悪魔の吐きだめ

映画とかドラマとかのことを書いてます。

第68回エミー賞受賞作についての雑記

今日行われた第68回エミー賞の授賞式の感想について。今年は番狂わせも多く、そんな意味でも楽しい授賞式でした。

 f:id:delorean88:20160919210628j:image

 

今回の各主要部門の受賞結果は以下の通り。

【ドラマシリーズ部門】
〈作品賞〉
ゲーム・オブ・スローンズ
主演男優賞
ラミ・マレック 「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」
〈主演女優賞〉
タチアナ・マスラニー「オーファン・ブラック 暴走遺伝子」
助演男優賞
ベン・メンデルソーン「ブラッドライン」
助演女優賞
マギー・スミスダウントン・アビー
〈ゲスト男優賞〉
ハンク・アザリア「レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー
〈ゲスト女優賞〉
マーゴ・マーティンデイル「ジ・アメリカンズ」
〈監督賞〉
ミゲル・サポチニク「ゲーム・オブ・スローンズ
脚本賞
デヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイス「ゲーム・オブ・スローンズ

作品賞はやっぱり昨年同様「ゲーム・オブ・スローンズ」。「ブレイキング・バッド」という強豪が消えて以降、監督賞も脚本賞もしっかり押さえて、今や独壇場って感じ。いまだに僕はシーズン1止まりなのでそろそろちゃんと観始めないと怒られそうな気がしてきました。驚かされたのは各演技賞。主演男優賞は「Mr.ロボット」からレミ・マレックゴールデングローブ賞でも主演男優賞を受賞していたけど、GG賞は旬に飛びつく傾向があるので、堅いエミー賞では受賞は逃すと思っていた。主演女優賞は「オーファンブラック」のタチアナ・マズラニー。こちらもタラジ・P・ヘンソン、ロビン・ライトヴィオラ・デイヴィスらの名だたる強豪を押し退けて受賞。エミーもいよいよ若手に優しくなってきたか。

 

【コメディシリーズ部門】
〈作品賞〉
「ヴィープ(原題) / Veep」
主演男優賞
ジェフリー・タンバー「トランスペアレント
〈主演女優賞〉
ジュリア・ルイス=ドレイファス「ヴィープ(原題) / Veep」
助演男優賞
ルーイ・アンダーソン「バスケッツ(原題) / Baskets」
助演女優賞
ケイト・マッキノン「サタデー・ナイト・ライブ
〈ゲスト男優賞〉
ピーター・スコラーリ「GIRLS/ガールズ」
〈ゲスト女優賞〉
ティナ・フェイエイミー・ポーラーサタデー・ナイト・ライブ
〈監督賞〉
ジル・ソロウェイ「トランスペアレント
脚本賞
アジズ・アンサリ、アラン・ヤン「マスター・オブ・ゼロ」

こちらも作品賞は、昨年同様HBOの政治コメディ「Veep」。主演女優賞もジュリア・ルイス=ドレイファスが連続受賞。「風刺ではじめた政治ドラマが、今日ではドキュメンタリーになってしまいました」というスピーチが印象的だった。主演男優賞は「トランスペアレント」からジェフリー・タンバー。こちらも2年連続受賞で、司会のジミー・キンメルが「時間の節約に」と開始早々にトロフィーを渡し、笑いをとっていた。監督賞は同じく「トランスペアレント」のジル・ソロウェイ。この受賞したエピソード「Man on the Land」は、トランスジェンダーを単なる被害者として描くこと無く、更に作品のテーマを掘り下げた傑作エピソード。受賞後にジミー・キンメルから「コメディじゃないだろ」とツッコまれていたが、確かにこの回は全く笑えずただただ深く考えさせられる。脚本賞はなんとアジズ・アンサリが「Master of None」で受賞。主演男優賞は惜しくも受賞を逃したが、隣に座る母親の膝の上で受賞の発表を待つ姿には笑った。

彼が脚本賞を受賞した「Parents」は、その自らの両親の実話を基にしたもの。ドラマ内でも両親に感謝を述べていたが、スピーチや会場での様子も仲の良さが垣間見えて微笑ましかった。

もう一つ今回の受賞で嬉しかったのが、助演女優賞を受賞したサタデー・ナイト・ライヴのケイト・マッキノン。まさかの受賞で、普段はあまり感情を出さないケイトも涙ぐんでいた。でもしっかりスピーチでは「まずヒラリー・クリントンとエレン・デジェネレスに感謝」と述べて笑いをとるあたりはさすが彼女。そんなケイトを見つめるSNLの先輩芸人、ティナ・フェイエイミー・ポーラーの目は、まるで我が子の受賞を見ているかのように見えて、なんだかグッときてしまった。舞台裏でケイトの受賞を見ていた現在のSNLの同期、レスリー・ジョーンズの喜びもハンパなかったようで、本人が投稿したツイートは笑えたけどケイト以上に喜ぶその姿に感動してしまった。

リミテッドシリーズ部門は、「アメリカン・クライム・ストーリー O・Jシンプソン事件」がほぼ独占。「glee」から「アメリカン・ホラー・ストーリー」、「ノーマルハート」など定期的に話題を提出し続けるライアン・マーフィーは新たな「J・Jエイブラムス」、もしくはそれ以上かも。これからもますます目が離せない。

そんな今年のエミー賞授賞式のMVPは、司会のジミー・キンメルのお母さんと、そのお母さん特製のピーナツバターサンドを配る「ストレンジャーシングス」の子供たちでした。

この「ストレンジャーシングス」の愛されっぷりからすると、間違いなく来年のエミー賞には絡んでくるだろうな。そんな予想も含めてまた来年どんなドラマが観られるのか今から楽しみだ。

第68回エミー賞ノミネートについての雑記

今年エミー賞ノミネートについて予想しました。未見のドラマ、エピソード等は排してるのでかなり偏った予想です。

f:id:delorean88:20160919073436j:image

 

【ドラマ部門】

〈作品賞〉

The Americans (FX)
Better Call Saul(AMC)
Downton Abbey(PBS)
Game of Thrones(HBO)
Homeland(Showtime)
House of Cards(Netflix)
Mr. Robot (USA)

昨年遂に受賞を果たした「ゲーム・オブ・スローンズ」や、常連の「ハウス・オブ・カード」が並ぶ中、やはり受賞は今季でファイナルシーズンを迎えた「ダウントンアビー」に。今年シーズン4でようやくノミネートされた「ジ・アメリカンズ」にも注目したいところ。一方で放送開始早々ゴールデングローブ賞でいきなり作品賞を受賞した「Mr.ロボット」も受賞の可能性はゼロではないが、同賞でノミネートされてた「ナルコス」が本レースではガン無視されるなど、「初モノ」に甘いGG賞とエミー賞に大きな隔たりがあり、当てにならない。

 

主演男優賞

Kyle Chandler as John Rayburn on Bloodline (Netflix)
(Episode: "Part 23")
Rami Malek as Elliot Alderson on Mr. Robot (USA)
(Episode: "eps1.0_hellofriend.mov")
Bob Odenkirk as Jimmy McGill on Better Call Saul (AMC)
(Episode: "Klick")
Matthew Rhys as Philip Jennings on The Americans (FX)
(Episode: "The Magic of David Copperfield V: The Statue of Liberty Disappears")
Liev Schreiber as Ray Donovan on Ray Donovan (Showtime)
(Episode: "Exsuscito")
Kevin Spacey as President Frank Underwood on House of Cards (Netflix)
(Episode: "Chapter 52")

ベテラン揃いの中、こちらも「Mr.ロボット」からレミ・マレクが初ノミネート。サイコ演技はなかなか良かったけど、やっぱりここは先輩方に受賞を譲るのでは。「ベター・コール・ソウル」シーズン2最終話"Klick"で名演を見せたボブ・オデンカークよりも、やはり毎年受賞を逃していたケビン・スペイシー大統領が遂に当選する可能性が高い。

 

〈主演女優賞〉

Claire Danes as Carrie Mathison on Homeland (Showtime)
(Episode: "Super Powers")
Viola Davis as Prof. Annalise Keating on How to Get Away with Murder (ABC)
(Episode: "There's My Baby")
Taraji P. Henson as Cookie Lyon on Empire (Fox)
(Episode: "Rise by Sin")
Tatiana Maslany as Sarah Manning, Alison Hendrix, Cosima Niehaus, Beth Childs, Rachel Duncan, and MK on Orphan Black (BBC America)
(Episode: "The Antisocialism of Sex")
Keri Russell as Elizabeth Jennings on The Americans (FX)
(Episode: "The Magic of David Copperfield V: The Statue of Liberty Disappears")
Robin Wright as First Lady Claire Underwood on House of Cards (Netflix)
(Episode: "Chapter 49")

スーサイド・スクワッド」でのビッチ演技が記憶に新しいヴィオラ・デイヴィス先生は、シーズン2は未見だが、2年連続受賞は厳しいかなと思いつつ、一票。「ジ・アメリカンズ」組は夫婦揃って初ノミネート。同じくファーストレディーロビン・ライトも夫同様毎年悔しい思いをしているのでそろそろ受賞しても良い頃かな。

 

【コメディ部門】

〈作品賞〉

Black-ish (ABC)
Master of None (Netflix)
Modern Family (ABC)
Silicon Valley (HBO)
Transparent (Amazon)
Unbreakable Kimmy Schmidt (Netflix)
Veep (HBO)

ここはぜひインド系スタンダップコメディアン、アジズ・アンサリが主演・脚本・監督を全てこなした力作「マスター・オブ・ゼロ」に。昨年本命だったにも関わらず「Veep」に負けた「トランスペアレント」シーズン2も前季から大きく方向性を変えながらもかなり深いテーマまで突き詰めた傑作だったので受賞の可能性も高い。「アンブレイカブル・キミー・シュミット」は、正直前季の方が個人的に良くできていたと思う。

 

〈監督賞〉

Master of None (Episode: "Parents"), Directed by Aziz Ansari (Netflix)
Silicon Valley (Episode: "Daily Active Users"), Directed by Alec Berg (HBO)
Silicon Valley (Episode: "Founder Friendly"), Directed by Mike Judge (HBO)
Transparent (Episode: "Man on the Land"), Directed by Jill Soloway (Amazon)
Veep (Episode: "Kissing Your Sister"), Directed by David Mandel (HBO)
Veep (Episode: "Morning After"), Directed by Chris Addison (HBO)
Veep (Episode: "Mother"), Directed by Dave Stern (HBO)

「トランスペアレント」の第9話"Man on the Land"は、このシーズンの核心となる重要なエピソード。この回で、本作は「トランスジェンダーのドラマ」という枠から抜け出した感がある。マイク・ジャッジ監督の「シリコンバレー」シーズン3第1話も素晴らしかった。

 

脚本賞

Catastrophe (Episode: "Episode 1"), Written by Rob Delaney and Sharon Horgan (Amazon)
Master of None (Episode: "Parents"), Written by Aziz Ansari and Alan Yang (Netflix)
Silicon Valley (Episode: "Founder Friendly"), Written by Dan O'Keefe (HBO)
Silicon Valley (Episode: "The Uptick"), Written by Alec Berg (HBO)
Veep (Episode: "Morning After"), Written by David Mandel (HBO)
Veep (Episode: "Mother"), Written by Alex Gregory and Peter Huyck (HBO)

ここはアジズ・アンサリ「マスター・オブ・ゼロ」から"Parents"に。インドから渡ってきた両親(演じるのもアジズの本当の両親)のルーツを探る傑作回。一周回って皮肉なオチも効いていてここは受賞してほしいところ。でも個人的には第3話の"Hot Ticket"や第9話"Mornings"の方が優れていたと思うけど。

 

主演男優賞

Anthony Anderson as Andre "Dre" Johnson, Sr. on Black-ish (ABC)
(Episode: "Hope")
Aziz Ansari as Dev Shah on Master of None (Netflix)
(Episode: "Parents")
Will Forte as Phil "Tandy" Miller on The Last Man on Earth (Fox)
(Episode: "30 Years of Science Down the Tubes")
William H. Macy as Frank Gallagher on Shameless (Showtime)
(Episode: "I Only Miss Her When I'm Breathing")
Thomas Middleditch as Richard Hendricks on Silicon Valley (HBO)
(Episode: "The Empty Chair")
Jeffrey Tambor as Maura Pfefferman on Transparent (Amazon)
(Episode: "Man on the Land")

「Master of None」のアジズに受賞してほしいところはあるものの、ここはやはり監督賞と同様に「トランスペアレント」のジェフリー・タンバーに。

 

助演男優賞

Louie Anderson as Christine Baskets on Baskets (FX)
(Episode: "Easter in Bakersfield")
Andre Braugher as Captain Ray Holt on Brooklyn Nine-Nine (Fox)
(Episode: "The Oolong Slayer")
Tituss Burgess as Titus Andromedon on Unbreakable Kimmy Schmidt (Netflix)
(Episode: "Kimmy Gives Up!")
Ty Burrell as Phil Dunphy on Modern Family (ABC)
(Episode: "The Party")
Tony Hale as Gary Walsh on Veep (HBO)
(Episode: "Inauguration")
Keegan-Michael Key as Various Characters on Key & Peele (Comedy Central)
(Episode: "Y'all Ready for This?")
Matt Walsh as Mike McLintock on Veep (HBO)
(Episode: "Kissing Your Sister")

アンブレイカブル・キミー・シュミット」から2度目のノミネートのタイタス・バージェスに。

 

助演女優賞

Anna Chlumsky as Amy Brookheimer on Veep (HBO)
(Episode: "C**tgate")
Gaby Hoffmann as Alexandria "Ali" Pfefferman on Transparent (Amazon)
(Episode: "Bulnerable")
Allison Janney as Bonnie Plunkett on Mom (CBS)
(Episode: "Terrorists and Gingerbread")
Judith Light as Shelly Pfefferman on Transparent (Amazon)
(Episode: "Flicky-Flicky Thump-Thump")
Kate McKinnon as Various Characters on Saturday Night Live (NBC)
(Episode: "Host: Ariana Grande")
Niecy Nash as Denise "DiDi" Ortley on Getting On (HBO)
(Episode: "Don't Let It Get in You or on You")

今年こそ「トランスペアレント」のもう一人の主役であるギャビー・ホフマンに。彼女なくしてこのドラマの成功はあり得ないと思っている。同作で母役のジュディス・ライトもノミネート。その他「ゴーストバスターズ」でキレまくってたケイト・マッキノンも2年連続ノミネートだが受賞は難しいかも。

 

 

『ブレイキング・バッド』シーズン2とバタフライ効果

バタフライ効果」をご存知だろうか。「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起きる」という話からその名が付いた現象のことで、関係ないと思われるような初期の小さな要因が、将来の結果に大きな影響を及ぼすことを表している。そんな些細な事柄により引き起こされた顛末を13話で描き切ったのが「ブレイキング・バッド」のシーズン2である。

f:id:delorean88:20160909224023j:image

シーズン1では、主人公のウォルターがどうして覚醒剤の精製に手を出す事になったのか、そしてそれが及ぼす影響を描いていたが、シーズン2では、更にその「影響」について掘り下げる。家族を守るために始めたウォルターの「選択」は、その守るべき家族へ脅威を及ぼし、やがて相棒のジェシーの恋人をきっかけに、大きな事件を引き起こす。今シーズンでキーアイテムとして扱われている「ピンクテディベア」が示す意味が最終話で明らかになる時、はじめてウォルター(そして視聴者)は、「その選択」の及ぼした事の重大さに気がつくのだ。 

シーズン2では、いくつかのエピソードの冒頭に、この最終話への伏線が散りばめられており、話が進むにつれて、パズルのピースが回収されるが如く徐々に最終話で起きた不穏な出来事が明らかになってくる。(余談だが、実はこの伏線が描かれてるエピソードタイトルを順に並べると最終話の出来事を示す文になるという凄いネタも隠されている)

 

そんな壮大な伏線と緻密に練られたシーズンでありながら、個々のエピソードも非常に秀作が多い。特に傑出したエピソード、ジャンキーに監禁されたジェシーと彼らの子どもとのやり取りを描く第6話「Peekaboo」や、荒野に取り残されたウォルターとジェシーが喧嘩しながらも科学の力で危機を乗り越える第9話「4 Days Out」などは、正に「ブレイキング・バッド」の持つ面白さを凝縮した回である。

だが、今シーズン、ひいては全シーズンの中でも特に優れたエピソードだと個人的に思っているのが、第10話「Over」である。このエピソードで、本作はある転換点を迎えた。それはドラマ(そしてウォルター)のきっかけを、根底から覆すものなのだが、その転機をご都合主義に終わらせず、更にドラマの持つ狂気のレベルをぐっと押し広げることに成功した。この展開には本当に感心した。

 

シーズン1の放送を終えた本作は、批評家からは賞賛されたものの、同時期に同放送局のAMCが人気ドラマ「マッドメン」を放送していたこともあり、その陰に隠れ視聴率は伸び悩んでいた。しかし、ヒットを確信していたAMCは、シーズン1の倍以上の話数の13話をオーダー。そんな局からの期待とチャンスを、ショーランナーのヴィンス・ギリガンは大胆にもシーズン丸ごとを使った壮大な「選択と結果」の物語にしてしまった。しかしこの決断が、今後の番組の方向性を決定付け、更には「ブレイキング・バッド」の知名度を上げることになったのだ。

 

(全く余談だが、冒頭に述べたバタフライ効果については、『ジュラシック・パーク』で耳にした人が多いかもしれない。映画でもジェフ・ゴールドブラム演じるマルコム博士が触れていたが、原作ではより話のテーマとして描かれている。パーク同様に、周囲を大惨事に巻き込んでいくウォルターは、まるでT-REXのようである)

リブート版『ゴーストバスターズ』を観た!

「ポール・フェイグがクリステン・ウィグメリッサ・マッカーシーらを起用してゴーストバスターズの新作を撮る」というニュースが報じられてからひたすら楽しみに待っていたリブート版『ゴーストバスターズ』。その感想を極力ネタバレ無しで書きます。

f:id:delorean88:20160903130318j:image

 

前回も書いたが、今回の『ゴーストバスターズ』はキャストを女性に一新したことで、既に公開前から大きな批判があった。

更には出演者の一人、レスリー・ジョーンズがTwitterで集中攻撃される事態にまで発展。Twitter本社がアンチを煽った犯人をTwitterから永久追放するなどの対応も話題となった。そんな意味でも注目されてしまった今回のゴーストバスターズだったが、それらのスキャンダルをも吹き飛ばすほど映画自体は最っ高にパワフルで面白かった。

演じる今回の新バスターズの4人のやり取りはは、まるでコントを見ているかのようで、クリステン・ウィグメリッサ・マッカーシーは勿論のこと、2人に比べると知名度は低いレスリー・ジョーンズ、ケイト・マッキノンの2人も抜群の個性を発揮しており、劇場は大爆笑だった。

 

また、今作は、ゴーストバスターズが如何にして「ゴーストバスターズ」となっていったかの過程が描かれるのも特徴的だった。あの有名な「ノーゴーストマーク」はどのようにロゴとして採用されたか、プロトンパックはどのように生まれたのか等、オリジナルではさり気なく登場していたプロップがどのような経緯で生まれたのかファンは気になるところ。そこにしっかりと説明を加えるあたりが、ポール・フェイグの真面目さとオリジナルへの愛がうかがえる。

その他にもオリジナルで人気だったゴーストも再登場するのだが、単に登場させるだけでなく、その使い方も工夫がされていて感心した。それはオリジナルのキャストのカメオ出演にも言える。特に、ビル・マーレイの使い方は皮肉が効いていて爆笑だった。

だが、なんと言っても今作で一番観客の笑いをかっさらっていったのが、クリス・ヘムズワース演じる秘書のケヴィン。オリジナルではキレ者の秘書をアニー・ポッツが演じていたが、今回クリヘムが演じる秘書のケヴィンは、完全にバカ丸出しで、これまでの映画でありがちだった「美人しか取り柄がない女性秘書」というところの逆にいき、イケメンだけど無能な「観賞用」の秘書をイキイキと演じていた。彼はサタデー・ナイト・ライブにホストとして出演した時から、抜群のコメディセンスを発揮してたが、今回の演技で完全にコメディアンの才能を証明してみせた。

 

そんな今回の『ゴーストバスターズ』、これまでの敵は、破壊の神様や中世の騎士などオカルト的要素が強かったが、今回の敵は普通のおっさん。好みが分かれるところかもしれないけど、実はこのおっさんも、主人公のエリンやアビーのように周りから虐げられてきた弱者の一人。ただ道を踏み外してしまっただけに過ぎない。その同じ境遇の相手を敵にするところがポール・フェイグらしいと思う。

それはラストにも言えることで、ニューヨーク市民の歓声に包まれて終わる1作目、2作目とは違い、人知れず街を救ったバスターズが迎えるラストには、「誰しもヒーローとなり得る」「誰かはきっと応援してくれている」というポール・フェイグの弱者に対しての温かい眼差しを感じる。思えば、彼はTVシリーズ「フリークス学園」から近年の「SPY」に至るまで、常に虐げられてきた弱者を中心とした物語を描いてきた。
「ビッチどもにゴーストなんか退治できない」なんて、奇しくも現実で騒がれているような台詞が劇中でも出てくるが、そんなことも物ともせず、ひたすら自分たちの信念で突き進み、互いに助け合いながら敵に立ち向かうからこそ、彼女たちは本当にカッコ良いのだ。

 

そして、何より今回嬉しかったのは、映画館が笑いに包まれていたこと。日本では、アメリカンコメディが冷遇されがちで、なかなか映画館で上映されなかった。今作は「ゴーストバスターズ」というタイトルで全国公開されたが、蓋を開ければ完全に中身はコメディ映画であり、それが日本でもちゃんとウケていることが何より嬉しかった。だから、みんなで笑えて、みんなで楽しめる今回のリブート版『ゴーストバスターズ』は、なるべく満員の映画館で、そしてゲラゲラ笑いながらみんなで観てこそ、一番楽しめると思う。そして、これがきっかけでもっと沢山のコメディが映画館で上映されるようになってほしいと思う。

 

リブート版『ゴーストバスターズ』の批判について思うこと

今年公開を控えた「ゴーストバスターズ」の新作の予告が、YouTube史上最も低評価を受けた映画予告編となったらしい。
f:id:delorean88:20160508220408j:image
そのコメントの多くが「なんで女性なんだ」とか「誰だよこのおばさん達」みたいな批判だ。そう、今回のリブート版バスターズは全員女性なのだ。しかし、今回の企画はむしろかなり正統派なリブート企画だと思っており、ゆえに「女性だから」という理由でここまで批判するのは大きな間違いだ。

まず、主要キャストがサタデー・ナイト・ライブのメンバーで構成されているということ。
オリジナル版のメンバーだった、ビル・マーレイダン・エイクロイドは、アメリカの老舗コント番組「サタデー・ナイト・ライブ(以下、SNL)」の当時レギュラーだったコメディアン。元々予定ではダン・エイクロイドは同じくSNLのメンバーだったジョン・ベルーシと組んで企画していたのが今作。ウィンストン役も本当はアーニー・ハドソンではなく、同じく当時SNLメンバーのエディ・マーフィーが務める予定だった。(マーフィーはビバリーヒルズコップ出演のため降板)

そして以下が今回の新メンバー。オリジナル同様にSNL出身、もしくは現レギュラー等で構成されている。

f:id:delorean88:20160508220650j:image
SNLレギュラーメンバーSNL開始当初からのプロデューサー ローン・マイケルズから「SNL史上3本指に入るコメディアン」と言わしめたほど、多芸の持ち主。番組卒業後も自ら脚本を務めた「ブライズメイズ」に主演し大ヒット。他にも「オデッセイ」など大作にも出演。

ケイト・マッキノン
f:id:delorean88:20160508220740j:image
現在も活躍するSNLレギュラー。クリステン・ウィグ卒業後、いま番組を引っ張っているのは彼女。エミー賞にもノミネートされるなど実力も申し分ない。十八番は、ヒラリー・クリントンのモノマネ。

レスリー・ジョーンズ
f:id:delorean88:20160508214154j:image
マッキノン同様に、現SNLメンバー。出演前はずっとSNLの脚本家として番組に携わっていた。その大柄な体格はさながら米版和田アキ子。その体格を生かして今作の予告でもビンタ除霊していた。

f:id:delorean88:20160508214207j:image
彼女のみSNL出身ではないものの、ホスト(司会)として番組には度々出演し、ウィグとは「ブライズメイズ」で共演済み。洗面台でウ○コしてオスカーにもノミネートされた。

以上のオリジナルを汲んだSNLメンバー、かつ今が旬の4人が共演してるというだけで、面白さは保証されたも同然。
そして、今回監督を務めるのは「ブライズメイズ」でウィグやマッカーシーともタッグを組んでいたポール・フェイグ。「ブライズメイズ」はそもそも、今やコメディ界の重鎮となったジャド・アパトーが得意としていた「ブロマンスコメディ」(ブラザーとロマンスを掛け合わせた造語)を女性にも焦点を当てて「女ブロマンス」を作ろうと企画したところから始まった。これまで女性向けコメディはいわゆる「ラブコメ」モノばかりだったが、三十路女の抱える問題をリアルに下品に描いたことから、女性だけでなく男性にもウケて作品は大ヒットした。その後も女性バディムービー「デンジャラス・バディ」を手掛け、こちらもヒットを飛ばすなどそのコメディの手腕は証明されている。

ちなみに、今回のリブートが発表された際に、配給のソニーが「同タイミングで男性版のゴーストバスターズも製作する」なんて発表が流れたけど、あまりに馬鹿馬鹿してく鼻で笑ってしまった。この企画こそあまりに無意味、かつステレオタイプ的。(しかも主演にチャニング・テイタムを起用するなんて話だから聞いて呆れる)

今回のようなファンが多い作品だからこそ、少なからずの批判は仕方ないにしても、女性だからという理由だけで批判するのは大きな間違い。今や「マッドマックス」や「スター・ウォーズ」の続編も主役は女性。コメディも同様に、男性優位の時代は終わったのだ。
f:id:delorean88:20160508220329j:image

(補足)
ちなみに、オリジナル版でアニー・ポッツが演じていた秘書役を、今回は逆にクリス・ヘムズワースが演じるのもツボ。この男女逆転バスターズをポール・フェイグがどうコメディに活かしていくのか今から本当に楽しみである。

ぶっ飛んだファミリードラマ『Weeds〜ママの秘密』が最高に面白いワケ

遂にNetflixに「Weeds〜ママの秘密」が来た。21世紀最高傑作のテレビドラマは「ブレイキング・バッド」だと思ってるが、個人的な好き度で言えば圧倒的にコッチ、「Weeds」だ。
f:id:delorean88:20160313220842j:image

主人公は、夫を突然亡くした主婦ナンシー・ボトウィン。中流階級が集まる架空のカリフォルニア州の郊外、アグレスティックという街に住む彼女は、これまでの生活を維持しながら、2人の息子を育てるために、商売を始める。それがなんと大麻の売人だった、という物語。なんかどこかで聞いた話かと思うけど、そう、実は「ブレイキング・バッド(以下、BrBa)」と設定は一緒。でもこのドラマが「BrBa」と違うのは、その軽さである。実はこれでもファミリードラマなのだ。

「BrBa」が余命僅かな高校教師が家族に金を残すために必死で麻薬を売り捌いていたのに対し、「Weeds」でナンシーが売人となった理由は、中流階級の生活(プール付きの一軒家に住み、私立の学校に子供を通わせる)を維持するためである。そう、このドラマは中流階級層の批判が核となっている。
そのテーマが最も集約されているのがオープニングで、同じ家が立ち並ぶ郊外で同じ行動をする住人を描いた皮肉たっぷりのものとなっている。ここで流れるテーマ曲も、フォークシンガーのMalvina Reynoldsが1963年に発表した「Little Boxes」という曲で、これまた歌詞が「大学に行って、働いて、結婚して、家族作って、みんな同じ形の家に住むのよ〜」というコピペされたようなハイクラスな家庭の人生を皮肉った、今聴いても衰えない超ヒップな歌になっている。

(ちなみにシーズン2以降はなんと毎回この曲を歌うゲスト歌手が異なる。中にはエルヴィス・コステロからランディ・ニューマンリンキンパークまで!)

そんな階級社会に住むナンシーも、小学校のPTAや、息子の空手教室の先生に大麻を売り、徐々に街のナワバリを広げていくに従って、ギャングやDEA(麻薬取締局)から目を付けられるようになる。しかしナンシーは、そんなのお構いなしで持ち前の明るさと色気で困難を乗り越えていく。「Weeds」の魅力は、そんなナンシーを含めたキャラクターの面白さにある。
まず何より主人公のナンシーを演じるメアリー=ルイーズ・パーカーの美貌とコメディエンヌぶりが抜群に素晴らしい。ギャングとの抗争に巻き込まれながらも、心配事はPTAやら小学校に自販機を置くか否かだったりするギャップも面白い。その他にも、毎回ハッパばっかり吸ってトラブル起こし、ナンシーに迷惑ばかり掛ける(けど憎めない)会計士のダグ(ケヴィン・ニーロン)と義弟のアンディ(ジャスティン・カーク)のコンビや、ナンシーのママ友で善人を装いながら超性悪ビッチなシリア(エリザベス・パーキンズ)など全員がブッ飛んだキャラクターで、ドラマを盛り上げている。

「Weeds」は、各シーズン毎にテーマが異なり、後半メキシコを舞台にダークな展開や(シーズン5)、ロードムービー調になったりするなどして(シーズン6)、シーズン8まで続いたが、やはり「中流階級家庭」に舞台を絞った初期3シーズンこそドラマ史に残る傑作だと思っている。シーズン3の最終話で、生活のために始めたその「選択」が、いつしか最悪の「結果」となってしまったナンシーの下した社会への「落とし前」、そしてエピソードタイトルが「Go」とあるように、それぞれの登場人物が口々に「Go」と呟いて前に進む姿はまさに最終話にふさわしい大傑作エピソードなので、ぜひ観てほしい。

ちなみに、タイトルのweedとは、大麻を意味するスラング。「ブレイキング・バッド」で扱っていた覚醒剤メタンフェタミン)は依存性も、常習者の犯罪率も高かった。それ故にドラマ自体も重くヒリヒリしていた。対して、大麻は今ではアメリカでも多くの州で合法化され、嗜好品となりつつある。加えて、愛用者はジャンキーというより、だらしないヒッピーな印象が強い。だからドラマも同様に、程よく笑えて、程よく考えさせられる、メロウでDopeなブツとなっているのだ。

2015年 海外ドラマ大賞

今年面白かった海外ドラマを部門別でまとめました。

【作品賞】
・コメディ部門
『トランスペアレント』シーズン1
f:id:delorean88:20151231205329j:image
今の時代を描きながらもクラシックな家族ドラマだった。詳しくは以前の記事で。

次点
『マスター・オブ・ゼロ』シーズン1
アンブレイカブル・キミー・シュミット』シーズン1
 
・ドラマ部門
『ファーゴ』シーズン1
f:id:delorean88:20151231205342j:image
コーエン兄弟の代表作「ファーゴ」から影響を受けた「ブレイキング・バッド」、から更に影響を受けて作られた逆輸入的立場ながらミスリーディングと救われない展開に久々にグッときた。

次点
『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』シーズン2
『ダウントンアビー』シーズン2
『ベター・コール・ソウル』シーズン1

【ベストエピソード】
「Hot Ticket」『マスター・オブ・ゼロ』1-3
f:id:delorean88:20151231205353j:image
ただのコメディに終わらず、悲劇も描くドラマだと証明したエピ。エンディングで流れるタイトルと同名の曲、ビーチハウスの「Master of None」も良い。あと内容と同じ経験が自分にもあったので。

次点
『ファーゴ』1-4「Eating Blame」
『ベター・コール・ソウル』1-6「Five-O」
『トランスペアレント』1-1「Pilot」
『ダウントンアビー』2-9「Christmas at Downton Abbey」

アジズ・アンサリ『マスター・オブ・ゼロ』
f:id:delorean88:20151231205417j:image
脚本もこなせる点で、ルイスCK、リッキー・ジャーヴェイスとも並んだ。

次点
ビリー・ボブ・ソートン『ファーゴ』
クレイグ・ロバーツ『レッド・オークス

【主演女優賞】
アリソン・トールマン『ファーゴ』
f:id:delorean88:20151231205430j:image
困り顔のぽっちゃり女子が後半になるにつれて徐々にフランシス・マクドーマンドになっていった。

次点
エリー・ケンパー『アンブレイカブル・キミー・シュミット』
テイラー・シリング『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』

【助演男優賞】
デヴィッド・クロス『ブル〜ス一家は大暴走!』
f:id:delorean88:20151231205454j:image
性犯罪者役が最高に似合ってた。

次点
ジョナサン・バンクス『ベター・コール・ソウル』
オリバー・クーパー『レッド・オークス

【助演女優賞】
ギャビー・ホフマン『トランスペアレント
f:id:delorean88:20151231205722j:image
くたびれた演技が最高だった。

次点
ノエル・ウェルズ『マスター・オブ・ゼロ』
エリザベス・バンクス『ウェット・ホット・アメリカン・サマー キャンプ1日目』

【ベストカップル賞】
アジズ・アンサリとノエル・ウェルズ『マスター・オブ・ゼロ』
f:id:delorean88:20151231214848p:image
文句なし。ずっと見ていたい最高のカップル。

以上。
今年はNetflix、Amazonプライムビデオのおかげで海外ドラマ大豊作でした。もう全然視聴追いつかなかったです。でもこんな年を待ってました。
来年も頑張って観るぞ!