悪魔の吐きだめ

映画とかドラマとかのことを書いてます。

Amazon制作の異色のコメディドラマ『トランスペアレント』

Netflixの後を追うようにして始まった、Amazonのストリーミングサービス、「Amazonプライムビデオ」。そんなAmazonもNetflix同様にオリジナルドラマを自社で製作しており、その一つが、今年のゴールデングローブ賞で作品賞を受賞して話題となった「トランスペアレント」です。

f:id:delorean88:20151006225958j:plain

タイトルの“Transparent”とは、「(反対側が見えるほど)透き通った、透明な」という意味。そして、もう一つの意味が、transgender「トランスジェンダー」とparent「親」を組み合わせた造語、つまり「トランスジェンダーの親」を指している。

というのもこのドラマ、60歳を越えて家族にトランスジェンダーだと告白する父親と、その家族を描く物語なのだ。LGBTを扱ったドラマは、重くなりがち、かつ説教臭い印象を個人的に持っていたが、今作が素直に楽しめたのは、トランスジェンダーの問題のみならず、その父親の問題をきっかけに家族が抱える「闇」を浮き彫りにするホームドラマとして成り立たせているバランスが良かったからだと思う。

ジェフリー・タンバー演じるモートンが、家族に自分の性の悩みを打ち明ける一方で、長女のサラは既婚者ながら元恋人のガールフレンドとヨリを戻そうとし、次男のジョシュ(演じるのは今ノリに乗ってるデュプラス監督兄弟の弟、ジェイ・デュプラス)は乳母と幼い頃から性的関係を持っている。三女のアリもいまだに定職に就かずに、父親からお金をせびって暮らしている。そんなそれぞれ問題を抱えた家族たちが、父親の告白をきっかけに自分自身も過去と生き方に向き合うことになる。

実はこの作品、大きなドラマは特に起こらない。その分、それぞれのキャラクターの描写が丁寧で、徐々に彼らの過去や秘密が明らかになるにつれ、視聴者は驚いたり共感するようになる。その静かで温かい空気感の漂う演出と、脚本には毎話驚かされる。

そして、なんと言っても出演者の演技が全員素晴らしい。もちろん主演のジェフリー・タンバーはゴールデングローブ賞エミー賞のW受賞も納得の演技。彼の印象は「ブル~ス一家は大暴走!(原題:Arrested Development)」の家族をかき回すトボけた父親役が強かったが、今回の秘密を抱えて苦悩する年老いた父親の姿は同情を誘う。

また、もう一人の主役と言うべき存在が、三女のアリ役のギャビー・ホフマン。奔放に生きているかのように思え、実は人一倍孤独を抱え、生き方に悩む演技がとても良かった。今年のエミー賞でも助演女優賞にノミネートされ、惜しくも受賞は逃したが、来年こそ期待できると思う。

LGBTを扱ったドラマと聞いて、手を伸ばさない人もいるかもしれないが、本人の葛藤や周りの戸惑いをしっかりと描きながらも、ハイテンポで、ハイテンションな家族の会話も面白くコメディドラマとしても笑いながら楽しめる。(本作、賞レースではコメディ部門でノミネートされており、「笑えないのにコメディじゃないだろ」という意見もあったが、僕個人は十分笑えるコメディドラマだと思った)

このようなテーマ扱い、そしてきちんと評価されているのは、やはり同性婚など世間のLGBTへの認識が変わってきた今の時代だからこそなんだと思う。そしてそれが、ネットワーク局でもケーブル局のドラマでもなく、Amazonというストリーミングでの配信形態であること。まさに色々な「今」の時代を反映した今世紀を代表するドラマになるだろう。

ティナ・フェイが描く逆境女子ドラマ『アンブレイカブル・キミー・シュミット』

前回もNetflixのドラマ、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』や「ブレイキング・バッド」のスピンオフ『ベター・コール・ソウル』について書きましたが、今回はコメディドラマ『アンブレイカブル・キミー・シュミット』について。

f:id:delorean88:20150919075639j:plain

内容は、ニューヨークで生活を始めることになった超ハイテンションなアラサー女子、キミー・シュミットの生活を描くコメディ。一見「アグリー・ベティ」と似たような話を想像しそうだが、このドラマの違う点は、なんと主人公がカルト教団に15年間も地下に監禁されていたという設定。しかし、そんなホラーな設定ながらシリアスな場面は一切無しで、ハイスピードなドタバタギャグが繰り広げられる。

これまで誘拐犯の教祖から「人類は滅亡した」と教えられていた主人公のキミーの15年のブランクによる世間とのギャップネタが面白い。死語をバンバン連発し、iPhoneを見て「マッキントッシュがこんなに小さくなるのね!」と驚いたりする。台詞に出てくる映画ネタもいちいち古くて笑える。

そんなドラマだが、実はクリエイターのティナ・フェイの実体験が元になってるんじゃないかと思う。彼女は幼い頃に家に侵入した変質者に、顔を切りつけられた過去を持つ。本人曰く、その事件をトラウマに思ったことは無いそうだが、やはりその過去が少なからず影響しているのだと思う。

彼女は老舗コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」でこれまで男性が務めてきたヘッドライターに初の女性として抜擢され活躍。他にも代理出産をテーマにした映画「ベイビー・ママ」などに主演し、秀才コメディエンヌぶりを発揮した。卒業後も、自身が主演兼クリエイターとしてドラマ「30 ROCK」で、上司や出演者に振り回されながらも奮闘する女性プロデューサー、リズ・レモン役を好演した。やはり「逆境に負けずに頑張る女性」というテーマが彼女の作品の核にあると思う。

先に述べたように、ドラマ自体はドタバタコメディ色が強く、悲惨さは微塵も感じさせないのだが、キミーの台詞の端々から監禁されてる間に無理矢理性交渉させられていたことや、不当な扱いを受けていたことが語られる。もちろん実際の事件であれば深刻な問題となると思うが、キミーはその経験をもバネにして「マトモ」な生活を手に入れようと奮闘する。タイトル通り「アンブレイカブル」なキミーの姿に、視聴者は笑いながらも応援したくなる。これぞまさに、ティナ・フェイだからこそ描ける「逆境女子ドラマ」なのだと思う。

もう一人のウォルター・ホワイト『ベター・コール・ソウル』

いよいよNetflixが日本でもスタートし、以前書いた「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」や、MARVELの「デアデビル」などの「Netflixでしか観られない」作品が多数あることで加入した人も多いと思います。

そんなNetflix限定ドラマの一つ、「ベター・コール・ソウル」について。ネタバレはありません。

f:id:delorean88:20150206111252j:plain

 今作は、コアなファンが多い人気ドラマ「ブレイキング・バッド(以下、BrBa)」のスピンオフ作品。「BrBa」シーズン1については、以前も記事に書きました。

akudame.hateblo.jp

 既に「BrBa」は放送終了しているにも関わらず、世界中で熱狂的なファンが増え続けていることから、スピンオフの製作が決りました。今回の主人公は、「BrBa」でウォルターに手を貸していた悪徳弁護士ソウル・グッドマン。窮地に立たされるウォルターを持ち前の達者な話術で、警官やギャングから守ってきた。なぜ彼が悪と手を結ぶ弁護士となってしまったのか。そんな彼の過去が、今作で描かれる。

 

実は正直、僕はソウルというキャラクターがあまり好きではなかった。「BrBa」ではシーズン2から登場したものの、緊張感が漂うドラマの中で胡散臭く、ベラベラと喋り続けるソウルの存在は浮いて感じていたからだ。だから、ソウルを主役にしたスピンオフの製作を知った時もそれほど喜べなかった。

しかし、本作、観ているうちに実はソウルはもう一人の「ウォルター・ホワイト」だった事を知る。「BrBa」同様、男の欲とエゴに満ちた過去があった。

当時、ソウルは本名ジミー・マクギルと名乗って弁護士をしていた。この頃は裏取引などはしておらず、顧客も老人ばかりで儲けにもならない。金を稼ぐために顧客を確保しようと奔走するものの、ライバルの弁護士事務所には敵わない。徐々に彼は金を稼ぐために図らずも犯罪の道に逸れていく。

ライバル事務所の弁護士のニュースをテレビで憎々しく観る彼は、ウォルターが成功したかつての親友エリオットを憎む姿と重なる。ウォルターはエリオットに医療費を頼る手段があったものの、自分の手で金を稼ぐことを決めたが、ソウルも同様にライバルに頼って金を稼ぐチャンスがあったがプライドが邪魔してそれを許さない。また、ソウルが怒りの余りゴミ箱をボコボコに蹴る姿も、ウォルターがトイレでペーパーボックスを殴るウォルターと一緒だ。

今作は「BrBa」の前日譚だけでなく、第1話目で「最終回」の後日譚も描かれるのだが、カウチに座りながら過去の自分のCMを観返すソウルの姿は、まさにウォルターだった。

ウォルターが科学の知識を誤った方向に使ってしまったように、ソウルも法律の知識の使い道を誤ったに過ぎない虚しい男だったのだ。

とはいえ、ドラマ自体は「BrBa」ほど殺伐とした雰囲気はなく、ソウルの身に降りかかる様々な事件がコミカルに描かれる。いつしか視聴者も応援したくなるようなソウルを哀愁たっぷりに演じるボブ・オデンカークは今作でエミー賞主演男優賞に初ノミネートされた。

シーズン2ではどんな展開になるのか、また、マイクとガスの過去も描かれることになるのか、今から楽しみである。

『フランシス・ハ』とイタい女子映画

ノア・バームバックの『フランシス・ハ』を観ました。

全編モノクロ映像で、「トリュフォーのオマージュが」などの感想を見たせいで、なんとなく敬遠していたけど、実際は『ブライズメイズ』や『ヤング≒アダルト』に並ぶ「イタい女子映画」の傑作でした。

f:id:delorean88:20150919074245j:plain

ニューヨークでプロのダンサーを目指しながら親友と同居して暮らしているフランシス(グレタ・カーウィグ)の日常を描くコメディドラマなのだが、彼女の身に起こる不幸がかなり痛々しい。恋人よりも友人を優先して別れた途端に同居人の親友が家を出て行く。プロのダンサーを目指しているもののなかなか芽が出ず、友人たちに自慢していた公演から役を外される。

しかし、彼女の身に起こることは、全て彼女自身が招いたもの。男性とうまくいきそうなところで自分で歯止めをかけてしまったり、プライドも高くつい周りに見栄を張ってしまう。そんな彼女を観ながらモヤモヤしながらも何処かで僕も自分と重ね合わせてしまったりした。親友はいつしか婚約し、いつまでも子供のように振る舞うフランシスを疎ましく思う。かつて彼女に気の合ったルームメイトの男にも彼女ができてしまうし、気がついた時には、彼女の周りには何も残っていない。

以前からラブコメの主役は、ダメな女子の主人公が多かったが、近年のこれらの映画にはイケメンと結ばれてハッピーエンドな結末が待っているわけではなく、徹底的に現実を描いた地獄のような女子映画である。

ジャド・アパトー製作の『ブライズメイズ』では、主人公が親友の婚約を機に自らの人生を見つめなおす。仕事や恋人、友人まで全てを失い、はじめて失敗を周りのせいにしていたことに気がつく。

『JUNO』のジェイソン・ライトマンディアブロ・コディのコンビ製作の『ヤング≒アダルト』では、シャーリーズ・セロン演じる主人公メイビスが、元恋人の出産を知りその恋人とヨリを戻そうと故郷へ帰る物語。主人公は、故郷の田舎町を馬鹿にし、都会で働きいつまでも美しさを保つ自分を誇りに思っていた。しかし、故郷で高校時代の同級生や元恋人、両親と会うことで、自分の生き方を考えさせられてしまう。

 

面白いのは、これらの3作において彼女たちの導き出す答えがそれぞれ違うこと。特に、『ヤング≒アダルト』のメイビスが出す答えは凶悪かつ最高なのだが、個人的には、『フランシス・ハ』の回答こそ一番リアルでショッキングだった。ラストで分かる、本作のタイトル『フランシス・ハ』の意味がその答えとなっている。

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の魅力

いよいよ、9/2にNetflixが日本で開始されるということで、Netflixのオリジナルドラマ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」について書きたいと思います。

f:id:delorean88:20140513125129j:plain

まず、Netflixはアメリカで人気の動画ストリーミングサービスで、過去の映画やテレビドラマのみならず、自社でもオリジナルドラマを製作していることで有名。特にデヴィッド・フィンチャーが製作、ケヴィン・スペイシーが主演した「ハウス・オブ・カード」は、1話に映画並みの予算とクオリティーで、日本でも話題になりました。

そんなNetflixのオリジナルドラマシリーズで、その「ハウス・オブ・カード」以上の人気をアメリカで誇るのが、「オレンジ・イズ・ニューブラック」です。

大まかなストーリーは、婚約者と幸せに暮す主役パイパー・チャップマンが、学生時代の恋人(レズビアン)と共謀して麻薬の密輸を行っていたのが今更になってバレてしまい、突然投獄される。しかも、その元恋人も同じ刑務所にいることが分かり…というのが一話目の内容。女性刑務所で様々な囚人たちと関わりながら、刑期を終えるまで奮闘するパイパーの姿がドラマを通して描かれる。

「Orange is the New Black」というタイトル、「~is the New Black」とは慣用句で、「○○は流行りの色」という意味。訳すと「オレンジ=囚人服が流行りの色」という意味。(主にファッション雑誌などで使われるようで、なんとも皮肉なタイトル)そして、もうひとつの意味は、直訳して「オレンジは新しいクロ」。この意味は下のポスターを見ればわかるように、オレンジ色は新人が着させられる囚人服のため、普段の社会であれば、優遇される白人女性のパイパーが、刑務所内では逆に社会で黒人が受けるような差別を受けることを意味している。

f:id:delorean88:20150829212316j:plain

料理長の機嫌を損ねれば食事にタンポンを入れられるし、刑務官に逆らえば独房に入れられる。パイパーの受ける受難は相当なもの。

しかし、このドラマ、あくまでコメディーだから全然重くない。それは、第一話目の冒頭の囚人仲間から嫌がらせを受けるシーンを見れば明らかで、シャワーを浴びているパイパーが、「可愛らしいオッパイしやがって!」、と悪態をつかれるのだが、その時の彼女は、自分のオッパイを誇らしげに思い、恥ずかしそうにニヤリと笑う。

悲惨に思えるシーンでも、なんだか滑稽に見えるのは、このドラマのクリエイター、ジェンジ・コーハンによるもの。彼女は前作「Weeds~ママの秘密」というドラマで、未亡人の主婦が家族を養うために大麻の密売人になる、というブラックコメディーを手掛けていました。同じ薬物ドラマでも「ブレイキング・バッド」とは大違いで、陰惨な雰囲気は皆無。どんなに絶望的な状況でも、明るくやり過ごす主人公のメアリー・ルイーズ・パーカーが印象的なドラマだった。そんな製作者のドラマだからこそ、笑いとドラマのバランスが心地よく、人気に繋がっているのだと思う。

また、この作品のもう一つの魅力は、パイパーを取り巻く囚人たちの物語である。元恋人のアレックスや、刑務所のボス的存在レッド、パイパーを目の敵にするペンサタッキーなど、主人公のパイパーに嫌がらせをする彼女たちを最初は観てる側も憎々しく思うけれど、物語が進むにつれ、彼女たちが入所した理由が徐々に明らかになる。誰しもが刑務所に入りたくて入ったわけではなく、それぞれに罪を犯した理由があり、一人一人にドラマがある。僕は、個々のキャラクターを掘り下げて描ける事こそ、テレビシリーズの最大の魅力だと思っているので、毎話明らかになっていくキャラクターの本性がとても楽しかった。きっと1シーズンを観終わる頃には、誰しもお気に入りのキャラクターが見つかると思う。

そんなキャラクターたちと、敵対し合いながら(時には協力し合いながら)、刑務所という地獄を生き抜いていくサバイバル・コメディー「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」。面白いのでNetflixに加入したらぜひ観てみてください。

2015年エミー賞ノミネートについての雑記

今年もエミー賞のノミネートが発表されました。

そんな中でも今年はコメディ勢、というか「サタデーナイトライブ(以下、SNL)」組が熱い気がするのでそれについて色々。

コメディ部門の作品賞は、今季で最終シーズンを迎えた「Parks and Recreation」が4年ぶりに作品賞にノミネート。(本国では7年続いた人気シリーズなのに日本では一向に放映される気配なし)

f:id:delorean88:20150804230332j:plain

主演は、SNLでウィークエンドアップデートのアンカーを務めていたエイミー・ポーラー。最近では、ピクサーの「インサイド・ヘッド」でヨロコビの吹き替えに抜擢されてましたね(個人的には竹内結子の日本語吹き替えより遥かに良い)
彼女自身は、毎年エミー賞にノミネートされるものの、受賞歴はゼロ。ゴールデングローブ賞では受賞できたし、今年こそ有終の美を飾って欲しいな。
 
同じくエイミーと共にSNLでアンカーを務めていたティナ・フェイが「30 ROCK」終了後にNetflixで製作した「Unbreakable Kimmy Schmidt」も作品賞にノミネート。

f:id:delorean88:20150804230554j:plain

長年カルト教団に拉致されて生活していた女性が突然都会に解放されてカルチャーギャップに四苦八苦するというコメディなのかホラーなのか分からないようなストーリーだけど、そこはティナ・フェイ、手堅く収めて批評家からの評判も上々みたい。日本での配信も既に決定してるから今から楽しみ。
 
コメディ部門主演男優賞は、SNLの元メンバー、ウィル・フォーテが『The Last Man on Earth』でノミネート。

f:id:delorean88:20150804230650j:plain

この作品、ウィル・フォーテ自身もクリエイターも務めているけど、「21ジャンプストリート」「LEGO(R)ムービー」のクリストファー・ミラーとフィル・ロードも監督兼製作しているという気になるドラマ。
何故か地球最後の男となったフィル・ミラー(ウィル・フォーテ)が、同じく唯一の生き残りだと思っていた女性二人と三角関係になるらしい。。んーすごく気になる。てか、主人公の名前はフィル・ロードとクリス・ミラーの2人から取ってるのだろうか。
 
そんな、元メンバーが目立つ中で、現役メンバーのケイト・マッキノンがSNLから助演女優賞でノミネート。今季のSNLでは、ヒラリー・クリントンのモノマネが最高だった。現メンバーの中では一番実力があるし、現在撮影中のリブート版「ゴーストバスターズ」にも出演しているし、これからますます注目されそう。

f:id:delorean88:20150804231144j:plain

(この写真のケイト・マッキノンのキャラが最高すぎて今から楽しみ)
 
もう一人、気になる女芸人がエイミー・シューマー。最近よく見かけるなーって思ってたら今回自身の番組「Inside Amy Schumer」で主演女優賞初ノミネート。ジャド・アパトーの新作「Trainwreck」の主演&脚本を務めたり、GQマガジンでC-3POとエロい写真撮ってファン怒らせたり(マーク・ハミルは喜んでるみたいだけど)何かと話題な彼女。これからも期待っす。

f:id:delorean88:20150804231451j:plain

 
はい、以上です。
エミー賞の授賞式は9/21!コメディもドラマも何が穫るか今からワクワク。
 
 

天才になるために 『セッション』

f:id:delorean88:20150429174717p:plain

【若干ネタバレあり】

『セッション』は本当に衝撃的だった。観た後は、周りの人たちが全て凡人に見えるぐらい打ちのめされた。観た人なら分かるかもしれないが凡人を否定するような映画であるからだ。


アメリカの有名な音楽大学に入学した主人公ニーマンは、そこで指揮する有名なフレッチャー率いる楽団に引き抜かれ有頂天となる。かねてから思いを寄せていた女の子への告白も成功し、順風満帆な生活になるかと思えた。しかし、鬼教師フレッチャーの容赦ないプレッシャーが彼を変える。テンポが少しでも遅れれば椅子を投げ、顔を殴り、親を馬鹿にする。完璧を求めるフレッチャーに認められるため、「天才的なドラマー」になるために、ニーマンはドラムに狂ったように取り憑かれていく。
ここまで彼を突き動かしているのは、ドラムを愛する気持ちではなく、コンプレックスとエゴである。顔もさえないし、友達もいない。夜は父親と一緒に映画を観に行く以外楽しみがない。そんな自分を確立できるのは「自分は他人とは違う」というエゴである。自分が「天才」でなければ彼らに勝てる物は何も無い。「天才」であることが何より大事なのだ。主奏者に選ばれるのも、プロへのスカウトも、その副産物に過ぎない。だからこそ、食事会で自分の音楽よりもスポーツができることを褒められる従兄弟たちを罵倒したし、主奏者のライバルとして途中入団したコノリーを目の敵にした。「天才」になるために、目的もなく大学に通う凡人な彼女と別れ、一人暮らしの親バカの父親を切り捨て、死に物狂いで練習をする。
宣伝でも取り立たされている最後の演奏は、彼の払った犠牲が全て昇華される圧巻のシーンである。
セリフは無く、音楽と視線で全てが語られる。彼の演奏が「完璧」になるにつれ、フレッチャーの目は「信頼」に変わり、父親の目は「恐怖」に変わる。彼はすべてを捨て「天才」となる。
 
パンフレットに斎藤工が解説文を載せており、そこに「この映画で描かれているドラムは、他にも言い当てられる誰しも感じる壁だ(大意)」などと書かれていたがこの意見には反対である。これはドラムを通して「天才になる」話であって、それ以外何ものでもない。そういう解釈こそ無意味に感じるほど徹底的に削ぎ落とされた脚本、演出を前に観客は俯瞰せざるを得ない。それは我々はただの凡人に過ぎないからだ。