悪魔の吐きだめ

映画とかドラマとかのことを書いてます。

2022年 映画ベスト10

こちらも毎年恒例の個人的に面白かった映画ベスト10について。ドラマと比べてあまり映画の本数が観られなかったように思うし、結果的に今年はメジャーどころの大作ばかりになってしまった。
それが悪い訳ではないのだけど、来年こそはもう少し幅広く観たいと思う。
とは言え今年は「NOPE/ノープ」の衝撃は忘れられないし、反則技とも言うべき「スパイダーマン」や「ゴーストバスターズ」、「ジュラシックワールド」など不可能と思われたリユニオン、13年ぶりの「アバター」の続篇など話題に事欠かない一年だった。


10. MEN/同じ顔の男たち
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イギリスの田舎町で同じ顔の男性に襲われる今作は、予想を上回る展開で今年で一番唖然となった。ころころと変わるジェシー・バックリーの感情表現も見事。
詳しい感想は以下より。

akudame.hateblo.jp

 

9. ブラック・フォン
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謎の誘拐犯によって地下に監禁された少年が、かつてその場所で命を落とした子供たちの亡霊から力を借りて脱出に挑むホラー。
久々のスコット・デリクソンのホラー復帰作で期待値は高かったが、話のツイストからまさかのアツい展開までよくぞ上手くまとめ上げたという秀作。(それでいて2時間未満!)

 

8. スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
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ファンが考えた二次創作みたいな話が実現したという、今年どころかここ数年で一番掟破りな一本。過去のスパイダーマンヴィランが集結したお祭り状態の中で本シリーズの核であるテーマに帰着するビターなラストも印象的だった。
詳しい感想は以下より。

akudame.hateblo.jp

 

7. カモン カモン
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マイク・ミルズの映画はなぜか毎回懐かしい気持ちになる。9歳の甥と伯父の2人の「子供ってわかんねぇな」「大人ってわかんねぇな」の関係性と、お互いにある心のどこかの寂しさがリンクする瞬間が素晴らしい。9歳の甥を演じたウディ・ノーマンの演技も演技とは思えないほどスゴい。

 

6. リコリス・ピザ
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ポール・トーマス・アンダーソン久々のストレートなラブストーリーは、何よりも音楽の使い方が最高。オープニングの卒業写真を撮る一幕から時代はぐんぐん進み、走る走る。その疾走感がこの時代の輝く刹那を強調し、瑞々しさ溢れた一本だった。

 

5. 私ときどきレッサーパンダ
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突然レッサーパンダに姿が変わってしまう少女の話に笑いながらも、後半のまさかの怪獣映画展開、母娘の物語に色んな意味で泣かされてしまった。この母と娘の関係性は同じピクサーの「メリダとおそろしの森」とも少し似ているが、あの作品よりも遥かに素晴らしい。何より純粋にコメディ映画としてもめちゃくちゃ面白い。

 

4. ゴーストバスターズ/アフターライフ
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息子とは言えジェイソン・ライトマンが監督すると聞いた時は作風の違いで不安でしかなかったが、押さえるべきところをしっかり押さえた「ゴーストバスターズ」のその後の話になっていて大満足。初代のゴーストバスターズ1、2に思い入れが強い分ガジェットやら展開がめちゃくちゃアツかった。
もちろんポール・フェイグの2016年版ゴーストバスターズも大好きなのは言い添えておくが、この懐かしくて楽しい!が再び観れたことが何よりも嬉しい。

 

3. シニアイヤー
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Netflixのオリジナル映画はスルーしがちなのだが、まさかの掘り出しモノというか、こんなに面白いと思わなかった。まるで90年代の学園ラブコメ(とそれが好きな人)へのラブレターのような今作。“世代間ギャップ”は他の映画でも散々擦っているのに上手くネタにしているし、レヴェル・ウィルソンの安定したコメディセンスも抜群。
最後の超ご機嫌なハッピーエンドも、そうそうこれが観たかったのよ!という久々に楽しいラブコメ映画だった。

 

2. ジャッカスFOREVER
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まさかジャッカスに泣かされる日が来るとは思わなかった。もちろん泣かせようとしている映画ではないし、やっているネタはいつものジャッカス。ただ、歳を取ってもずっと馬鹿をやり続けてゲラゲラ笑っている姿がなんだかめちゃくちゃカッコよくて、カッコ悪くて。
今回から若手の新メンバーも加わり、かと言って彼らが浮くこともなく、自然とチームに溶け込んでいくのを観て、こうして世代が交代していくんだなと感慨深くなってしまった。
とは言えやってることはバカでバカでバカバカしすぎるので、純粋に「楽しい!」だけで充分なのだ。

 

1. NOPE/ノープ
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ジョーダン・ピールスピルバーグ的往年の“スペクタクル映画”(この響きが懐かしい!)を撮るとは思わなかった。ピールらしいブラックなテーマ性はあるものの、空を見上げるショットの美しさ、追う・追われるサスペンス、盛り立てる劇伴でキメる高揚感MAXのハイライトの楽しさは言葉で言い尽くせないほど素晴らしい。映画ってこんなに楽しかったんだっけ?と思い出すような最高の“映画体験”だった。
詳しい感想は以下より。

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そのほか11位以降の作品はこちら。
・TITANE/チタン
・グリーンナイト
・アフターヤン
・フレンチ・ディスパッチ
・バーバリアン
・あのこと

2022年 ドラマベスト10

毎年恒例のTVドラマの個人的ベスト10本について。
コロナが落ち着きはじめ、撮影も以前と同じような体制で作れるようになったためか(といってもまだまだ大変だとは思うが)去年よりも面白いドラマが多かった2022年。
また、今年は「ベター・コール・ソウル」や「THIS IS US」、「アトランタ」といった長年続いていた人気作品の多くが終了。「有終の美を飾る」という言葉が相応しいぐらいに、いずれの作品も素晴らしいフィナーレだったように思う。
そんな終わるドラマもある一方で、今年スタートした作品も秀作揃い。寂しい気持ちもありながらも、楽しみも尽きない一年だった。

 

10. サムバディ・サムウェア(HBO)
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姉を亡くした主人公を取り巻く家族や友人を描くドラマ。
一見重く思える話だが、単なる御涙頂戴な話に持っていかない軽快さと、さりげなく主人公が励まされる様子がすごくいい。
誰かがどこかに(Somebody Somewhere)居てあげるということがどれほど元気づけられることかということが分かる。

 

9. ハートストッパー(Netflix
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イギリスの男子高校生同士の恋愛を描いたコメディ。
こんなにも瑞々しくもピュアな恋愛ドラマは久々。学園ドラマらしい葛藤や衝突はあるものの、描かれる世界やキャラクターたちには優しさが溢れていて心地よい。
端役ではあるが母親役のオリヴィア・コールマンの存在も抜群で、この理解ある世界の芯となっているのは間違いない。
時折挟まれる風に舞う落ち葉のアニメーションも良い。

 

8. 一流シェフのファミリーレストラン(FX/Hulu)
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亡き兄が営むレストランにシェフ兼経営者として戻ることになった主人公が、従業員たちと衝突しながら店を経営していくコメディ。
厨房の戦争のようなやり取り(圧巻の1話丸々ワンカットのエピソードなど)も見どころだが、彼らのバックボーンについて敢えて詳細を語らない演出も秀逸。
主人公演じるジェレミー・アレン・ホワイトは「シェイムレス」の長男のイメージが強かったが、今作でもさまざまなトラブルに振り回される役回りが本当に似合う。頭を抱える演技一つとっても最高。
このドラマに問題があるとすればこのヘンテコな邦題だけだ。

 

7. ホワイト・ロータス シーズン2(HBO)
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リゾートホテルを訪れた人々に降りかかる悲劇を描いたトラジックコメディの群像劇。ハワイを舞台にした前作から一転してイタリアのシチリアを舞台に愛欲まみれる悲喜交々、台詞の応酬が毎話めちゃくちゃ楽しい。セックスをテーマにしてることもあり、リアリティショウのような下世話さも良い。そして何よりMVPは今回も数々のネットmemeを残したジェニファー・クーリッジだろう。

 

6. バッド・シスターズ(Apple TV+)
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義理の兄の殺人の疑いをかけられる5人姉妹についてフラッシュバックとともに事件の全貌が明らかになっていく物語は、プロットだけ見ると「ビッグ・リトル・ライズ」に似ているように思えるが、実際には今作の方が遥かに笑える。
被害者となる義兄の肉たらしらと、彼をなんとかして殺そうとするも毎回とんでもないミスで失敗に終わる展開は、いつか死ぬと分かっていながらハラハラしつつ毎回爆笑するほど面白い。

 

5. イエロージャケッツ(Showtime)
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25年前の飛行機事故から生還した女子サッカー部の4人が、大人になった現在で過去に翻弄されるサスペンス。今年一番夢中になったドラマで、次々に明らかになる衝撃の事実とまさかの展開・ツイストの連続、メラニー・リンスキーはじめベテラン勢のコミカルな掛け合いと全ての点においてめちゃくちゃ面白かった。

 

4. アトランタ シーズン4(FX)
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ここから上位は全てファイナルシーズンのドラマである。
ドナルド・グローバーの描く黒人版世にも奇妙な物語ともいうべきアメリカ南部奇譚。
前季は気を衒い過ぎていたが、今回は初期の頃の面白さを取り戻したように思う。(前回の評判を分かってか1話目のタイトルが“Most Atlanta”なのも皮肉が効いてる。)
特に第8話のディズニーのCEOに黒人がいた!というトンデモネタをドキュメンタリー番組風にした回は、あらゆる意味でこのドラマの到達点に違いない。ビターでホラーな最終話も素晴らしかった。


3. THIS IS US シーズン6(NBC
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ついに完結したネットワークドラマ最期の砦。前季で流石にネタが尽きたように思えたが、終わりに向かう物語は全てのキャラクターに目配せし、全ての人物に人生があることを描いた。後半のエピソードはほぼ全て号泣必至。これを超えるファミリードラマは今後生まれるのだろうか?
詳しい感想は以下より。

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2. ベター・シングス シーズン5(FX)
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シングルマザーと3人の娘たちの日々を描いた今作も遂に完結した。母の元を離れていく娘たちに人生を振り返るパメラ・アドロンの哀愁は彼女以外出せないだろう。人が死ぬ迄の一生の中で、いつか思い出すであろう何気なくも大切な一瞬、その刹那がこのドラマには詰まっている。
詳しい感想は以下より。

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1. ベター・コール・ソウル シーズン6(AMC)
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ブレイキング・バッド」にソウルがはじめて登場した時に、まさかこんな結末が彼に用意されていようとは誰も思わなかったに違いない。ヒリつくような前半のサスペンスから一転し、贖罪とそして“どう生きるか”を問う物語へと変貌を遂げたとき、もう一人の“ウォルター・ホワイト”が生まれる。最高の脚本と演出、演技による途轍もない面白さの奇跡的な作品である。
詳しい感想は以下より。

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また、11位以下の作品はこちら。
11. セヴァランス
12. アフターパーティ
13. ユーフォリア シーズン2
14. ピースメイカ
15. Pachinko パチンコ
16. 今、私たちの学校は…
17. キャシアン・アンドー
18. ギルデッド・エイジ
19. Mo/モー
20. ステーション・イレブン

 

そのほか2022年以前に放送・配信された作品だったため泣く泣く候補から外したドラマは以下となる。
・2034 そこにある未来
・絶叫パンクス レディパーツ!
・デイブ シーズン1
・デクスター ニューブラッド
・サクセッション シーズン3

特に「2034 そこにある未来」は脳天をぶち抜かれたような衝撃と面白さだった。折を見て感想は改めて書きたい。
「サクセッション」も毎度ながら本当に素晴らしく、最後の展開は鳥肌モノ…
面白いドラマについて語りはじめたらきりがない…

男性の恐怖と固定概念をぶち壊す「MEN 同じ顔の男たち」

夫の死を目撃した主人公のハーパーは、傷を癒すためイギリスの田舎町での生活を始める。しかし、そこで出会う管理人、神父、警察官、少年、浮浪者、すべての男たちが自らの男性性を武器にして、あらゆる形で彼女を恐怖に陥れる・・・しかもその男性たちはすべて同じ顔だった・・・というのが本作「MEN 同じ顔の男たち」のあらすじである。

 

本作を観る前から、今作の肝である「同じ顔の男性」という点は、「女性から見た男性性というものは、別の男性であったとしても同じように見える」という暗喩であることは分かっていたが、実際この映画で描かれるのはさらにそれよりも深く、男性の中の、そして女性の中の「男性性からの脱却」であるように思う。

 

ハーパーは森で散策中にトンネルを見つける。するとそのトンネルの奥から、全裸の男性がこちらに向かって走ってくる。
このトンネルというのは、女性器のイメージであり、そこから飛び出してくる男は裸で誕生する人間である。

町のあらゆる男から身を守るために、彼女は家に逃げ込む。
家はスペイン語では女性名詞の“Casa”と表す。
男たちはあらゆる手段を講じて家(=女性)に侵入しようとする。

 

後半のシーケンスの中で、彼女がたんぽぽの綿毛を吸い込む場面がある。
たんぽぽの綿毛は、風に舞う種子であり姿を変えた男性でもある。
男性の意識を取り入れた彼女は、家に男性を招き入れようとする。
それは自分の中で男性を受け入れることを示唆している。

この入ること、出ることの行為が今作においては重要なキーワードで、それは女性が女性らしさから出ようとすること、男性が入ろうとすることである。そして、それは同時に性行為も意味している。
刃を突き立てる男性という存在に、彼女は刃を突き立て返す。
家に閉じこもっていた彼女が、今度は何度も逃げ出そうとするようすはその女性の枠の中からの脱却のように思える。

 

女性はこうあるべき、男性はこうあるべきという概念を覆すラストは本当に衝撃的である。
映像表現で固定概念をぶち壊し、観客に疑問を投げかける2022年で最も奇怪で、あらゆる解釈の余地がある示唆に飛んだ面白さに溢れた1本であることは間違いない。

「THIS IS US」ファイナルシーズンを終えて

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6年間続いた「THIS IS US/ディス・イズ・アス」が遂に完結した。邦題にはサブタイトルに「36歳、これから」と付いているが、1シーズンで1年間が描かれるので、36歳だった主人公たちの年齢もファイナルシーズンには42歳になっていた。

なんで後先を考えずにこんな邦題を付けちゃったんだかなぁと思いながらも、6年間の彼らの人生を見てきたかと思うと感慨深くなる。

 

「THIS IS US」の面白さは、何と言っても典型的なファミリードラマでありながら、ミステリーの体裁をとっている点にある。

現代を生きるケイト、ケヴィン、ランダルの3人の兄妹それぞれの生活や悩みが描かれるとともに、彼らの過去(たまに未来)が交互に展開するのだが、同じ時代の話かと思いきや実は彼らの両親の話であったり、一見物語の本筋とは関係が無いように思えたキャラクターが思わぬところで主人公たちに繋がったりなど、視聴者を欺く見せ方がとても巧いのだ。

そういった伏線を回収していく面白さがありながらも、ドラマ要素の部分でも、各キャラクターたちの葛藤や決断、別れが濃密に描かれていて、このドラマを観ながら泣いた回数は数が知れないほどである。

 

そんなドラマがついにファイナルシーズンを迎えた。

3人の母親レベッカアルツハイマーを発症し、徐々に進行する病と介護に焦点が当てられる。

そういった状況の中で衝突、団結しながら乗り越える家族の姿に、後半のエピソードではほぼ毎回泣かされてしまうのだが、特に第17話“The Train”は屈指の名エピソードだった。

 

先が長くないレベッカは、生死の境を彷徨う中で、電車で旅に出る夢を見るのだが、車両を移動していくごとにこれまで関わった人物たちが登場し、彼らとの人生を振り返るという話でこの設定だけで泣けてしまうのだが、その中で既に劇中で亡くなったウィリアムとこんな会話を交わす。

レベッカ「これで終わってしまうなんて悲しいと思わない?」

ウィリアム「すべてのものは終わりを迎えるんだ。でも一歩だけ下がってみて、これまでの人生全体を振り返ると、終わりはそんなに悲しくないことが分かるはずだよ。だって終わりは、次に始まる美しいものの始まりなんだからね。」

 

このセリフには、レベッカの学ぶ死生観ではあるが、それとともに6年続いたドラマの終わりについての言及にもなっている。こんなに綺麗なまとめ方があるだろうか?本当に素晴らしいセリフだ。

 

「THIS IS US」は、巧みなストーリーテリングと愛すべきキャラクターのアンサンブルにより、かつてポピュラーだったアメリカの家族ドラマというジャンルを復権させた。

その中では、人種や移民の葛藤、アメリカの戦争の記憶までを100話を超えるエピソードで描かれた物語は多岐にわたる。

家族という社会規模で見れば小さなコミュニティを通して、アメリカを描いている。このテーマ性が根底にあるからこそ、単なる家族ドラマ以上の面白さが今作にはあったのだと思う。

タイトルにある「US」は「わたしたち」の意味以外にUnited Statesも意味する。「わたしたち」の物語は「アメリカ」の物語でもあるのだ。

それでもやっぱりTVが好き!「リブート」

昨今の映画もテレビドラマも“リブート”作品が多い。
“リブート”というのは、過去にヒットした作品を新たな構成やキャストで作り直すことを指す。
リメイクとは何が違うの?と言うと、映画「ジェイ&サイレント・ボブ リブートを阻止せよ!」(Jay and Silent Bob Reboot)の中でこんなセリフがある。
リメイクもリブートもオリジナルのファンを冒瀆した金稼ぎ目的という意味では全く同じだ!

 

Hulu(日本ではディズニープラス)でスタートしたコメディドラマ「リブート」(Reboot)は、その名の通り往年の人気シットコムを“リブート”しようとする製作現場のてんやわんやが描かれる。

物語は、新進気鋭の女性脚本家ハンナがHuluに、10年以上も前に人気だったシットコムを現代風にアレンジしたリブート企画を持ち込むところから始まる。
晴れて企画は採用となったのも束の間、ドラマを新しく生まれ変わらせたいハンナと、昔のギャグを踏襲したいかつての脚本家ゴードンと衝突する。実はゴードンとハンナは不仲の親子関係でもあった。
さらに、再度結集した俳優陣も曲者揃いで、撮影がなかなか進行しないようすが毎話描かれていく。
このように製作現場の内幕モノとしては、コント番組の裏側のドタバタを描いた「30 ROCK」を思い浮かべるが、今作の「リブート」は“シットコム”の舞台裏というのが特徴だ。
 
今作の(劇中のではなく実際の)脚本を務めるスティーヴ・レヴィタンは、過去にいくつものシットコムを手がけた大ベテランである。特に「モダン・ファミリー」は10年以上続くヒット作となった。
そんな彼が今作を手がけているだけあり、シットコムのあるあるだったり、テレビドラマでよく見かける内容がメタ的に描かれていて、たとえば再結集した俳優陣がTVでは人気だったものの、終了後のキャリアが鳴かず飛ばずというには妙にリアルで笑ってしまう。
 
ほかにも、このドラマを配信するHuluが、そのままHuluとして劇中で登場し、職場の労働環境について親会社のディズニーからお達しが来たと愚痴をこぼす場面がある。
実際にHuluを所有する20世紀スタジオが、ディズニーに買収されて以降本当にあるんだろうなと思ってしまう。
 
また、演じる俳優陣もテレビドラマにゆかりのある面々で、「Key & Peele」のキーガン=マイケル・キー、「クレイジー・エックス・ガールフレンド」のレイチェル・ブルーム、「ジャッカス」のジョニー・ノックスヴィル(!)などTV好きなら一度は目にしたことがあろう豪華な顔ぶれ。
毎話のエピソードの名前も“Growing Pains”、“What We Do in the Shadows”など実際のTV番組の名前を用いている凝りようである。
 
ただ、純粋にコメディドラマとして見ると空回りしている印象も否めなく、その点が残念ではある。
その一方で、シットコムやテレビドラマ好きの人は魅力溢れる作品に違いない。
 
印象的な場面がある。
ストレスを抱えるHuluの役員の女性を励まそうと出演者がスタジオを連れ出し、最終的に彼女は元気を取り戻す。
その様子を見た彼は言う。
「ほらね、テレビはいつでもハッピーエンドなんだよ。」
やっぱりテレビドラマって良いよなぁ、としみじみ思ってしまった。

シングルマザーの奮闘に人生を見る「ベター・シングス」

年に何本もドラマを観ていると、その時は面白いなぁと思いながら、終わってしまえば記憶にあまり残らないような作品も多かったりする。
実際そういった即物的な楽しさこそTVドラマの良さでもあるから、一概にそれが良い悪いという訳ではないけれど、やっぱり心に残ることなく終わってしまうと少し寂しい気もする。
そんなドラマが多くある中で、「ベター・シングス」は観終えた後も、心に楔を打たれたような深い余韻を残すドラマシリーズだった。

「ベター・シングス」は、2016年にスタートしたアメリカのコメディドラマで、2022年にファイナルシーズンとなるシーズン5を以って終了した。日本では現在Disney+(ディズニープラス)で配信されている。
物語はサムというシングルマザーと反抗期の娘3人、そして向かいの家に住むお節介な母親との日常が描かれる。
この“日常”というのが、本当に些細な出来事ばかりで、別れた旦那がムカつく、だったり、娘の学校のママ友が嫌味な奴だった、とかで「一体次回は何が起きるんだ?」のようなTV的なクリフハンガーな出来事は一切起こらない。
じゃあこのドラマの何が面白いのかと言えば、そういった日常のイラッとすることやモヤモヤに対して、主人公のサムがガツンとぶつかりながら日々奮闘する生き様である。


生き様というと少し大袈裟かもしれない。でも、彼女は女優として働きながら、職場における“女性”の立場として苦労し、家に帰れば反抗期の娘たちに“母親”の立場として苦労し、同僚やママ友、娘たちと正面からぶつかっていく様はまさにカッコいい“女の生き様”なのだ。
その一方で、面白いことがあれば大声で笑う感情表現豊かなキャラクターでもある。このサムというキャラクターの魅力こそが、このドラマの大きな要素になっていて、日々をたくましく生きる彼女とその家族たちをケラケラと笑いながらも、いつしか観ている側も応援されているような気持ちに不思議となってくるのである。


このサムを演じるパメラ・アドロンは、このドラマの主演のみならず脚本、監督、プロデューサーをこなし、自ら働く女性、母親としての体験を作品に投影しているというから驚く。
そういったパーソナルな作品であるからこそ、娘たちに女性として生きる大変さ、同時にその素晴らしさを全身で説く姿に心が打たれるのも納得だなと思う。


ただ、今作を語る上で避けて通れない話題もある。アドロンと共同クリエイターだったルイス・C・Kがセクハラ被害を告発された事件ある。
事の詳細はここでは伏せるが、告発があったのは別の作品であったものの、ジェンダー差別や女性の社会進出を描いた今作に携わりながら、こういった性被害が起きてしまったことは本当にショックな出来事だと思う。


結果的に2017年にC・Kは作品から降板し、シーズン3以降はアドロンが1人でドラマを仕切ることになった。
正直に言えば、シーズン3以降からドラマの作風が変わってしまった印象は否めない。
ただ、シーズン2までが所謂“ファミリードラマ”であったのならば、それ以降の作品はよりリアルな日常の描写、例えるなら上質なエッセイのような、取り留めがないけども大切な日々の生活が丁寧に描かれる割合が増えたように思う。


ドラマは後半になるにつれ、幼かった娘たちも成長し、次第に親元から離れていく。そんな中でサムがひとりになり、家族に思いを巡らせるという場面がある。
そこに流れるのは、かの有名なモンティ・パイソンの「Always Look on the Bright Side of Life」である。「ライフ・オブ・ブライアン」のエンディング曲として知られている曲だが、その歌詞はこうである。

Some things in life are bad
They can really make you mad
Other things just make you swear and curse
人生は悪い時もある
めちゃくちゃに怒りたくなることもあるし
罵詈雑言を吐きたくなることもある


When you're chewing on life's gristle
Don't grumble - give a whistle
And this'll help things turn out for the best
And -
人生の苦みを噛み締めた時は
文句を言わずに口笛を吹こう
それがうまくいくかもしれないから


Always look on the bright side of life
Always look on the light side of life
だからいつも人生の輝いている方を見ていよう
人生の明るい方を見ていようよ

車で走るサムの上空には満点の星空がある。彼女の生き方、人生を讃えるかのように星は光り輝き、その先の未来の輝かしさを暗示するかのように幾つもの流れ星が流れる。
このドラマ、パメラ・アドロンは、何があっても前を向いていこう、そして何気ない家族とのひとときや毎日を大切に生きようということを、さりげなくも強く私たちに伝えてくれるのだ。

2022年エミー賞受賞結果

2022年のアメリカTVドラマの祭典エミー賞が終了した。こうして今年のドラマの顔が決まった訳だが、蓋を開ければ予想通りの受賞作もある一方で、疑問に思うような受賞も。予想と受賞結果とあわせて今年の感想について書きたい。

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●ドラマ部門


【作品賞】

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予想:サクセッション
結果:サクセッション
作品賞は納得の「サクセッション」である。これはシーズン毎に面白さを更新しているので至極当然の結果だろう。今年「も」無冠に終わった「ベター・コール・ソウル」はファイナルシーズンに期待なのだが、選考対象となる来年までライバルが現れないかかなり心配。とにかく「イカゲーム」が受賞しなくて良かった!


【主演男優賞】

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予想:ボブ・オデンカーク(ベター・コール・ソウル)
結果:イ・ジョンジェイカゲーム)
やはり話題性の強さにエミー会員も引っ張られてしまったのか、という印象。イ・ジョンジェの演技自体は全く悪くないのだが、他の候補を越えるほどかというと疑問。


【主演女優賞】

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予想:ゼンデイヤユーフォリア
結果:ゼンデイヤユーフォリア
これはもう誰もが納得の受賞だろう。ゼンデイヤ自身が皆から愛されている証拠でもあるし、「ユーフォリア」は彼女無くして成り立たないドラマだ。


助演男優賞

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予想:ジョン・タトゥーロ(セヴェランス)
結果:マシュー・マクファディン(サクセッション)
これは予想を外した。「サクセッション」最終話での鳥肌の立つような演技(そして展開)で言えば全く異論のない受賞だ。


助演女優賞

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予想:レイ・シーホーン(ベター・コール・ソウル)
結果:ジュリア・ガーナー(オザーク)
まさかジュリア・ガーナーが同じ役で3度目の受賞をするとは思わなかった。業界内評価が高い「オザーク」だけど、巷で本当に観ている人はいるの?そして「ベター・コール・ソウル」はエミー会員に何を嫌われてしまっているんだろうか?


【監督賞】

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予想: ベン・スティラー(セヴェランス)
結果:ファン・ドンヒョクイカゲーム)
今年のエミー賞で最も納得がいかなかった部門がこの監督賞だ。ベン・スティラーカリン・クサマの圧倒的なサスペンスの演出力、マーク・マイロッドのパワフルな画作りを超える瞬間が「イカゲーム」に果たしてあっただろうか?

 


脚本賞

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予想:ジェシー・アームストロング(サクセッション)
結果:ジェシー・アームストロング(サクセッション)
「サクセッション」の最終話の受賞は至極当然の結果。この作品、そしてTVドラマという土台を大きく底上げしたかのようなエピソードだった。

 


●コメディ部門

【作品賞】

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予想:アボット・エレメンタリー
結果:テッド・ラッソ
今回一番問題だと感じているのがコメディ部門である。「テッド・ラッソ」が前シーズンを上回る出来だったのであれば受賞も納得なのだが。他の候補も大概の作品ばかりで、これというパワーを持った候補作が無い。有力視されていた「アボット・エレメンタリー」すらも「ジ・オフィス」のフォーマットとキャラクターをなぞった焼き直しでしかないので、来年に向けてパワーある作品が生まれることを期待したい。


【主演男優賞】

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予想:スティーヴ・マーティン(マーダーズ・イン・ビルディング)
結果:ジェイソン・サダイキス(テッド・ラッソ)
面白みのない2年連続の受賞。スティーヴ・マーティンが秀でているということでも無いのだが、消去法で選ばれたような気がしてならない。


【主演女優賞】

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予想:クインタ・ブランソン(アボット・エレメンタリー)
結果:ジーン・スマート(Hacks)
これも昨年と同じく2年連続の受賞。いつからエミーはこんなにも保守的になってしまったんだろうか。


助演男優賞

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予想:アンソニー・キャリガン(バリー)
結果:ブレット・ゴールドステイン(テッド・ラッソ)
ロイ・ケントというキャラクターの良さが全く活かされなかったにも関わらず謎の受賞。


助演女優賞

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予想:ケイト・マッキノン(サタデーナイトライヴ)
結果:シェリル・リー・ラルフ(アボット・エレメンタリー)
ドラマ自体は微妙だがシェリル・リー・ラルフの受賞スピーチ、もとい歌唱スピーチは凄かった。


【監督賞】

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予想:ビル・ヘイダー(バリー)
結果:M・J・デレイニー(テッド・ラッソ)
なぜ「テッド・ラッソ」はこんなにも評価されているんだろうか?シーズン1は傑作だったが、守りに入ったシーズン2は本当に評価に値するのか?ビル・ヘイダーが今回も監督賞の受賞を逃す。そろそろ評価してやってくれ!


脚本賞

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予想:ステファニー・ロビンソン(シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア)
結果:クインタ・ブランソン(アボット・エレメンタリー)
フォーマットどころかパイロットの展開すらも「ジ・オフィス」に酷似していた「アボットエレメンタリー」の第一話が受賞とは・・・

 


●リミテッドシリーズ部門

【作品賞】

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予想:ホワイトロータス
結果:ホワイトロータス
個人的にもどハマりした「ホワイトロータス」が納得の受賞。グランドホテル形式のお手本のような構成とクセだらけのキャラクターの会話劇、俳優陣の演技、絶景のハワイのショット、すべての点で作品賞に値している。有力視されていた「DOPESICK」は結局1部門のみに終わった。


【主演男優賞】

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予想:マイケル・キートン(DOPESICK)
結果:マイケル・キートン(DOPESICK)
さすがに他の追随を許さない圧巻の演技だった。もちろんの受賞。


【主演女優賞】

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予想:マーガレット・クアリー(メイドの手帖)
結果:アマンダ・セイフリッド(ドロップアウト
話題性で受賞を決めるのは違うんじゃ無いか。あんなにも薄っぺらく葛藤も何も無いキャラクターを演じて主演女優賞とは笑ってしまう。


助演男優賞

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予想:マーレイ・バートレット(ホワイトロータス
結果:マーレイ・バートレット(ホワイトロータス
「パム&トミー」のセス・ローゲンの可能性もあると思っていたが、同じコメディでもバートレットに軍杯が上がった。


助演女優賞

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予想:ケイトリン・デヴァー(DOPESICK)
結果:ジェニファー・クーリッジ(ホワイトロータス
ケイトリン・デヴァーのヤク中演技はゼンデイヤのそれと並ぶと思っていたが、ここはドラマを引っ掻き回す助演どころか主演と言ってもいいジェニファー・クーリッジが受賞。スピーチ終了のBGMが流れ始めると踊り出してしまうパワフルさもさすがだった。


【監督賞】

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予想:ヒロ・ムライ(ステーション・イレブン)
結果:マイク・ホワイト(ホワイトロータス
脚本賞はマイク・ホワイトだろうと思っていたが、まさか監督賞も受賞するとは。

 


脚本賞

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予想:マイク・ホワイト(ホワイトロータス
結果:マイク・ホワイト(ホワイトロータス
脚本賞もホワイト。ここで「ホワイトロータス」の作品賞の受賞は確信した。

 

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以上が主要部門の受賞結果とその感想である。総じて見ると話題性に引っ張られた受賞が多い印象で、本当に作品自体が純粋に評価されているのか?と思ってしまう。先にも述べたようにコメディ部門に関しては保守的に走った結果、面白みのない受賞結果となった。今年のホストを務めたキーナン・トンプソンやTVアカデミーの会長も式の中で述べていたが、年々増加する番組とプラットフォームに視聴者は追いつかない状況である。(ボーウェン・ヤンの言うようにHBO Maxのように知らぬ間に消える番組も多くある訳であるし)
「誰もが面白いと思う作品」という評価に流されずに、限られた時間の中で本当に面白い作品を見つけることが、我々視聴者にとっても、エミー会員にとっても今後一番の課題になってくるだろう。