとその末路が可笑しくもありながら哀愁たっぷりに描かれ、いまだに語り継がれるカルトクラシックとなった。

さらにその後マーチャントとジャーヴェイスが再タッグを組んだ「エキストラ」では、前作以上に“なりたい夢を諦めること”について描かれていた。エキストラから有名俳優を目指していたはずが、いつしか一発屋芸人になってしまっていた主人公を巡る悲喜劇である。

いずれの作品でも、主人公は気がついた頃にはもう夢からかけ離れたところにいて、もうどう足掻いても夢には辿り着けないのだ。でも、その中でも、そのどん底の生活からも、生きる希望を見つけて、自分なりの人生を見つけ出す。これがマーチャント(とジャーヴェイス)が一貫して描いてきた物語なのだ。


努力していた人間が、自分は物語の主役ではないと認めることは、栄光を掴むより大変なのではないかと思う。「つまらない」「何も無い」という言葉の破壊力は凄まじく、言われた者に殴りかかる。大半の人の人生なんて側から見れば「つまらない」はずだ。でもその中で懸命に生きてやりがいを見つけた人にとっては「何も無い」なんて無い。そうマーチャントは今回の映画でも描いている。

アナベルから本家「死霊館」へのラブレター?『アナベル 死霊博物館』

ジェームズ・ワンが監督した「死霊館」(The Conjuring)は本当に凄いホラー映画だった。“出そうで出ない(けどやっぱり出てくる)”脅かし演出、ホラーに似つかわしくない流麗なカメラワークなど、ビジュアルや大きな音に頼るだけのワンパターン化していた近年のホラー映画と比べて、極めてストイックなホラー映画として人気を博した。
ただ、その完成度の高い「死霊館」の映画の中で妙に浮いた存在がいた。そう、アナベルである。

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とにかくアナベルそもそも顔面のビジュアルからして凶悪すぎる。先にのも述べたように見た目の派手さで観客を驚かさないストイックな今作の中でその逆を行く、いわゆる見た目重視の古典的な存在なのである。


さらにアナベルを違和感たらしめてるのはその登場シーンで、「死霊館」1作目の序盤と中盤にアナベルは登場するものの、メインとなるペロン一家の物語とは直接的な関係がないのである。キリキリとした緊張感の中で進む話の中盤、突如始まるアナベルの小話の唐突感たるや、コース料理を食べていたら途中で突然ハンバーガーを出されたようなジャンクさである。
そんな存在でありながらも、結局はそのやたら恐ろしいビジュアルで人気を博したアナベルはスピンオフとなりシリーズ化を果たす。


今回の「アナベル 死霊博物館」は、そんなアナベルシリーズの3作目となる。
物語は「死霊館」1作目の冒頭のウォーレン夫妻がアナベル人形を引き取るところから始まる。ここで注目すべきは、ウォーレン夫妻の再登場である。これまで本家「死霊館」2作品以外の、「アナベル」を含めたスピンオフが5作品が製作されたが、夫妻を演じるパトリック・ウィルソンヴェラ・ファーミガがスピンオフ作品に出演したのは今回が初めてなのである。


夫妻が自宅へとアナベルを持ち帰り、これまで除霊してきた数々のアイテムを保管するコレクションルーム内にアナベルを封印する。と、ここでオープニングになるのだが、「この時夫妻はアナベル人形のもたらす本当の恐怖を知る由もなかった・・・」云々と書かれたテロップが流れ、ゴゴゴゴと不穏な音楽とともに大きな文字で「Annabelle Comes Home」とタイトルが現れる。実はこのオープニングクレジット、死霊館」のそれと全く一緒なのである。

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つまりウォーレン夫妻が登場し、このオープニングを再現しているということは、「はい、これから死霊館のパロディをやりますよ!」と冒頭で宣言しているも同然なのだ。


時は流れて、ウォーレン夫妻の娘ジュディが両親が留守にする間、ベビーシッターのメアリーに預けられる一日が描かれる。そこでメアリーの友人ダニエラがこっそり夫妻のコレクションルームに侵入。アナベルが封印された箱を開けてしまい、これがきっかけで部屋に閉じ込められていた悪霊たちが一気に解き放たれてしまうのだ。産みの親ジェームズ・ワン曰く死霊館版ナイトミュージアムというように、ここからはお化けのどんちゃん騒ぎとなるのだが、冒頭の宣言通り、驚かし方は本家の伝統芸“出そうで出ない”寸止めドッキリ(勝手に命名をきっちり踏襲しまくる。その他にも、寝ている間に足を引っ張ったり、お化けからのゲロ移し、壁に掛けられた十字架が逆さを向くなどとにかく「死霊館」ネタで少女たちを攻めまくる。


この本家元ネタ攻撃に対抗するのはウォーレン夫妻!と思いきや、戦うのはその娘のジュディなのである。「死霊館」1作目の以後に当たる今作は、1作目でアナベルにより恐怖のドン底に突き落とされたジュディとアナベルとのリベンジマッチとなるのだ。これはつまり「死霊館」1作目で生き延びたジュディに対して、凶暴な不良少女であったアナベルが追放(スピンオフ)となった今、アナベルが本家「死霊館」へのカムバックの凱旋試合に挑む物語なのではないかと思えてくる。原題のタイトル「Annabelle Comes Home」の「Home」とは正に本家「死霊館」のことではないか!


そう考えると、今作で「死霊館」のネタを散りばめていた理由はオリジナルへのリスペクトであり、アナベルから本家「死霊館」へのラブレターのように思う。
いつしか独走状態となっていたアナベルシリーズにおいて今作は、オリジナルへの回帰を目指した作品でありながら、その一方で、本家では出来なかった(良い意味で)下品なジャンル映画の楽しさを押し出している。

そんな映画のエンディングに流れるのはKing Harvestの「Danicing in tne Moollight」。その歌詞を見るとアナベル(そして彼女に取り憑いて操るジェームズ・ワン!)の「まだまだフザけさせてよ!」という無邪気なエクスキューズにも捉えられる。そう思うとあんなに凶悪なアナベルも、なんだか可愛らしく思えてきてしまうではないか。(いや、そんなことないか)

 


Dancing In the Moonlight

月が大きくて明るい夜は
オレたちは毎晩ようにハジけるんだ

 

それはとてつもない(超常的な)喜びなんだ
だってみんな月明かりの下で踊るんだから


此処にいるみんなはすごい奴らばかりだ
彼らは吠えたり、噛み付いたりなんかしないよ
楽しいことが好きで、ケンカもしない


みんな気楽に生きてるんだ
だからみんな月明かりの下で踊るんだよ

サプライズの連続!第71回エミー賞を終えて

今年のエミー賞はサプライズの連続だった。

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まず、一つめのサプライズにして一番の驚きだったのはジュリア・ルイス=ドレイファスがコメディ部門主演女優賞を逃したことだ。6年連続同役で受賞を果たしていたドレイファスはファイナルシーズンである今年も間違いなく受賞するものと誰もが予想していた。
コメディ部門の助演女優賞助演男優賞は、「マーベラス・ミセス・メイゼル」からそれぞれアレックス・ボーステイン、トニー・シャルーブが受賞。主演男優賞は「バリー」からビル・ヘイダーが受賞した。と、ここまでは何となく予想がついていたが、監督賞、脚本賞が続けて「フリーバッグ」が受賞したのだ。おやおやと思っていると、そのまま主演女優賞はなんと「フリーバッグ」のフィービー・ウォーラー=ブリッジが受賞したのだ!個人的にもブリッジが受賞したらいいなとは思っていたが、女王ドレイファスには到底勝てないと思い込んでいた。しかし、エミー会員はドレイファスに最後のトロフィーは渡さずに、新鋭ブリッジを選んだのだ。この英断を個人的には高く評価したい。


そして続くコメディ部門作品賞。ここで主演女優賞を逃した代わりに「Veep」が来るか、2年連続「マーベラス・ミセス・メイゼル」か、はたまた昨年受賞を逃した「バリー」か。と、どの作品にも同じレベルの受賞の可能性がある中でなんと作品賞は「フリーバッグ」だったのだ。完全にブリッジの年となったエミーだった。


ドラマ部門も波乱の受賞だった。ここも助演部門は、男優賞が4度目の受賞となったピーター・ディンクレイジ、女優賞がジュリア・ガーナーと下馬評通りの展開。主演男優賞はビリー・ポーターが受賞し、ゲイを公表した俳優として初めての受賞となった。そして驚きが主演女優賞だった。こちらも“初めて”アジア人として受賞を望まれていたサンドラ・オーのほか、ロビン・ライトローラ・リニーヴィオラ・デイヴィス、そしてエミリア・クラークという、クラーク以外にも全員が“マッド・クイーン”状態のノミニーの中で受賞は「キリング・イヴ」のジョディ・コマーだったのだ。同ドラマで2人ノミニーではオーに軍配が上がると思っていた。また、この「キリング・イヴ」、クリエイターの一人はフィービー・ウォーラー=ブリッジなのだからすごい。

ドラマ部門の脚本賞は、「ベター・コール・ソウル」、「ゲーム・オブ・スローンズ」、「ハンドメイズ・テイル」など強豪が揃う中、初ノミニーとなった「サクセッション」のジェシー・アームストロングが受賞。アームストロングはブリッジ同様にイギリス出身のコメディ脚本家で、「Veep」のオリジナル版ドラマ「Thick of It」や「ピープショー」のクリエイターで、アメリカでは初のノミネートでありながら受賞となった。


監督賞は「ゲーム・オブ・スローンズ」から2つのエピソードがノミネートされており、どちらかは受賞するだろうと思いきや、なんと「オザーク」からジェイソン・ベイトマンが受賞してしまった。作品賞、主演男優賞もノミネートされていた「オザーク」は過大評価されている気がしないでもないが、監督賞の受賞はベイトマン本人にとっても予想していなかったようで、その様子を綴った以下のツイートは「ブルース一家は大暴走」を知る人にとってはめちゃくちゃ面白い。


この流れでドラマ部門の作品賞も、最有力の「ゲーム・オブ・スローンズ」すらも受賞が危ういのではないかと思ったが、あっさりここは誰もが予想した通り「GoT」が受賞する結果となった。オープニングでもネタにされていたスタバのカップ問題といい、何かと批判を浴びてしまった今作だったが、文字通り有終の美を飾ることができ、無事成仏できたのではないかと思う。今シーズンだけが凄かったのではなく、「ゲーム・オブ・スローンズ」というドラマ自体が革新的だったのだから。


リミテッドシリーズは「チェルノブイリ」が作品賞、監督賞、脚本賞を受賞。同じく批評家から絶賛だった対抗馬「ボクらを見る目」は、ジャレル・ジェロームの主演男優賞1部門のみの受賞で終わった。
TVムービー作品賞は、「ブラックミラー/バンダースナッチ」が受賞。プレゼンターのジェームズ・コーデンが「観る人によって話が違うじゃねえか」と紹介していたがその通り。「ブラックミラー」としては「サン・ジュニペロ」、「USSカリスター号」に続いての3度目の受賞となった。クリエイターはチャーリー・ブルッカー。ブリッジ、アームストロングに続いてやはりイギリス勢クリエイターの勢いを感じる受賞式となった。


そんなエミーでダントツの可愛さだったのは「ベリー・イングリッシュ・スキャンダル」よりリミテッド部門助演男優賞を受賞したベン・ウィショー。壇上に登ったウィショーは、頭を抱えながら開口一番に「実は二日酔いなんだ…笑」とポツリ。ウィショーの株がまた上がる結果となったキュートすぎる受賞となった。

第71回(2019年)エミー賞ノミネートと受賞予想

先週、第71回エミー賞のノミネートが発表された。最多は「ゲーム・オブ・スローンズ」が32部門のノミネート。賛否ありながらも王者の貫禄を見せつける結果となった。ただ強豪も多いことから簡単に受賞もできないのでは。というわけで各部門毎に予想していきたい。授賞式は9月22日の予定。

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【ドラマシリーズ 作品賞】
“Better Call Saul” (AMC)
“Bodyguard” (Netflix)
★“Game of Thrones” (HBO)
“Killing Eve” (AMC/BBC America)
“Ozark” (Netflix)
“Pose” (FX)
“Succession” (HBO)
“This Is Us” (NBC)

個人的には「ベター・コール・ソウル」を推したいところだけど、ここは最終シーズンを迎えた「ゲーム・オブ・スローンズ」が玉座に着くと予想。「オザークへようこそ」がシーズン2にして作品賞に初ノミネート。このドラマは誰も話題にしてないと思っていたがエミー会員には意外と評価されているみたい。常連の「ハンドメイズ・テイル」がノミネートから外れてることに驚いたが、現シーズンは放送回数が審査規定に満たないため今年度の選考からは外れたらしい。


【コメディシリーズ 作品賞】
“Barry” (HBO)
“Fleabag” (Amazon Prime)
“The Good Place” (NBC)
“The Marvelous Mrs. Maisel” (Amazon Prime)
“Russian Doll” (Netflix)
“Schitt’s Creek” (Pop)
★“Veep” (HBO)

ここはやはり「Veep」が固いと予想。昨年は放送がなかったため連覇に歯止めがかかったが、「GoT」と同じく最終シーズンということで受賞をすればHBOとしては記念すべき有終の美を飾れるだろう。ただ、個人的は「フリーバッグ」を推したいところ。「キリング・イヴ」含めて業界内の支持が熱いフィーバー=ウォーラー・ブリッジがここで一発かましてくれたら本当に楽しいんだけど。サプライズは「シッツ・クリーク」の5年目にしての初ノミネートだ。ゴールデングローブ受賞の「コミンスキー・メソッド」は落選。


【リミテッドシリーズ 作品賞】
“Chernobyl” (HBO)
“Escape at Dannemora” (Showtime)
“Fosse/Verdon” (FX)
Sharp Objects” (HBO)
★“When They See Us” (Netflix)

絶賛に染まる「チェルノブイリ」だが、社会的な風潮を見ると「ボクらを見る目」と予想。「シャープ・オブジェクツ」は放送時期から見るにだいぶ厳しいだろう。


【ドラマシリーズ 主演男優賞】
Jason Bateman (“Ozark”)
Sterling K. Brown (“This Is Us”)
Kit Harington (“Game of Thrones”)
★Bob Odenkirk (“Better Call Saul”)
Billy Porter (“Pose”)
Milo Ventimiglia (“This Is Us”)

驚いたのはキット・ハリントンの「初」の主演男優賞ノミネート。主役不在のGoT組は毎度助演だったが、急にジョン・スノウを主役扱いされても今シーズン大した働きを見せなかった彼が主役か?というとちょっと疑問…となるとここは念願のボブ・オデンカークで!


【ドラマシリーズ 助演男優賞
Alfie Allen (“Game of Thrones”)
Nikolaj Coster-Waldeau (“Game of Thrones”)
★Peter Dinklage (“Game of Thrones”)
Jonathan Banks (“Better Call Saul”)
Giancarlo Esposito (“Better Call Saul”)
Michael Kelly (“House of Cards”)
Chris Sullivan (“This Is Us”)

やはり助演枠はGoTが強いが負けていないのが「ソウル」組である。2大ヒールを演じるジャンカルロ・エスポジートとジョナサン・バンクスが同じ枠でノミネートされたのはかつての「ブレイキング・バッド」黄金期を思い出す。エスポジートに至っては2012年の「ブレイキング・バッド」以来のノミネートになり堂々の“ガス”復活となった。ただ最有力はやはりピーター・ディンクレイジと予想。ティリオン役で4度目の受賞となるか。ちなみにアルフィー・アレンとクリス・サリヴァンは初ノミネートとなった。


【ドラマシリーズ 主演女優賞】
★Emilia Clarke (“Game of Thrones”)
Jodie Comer (“Killing Eve”)
Viola Davis (“How to Get Away With Murder”)
Laura Linney (“Ozark”)
Mandy Moore (“This Is Us”)
Sandra Oh (“Killing Eve”)
Robin Wright (“House of Cards”)

なんとここもハリントン同様にエミリア・クラークが助演から主演に昇格。ローラ・リニーロビン・ライトヴィオラ・デイヴィスと女番長が勢揃いしているもののきっと“マッドクイーン”が殲滅するだろうと予想。


【ドラマシリーズ 助演女優賞
Gwendoline Christie (“Game of Thrones”)
Lena Headey (“Game of Thrones”)
Sophie Turner (“Game of Thrones”)
★Maisie Williams (“Game of Thrones”)
Julia Garner (“Ozark”)
Fiona Shaw (“Killing Eve”)

助演女優枠は4名がGoTから選出。恐らくこの中で最有力は今シーズンのMVPの働きっぷりだったメイジー・ウィリアムス。


【コメディシリーズ 主演男優賞】
Anthony Anderson (“Black-ish”)
Don Cheadle (“Black Monday”)
Ted Danson (“The Good Place”)
Michael Douglas (“The Kominsky Method”)
★Bill Hader (“Barry”)
Eugene Levy (“Schitt’s Creek”)

ドン・チードル、テッド・ダンソンとエミー常連が並ぶ中一番のサプライズは作品賞同様にユージーン・レヴィの初ノミネート。レヴィとともに主演女優賞にキャサリン・オハラもノミネートされており一体何事かと思う。無冠の帝王アンソニー・アンダーソンにもそろそろお鉢が回ってきそうだが、やっぱり「バリー」人気は依然として強いので2年連続でビル・ヘイダーと予想。(マイケル・ダグラスはもういいだろう)


【コメディシリーズ 助演男優賞
Alan Arkin (“The Kominsky Method”)
Tony Hale (“Veep”)
Anthony Carrigan (“Barry”)
Stephen Root (“Barry”)
Henry Winkler (“Barry”)
★Tony Shalhoub (“The Marvelous Mrs. Maisel”)

昨年のヘンリー・ウィンクラーに続いて、今年は「バリー」からスティーヴン・ルート、アンソニー・キャリガンがエミー初ノミネートになった。2年連続のウィンクラー受賞は難しい気がするので、ここはトニー・シャルーブと予想。


【コメディシリーズ 主演女優賞】
Christina Applegate (“Dead to Me”)
Rachel Brosnahan (“The Marvelous Mrs. Maisel”)
★Julia Louis-Dreyfus (“Veep”)
Natasha Lyonne (“Russian Doll”)
Catherine O’Hara (“Schitt’s Creek”)
Phoebe Waller-Bridge (“Fleabag”)

ここも作品賞同様に個人的にはファービー・ウォーラー=ブリッジであったら嬉しいが、やはりジュリア・ルイス=ドレイファスと予想。


【コメディシリーズ 助演女優賞
Alex Borstein (“The Marvelous Mrs. Maisel”)
Anna Chlumsky (“Veep”)
Sian Clifford (“Fleabag”)
Olivia Colman (“Fleabag”)
Betty Gilpin (“GLOW”)
Sarah Goldberg (“Barry”)
Marin Hinkle (“The Marvelous Mrs. Maisel”)
Kate McKinnon (“Saturday Night Live”)

アカデミーでも女王になったオリヴィア・コールマンはTVのイメージが依然として強いがエミーのノミネートは意外にも今回が2度目。アレックス・ボースタインの連続受賞は厳しいと思われるため、ここはコールマン受賞と予想。


【リミテッドシリーズ 主演男優賞】
★Mahershala Ali (“True Detective”)
Benicio Del Toro (“Escape at Dannemora”)
Hugh Grant (“A Very English Scandal”)
Jared Harris (“Chernobyl”)
Jharrel Jerome (“When They See Us”)
Sam Rockwell (“Fosse/Verdon”)

新“ブレイド”にも決定したマハーシャラ・アリと予想。ただ、名だたる俳優陣の中で唯一21歳にして「ボクらを見る目」よりノミネートされた若手のジャレル・ジェロームにも注目。彼がほぼ主役だった最終話の演技は凄まじいものだった。


【リミテッドシリーズ 助演男優賞
Asante Blackk (“When They See Us”)
Paul Dano (“Escape at Dannemora”)
John Leguizamo (“When They See Us”)
★Stellan Skarsgård (“Chernobyl”)
Ben Whishaw (“A Very English Scandal”)
Michael K. Williams (“When They See Us”)

「ボクらを見る目」組が強いがここはステラン・スカルスガルドと予想。受賞すれば一昨年のアレクサンダー・スカルスガルドと親子共々助演リミテッド枠での受賞となる。ジョン・レグイザモは2年連続での同枠ノミネートとなった。(まさかレグイザモがこんな名バイプレイヤーになる日が来るとは)


【リミテッドシリーズ 主演女優賞】
Amy Adams (“Sharp Objects”)
Patricia Arquette (“Escape at Dannemora”)
Aunjanue Ellis (“When They See Us”)
★Joey King (“The Act”)
Niecy Nash (“When They See Us”)
Michelle Williams (“Fosse/Verdon”)

エイミー・アダムスはエミー初ノミネート。ただ放送時期的に受賞は難しいと思われるため、あえて最年少ジョーイ・キングと予想。


【リミテッドシリーズ 助演女優賞
★Patricia Arquette (“The Act”)
Marsha Stephanie Blake (“When They See Us”)
Patricia Clarkson (“Sharp Objects”)
Vera Farmiga (“When They See Us”)
Margaret Qualley (“Fosse/Verdon”)
Emily Watson (“Chernobyl”)

エミリー・ワトソンが受賞すれば「奇跡の海」の2人が奇跡のW受賞となるのだが、ここはパトリシア・アークエットと予想。アークエットはリミテッドの主演でも「Escape at Dannemora」でノミネートされていたが、受賞の可能性はこちらの方が高いのでは。


【コメディシリーズ 監督賞】
“Barry”, “The Audition,” HBO (Alec Berg)
“Barry,” “ronny/lily,” HBO (Bill Hader)
“Fleabag,” “Episode 1,” Prime Video (Harry Bradbeer)
★“The Big Bang Theory,” “Stockholm Syndrome,” CBS (Mark Cendrowski)

“The Marvelous Mrs. Maisel”,“We’re Going to the Catskills!”Prime Video (Dan Palladino)

“The Marvelous Mrs. Maisel”,“All Alone,”Prime Video (Amy Sherman-Palladino)

「バリー」からはアレック・バーグとビル・ヘイダーが、「マーベラス Mrs.メイゼル」からはパラディーノ夫婦がそれぞれノミネートされたが、ここは最終話の「ビッグバンセオリー」と予想。


【コメディシリーズ 脚本賞
“Barry,” “ronny/lily,” HBO, (Alec Berg, Bill Hader)
“Fleabag,” “Episode 1,” Prime Video (Phoebe Waller-Bridge)
“PEN15,” “Anna Ishii-Peters,” (Maya Erskine, Anna Konkle)
“Russian Doll,” “Nothing In This World Is Easy,” Netflix (Leslye Headland, Natasha Lyonne, Amy Poehler)
“Russian Doll,” “A Warm Body,” Netflix (Allison Silverman)
“The Good Place,” “Janet(s),” NBC (Josh Siegal, Dylan Morgan)
★“Veep,” “Veep,” HBO (David Mandel)

監督賞がビッグバンの最終話なら、こっちは「Veep」最終話か。


【ドラマシリーズ 監督賞】
“Game of Thrones,” “The Iron Throne,” HBO (David Benioff, D.B. Weiss)
“Game of Thrones,” “The Last of the Starks,” HBO (David Nutter)
★“Game of Thrones,” “The Long Night,” HBO (Miguel Sapochnik)
“Killing Eve,” “Desperate Times,” BBC America (Lisa Bruhlmann)
“Ozark,” “Reparations,” Netflix (Jason Bateman)

GoTが3話ノミネートされているが個人的には「Bell」こそ傑作回だと思うのだが。色んな意味で暗すぎた「The Long Night」が受賞と予想。


【ドラマシリーズ 脚本賞
★“Better Call Saul,” “Winner,” AMC (Peter Gould, Thomas Schnauz)
“Bodyguard,” “Episode 1,” Netflix (Jed Mercurio)
“Game of Thrones,” “The Iron Throne,” HBO (David Benioff, D.B. Weiss)
“Killing Eve,” “Nice And Neat,” BBC America (Emerald Fennell)
“Succession,” “Nobody Is Ever Missing,” HBO (Jesse Armstrong)
“The Handmaid’s Tale,” “Holly,” Hulu (Bruce Miller, Kira Snyder)

本来であればGoTショウランナーのベニオフとワイズの2人の功績を讃えて受賞になりそうだが、ここで受賞するとまた世間の不満が噴出しそうなので、「ベター・コール・ソウル」がタイトル通り“Winner”となるか。


【リミテッドシリーズ 監督賞】
“A Very English Scandal,” Prime Video (Stephen Frears)
★“Chernobyl,” HBO (Johan Renck)
“Escape at Dannemora,” Showtime (Ben Stiller)
“Fosse/Verdon,” “Glory,” FX Networks (Jessica Yu)
“Fosse/Version,” “Who’s Got the Pain,” FX Networks (Thomas Kail)
“When They See Us,” Netflix (Ava DuVernay)

なんとベン・スティラーが監督としてノミネート。受賞すれば93年の「ベン・スティラー・ショウ」以来の受賞となる。だがここは「チェルノブイリ」が有力か。


【リミテッドシリーズ 脚本賞
“A Very English Scandal,” Prime Video (Russell T. Davies)
“Chernobyl,” HBO (Craig Mazin)
“Escape at Dannemora,” “Episode 6,” Showtime (Brett Johnson, Michael Tolkin)
“Fosse/Verdon,” “Providence,” FX Networks (Steven Levenson, Joel Fields)
★“When They See Us,” “Part Four,” Netflix (Ava DuVernay, Michael Starrbury)

ここは作品賞と同じく「ボクらを見る目」か。


【ショートフォームコメディ、ドラマシリーズ 作品賞】
“An Emmy for Megan,”
“Better Call Saul Employee Training: Madrigal Electromotive Security,”
“Hack Into Broad City,”
★“It’s Bruno!,”
“Special,”

Webドラマが多いこの枠は普段スルーがちなのだが、Netflixのコメディシリーズ「ブルックリンでブルーノと!」がノミネートされたので注目。約15分のフォーマットで珍しいと思っていたが、そうなるとこっちの枠になるのか。予想はもちろん「ブルーノ」だ。
 

6月に観たもの・読んだもの

ちょっと遅くなったけど6月に観たもの、読んだものについて。
まず個人的に6月はイベント的なトピックがいくつかあって、一つはサザンのライブだった。奇跡的に40周年ライブツアーの最終日のチケットが取れて、それも久々のライブだったから楽しみで、行ってやっぱり楽しかった。何より今回のセトリが素晴らしくて、40周年ということもありヒット曲で固めてくるかと思いきやかなりコアな選曲度肝をぬかれた。序盤でいきなり「希望の轍」を持ってきて観客を驚かせての、中盤の「女神達への情歌(報道されないY型の彼方へ)」や「HAIR」にかけてのドーム全体に漂う異様さ、歪さたるやそれはそれは凄まじい雰囲気で、そして同時にそれが無茶苦茶カッコよかったのだった。40年経ってもこうやって観客を挑発し続ける桑田佳祐はさすがだなぁと感心する。

わすれじのレイド・バック

わすれじのレイド・バック

 
女神達への情歌(報道されないY型の彼方へ)

女神達への情歌(報道されないY型の彼方へ)

 


もう一つのイベントはラース・フォン・トリアーの新作が公開されたこと。「ハウス・ジャック・ビルト」である。

桑田佳祐と同じくベテランとなったいまでも観客を挑発するのはトリアーも同様で、特に新作では“コメディ”の方向に抜群にトンがってて最高。それだけでなく、サスペンスからホラーまでジャンルを横断して展開する様に、この人マトモに撮ればもっと見直されるのになぁと思いつつも、マトモじゃないからトリアーの映画は面白いからなと自己解決してしまった。


また、ドラマについてはライアン・マーフィーづくしの1ヶ月で、「アメリカン・ホラー・ストーリー シーズン8 Apocalypse(邦題:黙示録)」、「アメリカン・クライム・ストーリー: ヴェルサーチ事件」、「POSE」を観ていた。

アメホラはやっぱり初期の頃に比べてもツイストが弱くて正直ダレる話が多かったのだが、一番アガッたのがシーズン1の舞台である“マーダーハウス”が再登場、そしてジェシカ・ラングが再登板した回だった。ラングはアメホラのレギュラーから離れて4年以上になるがそのブランクを感じさせない風格だった。毎回同じキャストがシーズン毎に別の役を演じるアメホラだが、初期シーズンは座長として(シーズン4ではまさにサーカスの座長役だったが)ラングはドラマを牽引していた。もちろん初期から変わらずに続投しているサラ・ポールソンの演技力も高いのだが、可憐な見た目のせいか被害者の役が多くて、ラングのようなドスを利かせた役柄はいまだできない状況である。そんなアメホラも次回はサブタイトルを「1984」と銘打って、流行りの80s懐古主義に便乗する。出遅れ感も否めないがアメホラらしさを取り入れて他とどう差をつけるかが楽しみだ。

ヴェルサーチ」は、97年に起きたジャンニ・ヴェルサーチ殺害事件を基にしたドラマで、アメクラ(アメホラと似ていてややこしい)シーズン1ではOJシンプソン事件を扱っていたが未見だった。特に前季との繋がりもないのでこっちから観始めたのだが犯罪実録モノとしてすごく面白かった。全9話あってこの事件だけでそんなに話を持たせられるのかと疑問だったが、アメホラと比較してもダレることなく一定の緊張感を保っていた。特に今回俳優のマット・ボマーの監督回の第8話の演出が秀逸で、子供の後ろで親が暴力を振るわれているのを敢えてピントを外して子供目線として描くなど、捻った演出に素直に驚いてしまった。

実は先に述べた「アメホラ8」のs1回帰回もサラ・ポールソン監督回で、初期メンと自らの出世作となったドラマへの深い愛情をもったエピソードで、入れ替わり立ち替わり現れるキャストの見せ方も優れていた。ライアン・マーフィーはTV界のジャド・アパトウになりつつあるのかもしれない。
ちなみに「アメホラ」、「アメクラ」、「POSE」は同じマーフィー作品ながら三者三様で、「POSE」は中でも苦手な類のマーフィー作品で二話目あたりで挫折してしまった。


今月読んだ本は、「漱石全集を買った日」という本で京都の古本屋店主とその客との対談形式になっているもの。古本の魅力について、あれがいいよね、ここがいいよねと語り合う様子がすごく面白くて、読み終えた頃には完全に影響されてしまってその後休日に古本屋を巡ったりした。

漱石全集を買った日―古書店主とお客さんによる古本入門

漱石全集を買った日―古書店主とお客さんによる古本入門

 

店主の山本さんが関西弁でガツガツ話す一方で、お客側の清水さんの冷静な語り口が対照的で、2人の会話だけでも楽しめる。驚くのは2人の読書量というか記憶力で、本の名前を出せば、あの一節がね、と話が即座に出てくるところで、こんな風に本について語れるってなんだか羨ましくなった。

5月に観たもの・読んだもの

4月に「アベンジャーズ」、5月に「ゲーム・オブ・スローンズ」というゼロ年代を代表する二大エンターテイメント作品が終わり、まさに盆と正月が一緒に来たってこのことだなと思った。GoTの感想についての記事は以下に書いた。

ただ、終えて今思うのは、あまり「ゲーム・オブ・スローンズ」ロスというのも起きていないような気がするし、思えば今作はシーズン6あたりで既にピークを迎えていたようにも感じる。とはいえ最後のお祭りにリアルタイムで参加できたし、頑張って追いついておいて良かった。


また、今月はNetflixの新しい「一話15分枠」コメディドラマシリーズ2作品が特に面白かった。これまでのコメディドラマといえば30分枠が一般的であったから新鮮だったし、何より15分という短さながらきっちり起承転結がある点も凄い。一つ目は、SM嬢のバイトをする大学院生とそれを手伝う友人のゲイの青年を描いた「ボンディング」。設定からしてイロモノ系かと思いきや、主人公2人の経緯やら、それが若者特有の居場所のなさだったり、他人の性癖で自らの弱点を克服するきっかけになったりと落とし所が見事。
もう一つは「ブルックで、ブルーノと!」。その名の通りニューヨークのブルックリンで愛犬ブルーノ(パグとビーグルの合いの子のパグル)と暮らす半ニートみたいな主人公の日常を描いたコメディで、Twitterにも書いたが最初はなんとなく観始めたらこれがすごい面白かった。

主演・監督・脚本・ショーランナーを務めるのはソルヴァン“スリック”ナイーム。この辺も“ミレニアム世代コメディ”のアジズ・アンサリ、ドナルド・グローバーとも同じだ。ソルヴァンについては初めて聞く名前だったが、バズ・ラーマンの「ゲット・ダウン」のセカンドディレクターやFXの「スノーフォール」のエピソード監督を務めていたらしい。どことなく彼の雰囲気や声がアダム・ドライバーに似ていて、ニューヨークという場所柄もあってか観ている間は「GIRLS」を思い出すことも何度かあった。とはいえ「ブルーノ」はスラップスティック系のコメディだし、ソルヴァン演じるキャラクターの自己中(というより犬中だが)っぷりはアダムというよりハンナのようである。そんなのありえないだろ!っていう展開の中にもさらっと移民問題を入れてくるところもなかなかやり手。日常の中のシュールな出来事を切り取る、アジズ、ドナルドに続く新生“ミレニアム・クリエイター”として今後に期待したい。

今月Amazonから配信された「フリーバッグ」のシーズン2も凄かった。いや、凄すぎた。尖った笑いももちろんだが、カメラに向かって視聴者に投げかける目線は、いつしか共犯者感覚となりギョッとしてしまう。今作については別の機会でいつか書きたいと思う。


今月読んだ本は、ウィリー・ヴローティン著「荒野にて」。

荒野にて

荒野にて

 

もちろんアンドリュー・ヘイ監督作の原作である。映画の感想は以下。


サブキャラクターの設定や性別に多少の違いはあれど、物語の展開はほとんど映画と同じなので驚いた。また、主人公の15歳の少年チャーリーは原作ではキャラクター性があまり無い。無いというか「器」のような描かれ方をしていて、あらゆる状況、酸いも甘いも全てを吸収してしまう無垢な存在だということが強く描かれている。映画を観ている時にも思い出したが、この辺がアンドレ・アーノルド監督の「アメリカン・ハニー」ともすごく近い。

と思っていたら、アンドリュー・ヘイのインタビューで今作について言及されていた。

『荒野にて』アンドリュー・ヘイ監督が語る、悪しきアメリカの自己責任論 - i-D

ヘイもアーノルドもイギリス人で、確かに外側から見た「アメリカ」のもつアメリカ故の残酷さ、粗雑さの面が描かれていたと思う。それでいえばラース・フォン・トリアーの「ドッグヴィル」の最後にデヴィッド・ボウイの「Young Americans」が使われていたし、選曲の妙といい心底ゾッとしたのを思い出した。

 

アメリカ」繋がりでいうと月末に観た映画で「アメリカン・アニマルズ」があった。

やっぱり、タイトルに「アメリカ」が付く作品は、どれも皮肉的というか、“彼を(俺を)こうさせたのは社会(アメリカ)がいけない”というような形容詞的な使われ方をしている。それをずるいと思う反面、やっぱり「アメリカ」って「アメリカ」なんだなぁと日本人ながら思ってしまうのだった。

アメリカン・スプレンダー

アメリカン・スプレンダー

 

 

長い戦いを終えて〜「ゲーム・オブ・スローンズ」は一体何がスゴかったのか

ゲーム・オブ・スローンズ」が終わった。世界中が固唾をのんで見守り続けた玉座を巡る争いを描いた「TVドラマ」が終わったのだ。「アベンジャーズ」と並んで熱狂的なファンダム(熱心なファンで作り上げられた文化)を持つこのドラマシリーズは一体何が凄かったのか?前置きすると、僕自身決してコアなファンではないし、何なら一度シーズン1で挫折すらしている。そんなニワカウォッチャーの僕ですら結局ハマってしまった今作の面白さと、ファイナルシーズンの盛り上がりについて書きたいと思う。
※具体的なネタバレは避けているものの、これから観る予定で一切情報を入れたくない方は、以下Spoiler Alertってことでスルーいただきたい。

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まず、「ゲーム・オブ・スローンズ」(以下、GoT)が本国で放送を開始したのは2011年で、僕が観始めたのは日本で放送開始した2013年頃だったと思う。第1話から壮大な世界観に圧倒されつつも、話の本筋が掴めず休み休み進めてようやくシーズン1を観終えたあたりでそれ以降進めるのをやめてしまっていた。そこから何年もブランクが空いて再開したのはわりと最近になってからだ。
なぜ一度挫折したドラマを再開しようと思ったのか。それは気がつくと世の中のエンターテイメントにGoTが欠かせない存在になっていたからだった。ちょっと大袈裟かもしれないが、本当に世界的な熱狂が半端なく、TwitterにはキャラクターのMemeやGIFで溢れ、近年の映画やドラマを観ていても、そこかしこにGoTのネタが言及されまくる。気がつくと「ゲーム・オブ・スローンズ」は一種の“記号”と化していたのだ。エンターテイメントの裏にGoTが存在している様子は、アメリカ映画やドラマの背景に、キリスト教と聖書が強く根付いていることと似ていて、その状況を知らないままでやり過ごしていることに妙な焦りや孤立感を感じるようになったのだ。


このままでは置いてかれてしまうと今更ながら焦り、再び観始めていった中で、このドラマにハマりだしたキッカケとなったエピソードがシーズン3の第9話「The Rains of Castamere」だった。一言で言うとまさに“度肝を抜かれた”エピソードだった。信じて応援して追ってきていたキャラクターたちは見るも無惨に次々と殺され、無慈悲にも息子を目の前で亡くした母の絶叫で終わる(そしてその直後に母も殺される)。このエピソードが海外では既に“Red Wedding”として有名だと知ったのは後のことで、全く事前情報を知らずに通勤電車で観ていた僕は最寄りの駅に着いた後もホームで立ち尽くしてしまった。それは「絶望」というより「ここまでやるのか!」という興奮で呆然としてしまったからだった。このドラマはただモンじゃないぞ、とここから一気にハマりだした。


ただ、逆にいうとここまで来ないとハマらないのかと思われそうだが、これは人によってこのドラマの楽しみ方が異なるため何を目的でこのドラマを楽しむか、によって大きく個人差があるのだと思う。(僕にとってはこのようにドラマのセオリーをぶち壊してくれる面白さに気がついてからだった)
冒頭にも書いたが、僕同様に最初に放棄してしまう人は今作の掴み所が分からないため、という人が多い気がする。いや、ゴールは至極シンプルで「誰が七王国の王になるのか」というだけである。ではなぜここまで取っ付きにくくなるかと言えば、理由の一つに登場人物の多さがあるだろう。一つのエピソードの中で並行して各キャラクターのそれぞれのストーリーが進むため、最初のうちは、あれがこうなって、誰が誰と、と追うだけで頭が追いつかない。そしてそれ故にこのドラマが他のドラマと大きく異なるのは、ドラマ自体が複数の“サブプロット”で成り立っているという点だ。


先にも述べた、阿鼻叫喚の地獄エピソードとして悪名高い「The Rains of Castamere」の他にも、シーズン6第9話「Battle of the Bastards」などのここまでやるか(やれるのか)というテレビドラマのバジェットや演出面も含めて大きく水準を底上げしたエピソードは数あれど、言ってしまえばいずれも一(イチ)キャラクターを通して描いたサブプロットでしかないのだ。それぞれが一本のドラマとして十分成立するレベルのクオリティのサブプロットの集合体がこの「ゲーム・オブ・スローンズ」という大きなドラマを作り上げているのだと思う。


そう言った意味で捉えると、GoTが本領発揮するのは、そのサブプロット同士が「玉座」という一つの到達点に集約していく終盤にかけてだ。そのため、ファイナルシーズンが世界的な盛り上がりを見せたのも、単にドラマが終わるから、という意味合いだけではなかったと思われる。今までバラバラだった物語とキャラクターが一堂に会して、ゴールへと繋がっていく快感は、なるほど過去7年に渡ってサブプロットを描き続け、それを堪え忍んできたウォッチャーだけしか得られない「GoT」が作り上げた視聴体験だったと思う。


さて、そんな熱狂的に迎えられた最終シーズンだったが、蓋を開けてみると意外なことにファンから叩かれまくってしまった。終いにはファンによる作り直しを求める署名活動まで始まる程だった。確かに個人的にも展開に疑問も持つ点もいくつかあったが、何よりこのファイナルシーズンでようやくサブプロットではなく一つのドラマとして動き出した途端に、これまで保っていた今作のテンポが失速していったのは認めざるを得ないし、それが残念でもあった。ただ、ファイナルシーズンが失敗に終わったのかというと個人的は全くそんなことは無かったと思う。
なぜなら賛否を巻き起こした第5話「The Bells」で今作の作り手たちはさらなる挑戦に挑んでいたからだ。これまで主要人物たちが次々と殺され、それをTV越しに楽しんでいた視聴者を真正面からブン殴るようなエピソードだったのだ。罪なき人々の断末魔が響き渡る瞬間を目にした時、そこには「ドラマ」というフィクションの持ち得る“面白さ”は皆無だった。「ゲーム・オブ・スローンズ」が描いていたのは単なる“エンターテイメント”ではない、“戦争”である、とここで視聴者に突きつけた。本作のクリエイターたちはきっとGoTを「面白いTVドラマだったね!ちゃんちゃん!」で終わらせたくなかったのではないか。


最後まで視聴者に喧嘩を売り続け、賛否渦巻く中GoTは幕を閉じた。いずれにせよ、ネットで瞬く間に拡散される感想含めて、すごい時代にすごいドラマが終わったこと、これはこの先も語り継がれるイベントだったと思う。
ゲーム・オブ・スローンズ」が紹介される時、よく「映画並みのクオリティのTVドラマ」だったり、「一話に映画一本分の予算をかけている」など映画と比較されて語られることが多い。しかし、今作がここまで熱狂的な盛り上がりをみせたのは「映画」だったからではなく「TV」だったからだ。まるでスポーツ観戦するかのように、お茶の間やバーのTVを通して、世界中が同じ瞬間を目撃し、その感想がリアルタイムに拡散されることで、より熱狂的な一体感を生み出した。
最終話でのティリオンの言葉を借りれば、人々を繋げるのは、いつの時代も“物語”(TVドラマ)であることを「ゲーム・オブ・スローンズ」は証明したのだ。