『ブレイキング・バッド』シーズン2とバタフライ効果
「バタフライ効果」をご存知だろうか。「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起きる」という話からその名が付いた現象のことで、関係ないと思われるような初期の小さな要因が、将来の結果に大きな影響を及ぼすことを表している。そんな些細な事柄により引き起こされた顛末を13話で描き切ったのが「ブレイキング・バッド」のシーズン2である。
シーズン1では、主人公のウォルターがどうして覚醒剤の精製に手を出す事になったのか、そしてそれが及ぼす影響を描いていたが、シーズン2では、更にその「影響」について掘り下げる。家族を守るために始めたウォルターの「選択」は、その守るべき家族へ脅威を及ぼし、やがて相棒のジェシーの恋人をきっかけに、大きな事件を引き起こす。今シーズンでキーアイテムとして扱われている「ピンクテディベア」が示す意味が最終話で明らかになる時、はじめてウォルター(そして視聴者)は、「その選択」の及ぼした事の重大さに気がつくのだ。
シーズン2では、いくつかのエピソードの冒頭に、この最終話への伏線が散りばめられており、話が進むにつれて、パズルのピースが回収されるが如く徐々に最終話で起きた不穏な出来事が明らかになってくる。(余談だが、実はこの伏線が描かれてるエピソードタイトルを順に並べると最終話の出来事を示す文になるという凄いネタも隠されている)
そんな壮大な伏線と緻密に練られたシーズンでありながら、個々のエピソードも非常に秀作が多い。特に傑出したエピソード、ジャンキーに監禁されたジェシーと彼らの子どもとのやり取りを描く第6話「Peekaboo」や、荒野に取り残されたウォルターとジェシーが喧嘩しながらも科学の力で危機を乗り越える第9話「4 Days Out」などは、正に「ブレイキング・バッド」の持つ面白さを凝縮した回である。
だが、今シーズン、ひいては全シーズンの中でも特に優れたエピソードだと個人的に思っているのが、第10話「Over」である。このエピソードで、本作はある転換点を迎えた。それはドラマ(そしてウォルター)のきっかけを、根底から覆すものなのだが、その転機をご都合主義に終わらせず、更にドラマの持つ狂気のレベルをぐっと押し広げることに成功した。この展開には本当に感心した。
シーズン1の放送を終えた本作は、批評家からは賞賛されたものの、同時期に同放送局のAMCが人気ドラマ「マッドメン」を放送していたこともあり、その陰に隠れ視聴率は伸び悩んでいた。しかし、ヒットを確信していたAMCは、シーズン1の倍以上の話数の13話をオーダー。そんな局からの期待とチャンスを、ショーランナーのヴィンス・ギリガンは大胆にもシーズン丸ごとを使った壮大な「選択と結果」の物語にしてしまった。しかしこの決断が、今後の番組の方向性を決定付け、更には「ブレイキング・バッド」の知名度を上げることになったのだ。
(全く余談だが、冒頭に述べたバタフライ効果については、『ジュラシック・パーク』で耳にした人が多いかもしれない。映画でもジェフ・ゴールドブラム演じるマルコム博士が触れていたが、原作ではより話のテーマとして描かれている。パーク同様に、周囲を大惨事に巻き込んでいくウォルターは、まるでT-REXのようである)
リブート版『ゴーストバスターズ』を観た!
「ポール・フェイグがクリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシーらを起用してゴーストバスターズの新作を撮る」というニュースが報じられてからひたすら楽しみに待っていたリブート版『ゴーストバスターズ』。その感想を極力ネタバレ無しで書きます。
前回も書いたが、今回の『ゴーストバスターズ』はキャストを女性に一新したことで、既に公開前から大きな批判があった。
更には出演者の一人、レスリー・ジョーンズがTwitterで集中攻撃される事態にまで発展。Twitter本社がアンチを煽った犯人をTwitterから永久追放するなどの対応も話題となった。そんな意味でも注目されてしまった今回のゴーストバスターズだったが、それらのスキャンダルをも吹き飛ばすほど映画自体は最っ高にパワフルで面白かった。
演じる今回の新バスターズの4人のやり取りはは、まるでコントを見ているかのようで、クリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシーは勿論のこと、2人に比べると知名度は低いレスリー・ジョーンズ、ケイト・マッキノンの2人も抜群の個性を発揮しており、劇場は大爆笑だった。
また、今作は、ゴーストバスターズが如何にして「ゴーストバスターズ」となっていったかの過程が描かれるのも特徴的だった。あの有名な「ノーゴーストマーク」はどのようにロゴとして採用されたか、プロトンパックはどのように生まれたのか等、オリジナルではさり気なく登場していたプロップがどのような経緯で生まれたのかファンは気になるところ。そこにしっかりと説明を加えるあたりが、ポール・フェイグの真面目さとオリジナルへの愛がうかがえる。
その他にもオリジナルで人気だったゴーストも再登場するのだが、単に登場させるだけでなく、その使い方も工夫がされていて感心した。それはオリジナルのキャストのカメオ出演にも言える。特に、ビル・マーレイの使い方は皮肉が効いていて爆笑だった。
だが、なんと言っても今作で一番観客の笑いをかっさらっていったのが、クリス・ヘムズワース演じる秘書のケヴィン。オリジナルではキレ者の秘書をアニー・ポッツが演じていたが、今回クリヘムが演じる秘書のケヴィンは、完全にバカ丸出しで、これまでの映画でありがちだった「美人しか取り柄がない女性秘書」というところの逆にいき、イケメンだけど無能な「観賞用」の秘書をイキイキと演じていた。彼はサタデー・ナイト・ライブにホストとして出演した時から、抜群のコメディセンスを発揮してたが、今回の演技で完全にコメディアンの才能を証明してみせた。
そんな今回の『ゴーストバスターズ』、これまでの敵は、破壊の神様や中世の騎士などオカルト的要素が強かったが、今回の敵は普通のおっさん。好みが分かれるところかもしれないけど、実はこのおっさんも、主人公のエリンやアビーのように周りから虐げられてきた弱者の一人。ただ道を踏み外してしまっただけに過ぎない。その同じ境遇の相手を敵にするところがポール・フェイグらしいと思う。
それはラストにも言えることで、ニューヨーク市民の歓声に包まれて終わる1作目、2作目とは違い、人知れず街を救ったバスターズが迎えるラストには、「誰しもヒーローとなり得る」「誰かはきっと応援してくれている」というポール・フェイグの弱者に対しての温かい眼差しを感じる。思えば、彼はTVシリーズ「フリークス学園」から近年の「SPY」に至るまで、常に虐げられてきた弱者を中心とした物語を描いてきた。
「ビッチどもにゴーストなんか退治できない」なんて、奇しくも現実で騒がれているような台詞が劇中でも出てくるが、そんなことも物ともせず、ひたすら自分たちの信念で突き進み、互いに助け合いながら敵に立ち向かうからこそ、彼女たちは本当にカッコ良いのだ。
そして、何より今回嬉しかったのは、映画館が笑いに包まれていたこと。日本では、アメリカンコメディが冷遇されがちで、なかなか映画館で上映されなかった。今作は「ゴーストバスターズ」というタイトルで全国公開されたが、蓋を開ければ完全に中身はコメディ映画であり、それが日本でもちゃんとウケていることが何より嬉しかった。だから、みんなで笑えて、みんなで楽しめる今回のリブート版『ゴーストバスターズ』は、なるべく満員の映画館で、そしてゲラゲラ笑いながらみんなで観てこそ、一番楽しめると思う。そして、これがきっかけでもっと沢山のコメディが映画館で上映されるようになってほしいと思う。